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第27話 彼女は女神

 所属が決まり、そのまた翌日。


 僕は学校組の集まりに参加していた。


 場所は王都近郊にある騎士団の訓練施設。


 学校へ戻る前に、今後の方針を決めるらしい。


「よし、それじゃあ始めるぞ」


 ハゲチャビン教頭が前へ出る。


 今日は王がいない。


 その為か、いつも通り偉そうだった。


「学校組の役目は生活基盤の確立だ」


 教頭は紙を見ながら続ける。


「農業職は農業班」


 数人が手を挙げる。


「鍛冶職人は鍛冶班。裁縫師は衣類製作班。ヒーラーは医療班」


 その他、固有職や特殊固有職を持つ者達も職業に合わせて次々と役割が決まっていく。


 思ったよりスムーズだった。


 職業がある者達は、自分の進むべき場所が最初から決まっている。


 気付けばほとんどの生徒が所属先を決めていた。


 残っている人数は少ない。


 そして。


 最後に残ったのは僕だった。


 なんとなく予想はしていた。


 むしろ僕以外に残る理由がある人間はいない。


「さて」


 教頭がこちらを見る。


「残りは百瀬か」


 視線が集まった。


 少し居心地が悪い。


「百瀬、何かできることはあるか?」


「うーん……」


 悩んでしまう。


 僕は何ができるのだろう。


「特技とかどうだ」


「特にはないですね」


 勉強も普通。


 運動も普通。


 部活もやっていない。


 無難に生きてきた結果だった。


 農作業をやれと言われれば手伝える。


 荷運びや掃除だってそれなりにこなせる。


 誰かの補助なら務まると思う。


 でも、それだけだった。


 農業職のように作物を育てる専門知識はない。


 鍛冶職人のように武具を作れるわけでもない。


 商人のように物資を管理できるわけでもない。


 何でもそこそこ。


 でも、これだけは誰にも負けないと言えるものはない。


 それが今になって、はっきりと形になって突き付けられていた。


「ふむ……」


 教頭が困ったように顎を撫でる。


「とりあえず雑務班だな」


「雑務班?」


「足りないところの手伝いだ」


 なるほど。


 便利な言い方をしているが、要するに余り物ということだろう。


「わかりました」


「よし。では次」


 話はそこで終わった。


 あっさりと。


 本当にあっさりと。


 周囲では班ごとに集まり始める。


 農業班。


 鍛冶班。


 建築班。


 医療班。


 みんな自分の居場所がある。


 僕だけがその輪の外にいた。


 雑務班。


 人数は一人。


 班というより僕だった。


 少しだけ笑えた。


 いや、笑えなかった。


 その時だった。


「百瀬君」


 名前を呼ばれる。


 振り返ると天道先輩だった。


 先輩はどの班にも所属せず、全体の調整役を任されている。


「少しいいかな?」


「はい」


 天道先輩は集まっている生徒達へ視線を向ける。


 そして再び僕を見た。


「百瀬君は職業がないから、みんな扱いに困っているみたいだね」


「まあ、そうですよね」


 事実だった。


 僕自身ですらどう扱えばいいのかわからない。


「でも」


 天道先輩は静かに続けた。


「役割がないのと、価値がないのは別だからね」


 真っ直ぐな目だった。


 励まそうとしてくれているのが分かる。


 彼女は女神なのかもしれない。


 なんだか後光まで差して見えてきた。


「ええ、そうですね」


「そうだよ」


 生徒会長で賢者。


 今も昔も、みんなから頼られている人。


 そんな彼女にそう言われると、不思議と少しだけ気持ちが軽くなった。


「ありがとうございます」


「うん」


 天道先輩は小さく頷いた。


「何か困ったことがあったら相談して。私は全体を見る立場だから」


 そう言って微笑む。


 すると遠くから教頭の声が聞こえた。


「天道君!」


「呼ばれちゃったみたい」


 天道先輩は苦笑する。


「それじゃあ、また後で」


 そう言い残して教頭の方へ向かっていった。


天道先輩の背中を見送る。


 しばらくその場に立っていたが、やがて各班の打ち合わせも始まった。


 農業班は畑の開墾計画について話し合っている。


 建築班は校舎の改修や施設の増築について相談していた。


 鍛冶班は必要な設備や材料の確認。


 医療班は薬草の確保や診療体制について話しているらしい。


 みんな忙しそうだった。


 そして、少しだけ羨ましかった。


 職業がある者達は、自分の役割がはっきりしている。


 やるべきことも、目指すべき場所も決まっている。


 それに比べて僕はどうだろう。


 雑務班。


 聞こえはいいが、要するに何でも屋だ。


 必要とされた場所へ行き、足りない部分を埋める。


 悪く言えば、どこにも属していない。


「まあ、今さらか」


 小さく呟く。


 無職なのだから仕方がない。


 むしろ班を作ってもらえただけマシなのかもしれない。


 そんなことを考えているうちに、会議は終了した。


 学校組の今後の方針も決まり、王都での予定もひとまず終わる。


 翌日。


 僕達は王都を後にした。


 行きと同じように馬車へ揺られながら街並みを眺める。


 石造りの建物。


 賑やかな市場。


 王都の景色は最後まで異世界らしかった。


 やがて城壁が遠ざかり、景色は森と草原へ変わっていく。


 馬車の揺れに身を任せながら、僕はぼんやり空を見上げた。


 王国へ来て、所属先が決まった。


 みんな少しずつ前へ進んでいる。


 なら、僕も進まなければならないのだろう。


 たとえ無職でも。


 たとえ雑務班でも。


 そうして数日ぶりに、僕達は学校へ戻った。


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