第26話 所属決めで取り残された
昨日の疲れを多少残しつつ、僕は欠伸をしながら他のクラスメイト達と再び王城へ向かっていた。
隣を見ると、湊も同じように欠伸をしている。
ふと視線を感じた。
そちらへ目を向けると、何故かギャル子がこちらを睨むように見ていた。
「なに?」
「昨日どこ行ってたのよ」
「王都中をあっち行ったりこっち行ったり」
「なんで昨日あたしのこと誘わなかったし」
「え? だって何も言われてないから」
「ふんっ」
足を蹴られた。
痛い。
「なにするのさ! あ、もしかして一緒に来たかった?」
「別にそんなこと言ってないし!」
そう言いながらも、どこか不満そうな顔をしている。
そしてそのまま踵を返し、一人で先へ行ってしまった。
「よくわからんな」
「あ、あの……百瀬くん」
名前を呼ばれて振り返ると、安羅幸がこちらを見ていた。
もじもじしている。
トイレかな?
「トイレなら早く行った方がいいよ。王様の話始まると行けなくなるだろうし」
安羅が顔を赤くしながら慌てて首を振る。
「ち、違うよ! そうじゃなくて、留子ちゃんのこと」
「るこ……? だれそれ?」
安羅が驚いた顔をする。
「ええ!? さっきまで話してたじゃない」
「さっきまで話してたのはギャル子だけど?」
何を言っているんだろうこの子は。
「その子が留子ちゃん!」
「……」
「どうしたの?」
「……ああ! ギャル子の本名か」
今の今まで忘れていた。
そうだ。
ギャル子の名前は伽螺留子だった。
「……ひどい」
安羅が悲しそうな顔をするが、そんなことを言われても仕方がない。
僕はギャル子のことをギャル子としか呼んだことがないのだから。
「それで? ギャル子がどうしたって?」
「あ、えっと。昨日百瀬くん達、朝早くから出かけちゃったでしょ?」
「うん。王都探索にね」
安羅がうなづく。
「留子ちゃん、朝からずっと百瀬くん達のこと探してたみたいで。もし時間あったらお話し聞いてあげて欲しいんだ」
「わかったよ」
僕がそう言ってうなづくと、安羅は嬉しそうに微笑んだ。
そして先に行ってしまったギャル子を追いかけるため、慌てて走り出した。
「さっきのは照れ隠しでヤンス。きっと一緒に王都探索したかったんでヤンスよ」
そうなのかね。もし時間があったら聞いてみよう。
そんなことを考えていると、ギャル子を追いかけていた安羅が盛大に転んだ。
「あっ」
派手な音が響く。
そういえば安羅は、昨日から腕や膝に絆創膏を貼っていた。
転ぶのは今に始まったことじゃないのかもしれない。
そんなことを思った。
だが、その時は特に気にも留めなかった。
◇
大広間へ到着すると、すでに騎士、貴族、神官達がずらりと並んでいた。
前回は職業鑑定を優先したため先延ばしになってしまった、僕達が召喚された理由や今後についての説明らしい。
全員が揃ったことを確認すると、王が立ち上がる。
周囲が静かになった。
「この世界へ召喚された理由について、詳しく話せなかった。改めてここで説明しよう」
王の声が広間に響く。
「まず先に伝えておきたいことがある」
生徒達が顔を見合わせる。
「諸君らを召喚したのは、我が王国ではない」
その言葉に広間がざわついた。
「え?」
「どういうことだ?」
戸惑いの声が上がる。
僕も思わず眉をひそめた。
召喚したのがこの国じゃない?
「正確には不明なのだ。我々は召喚の儀式を行っていない」
王は苦い表情を浮かべる。
つまり僕達は、理由も分からないままこの世界へ来てしまったということか。
広間は静まり返った。
「とはいえ、諸君らを放置するつもりはない。我が王国としては可能な限り支援し、協力をお願いしたいと考えている」
王は真っ直ぐこちらを見る。
「そして我々が諸君らに協力を願いたい理由だが――」
一度言葉を区切る。
「現在この世界は魔王軍との戦いの最中にある。魔王は魔物達を束ね、人類諸国へ侵攻を続けている」
生徒達の表情が引き締まる。
「過去の文献には、異世界から人を招いたという記録が残されている。そして、その際に光の柱が現れると。その光を見て我が国はそなた達を見つけることが出来たのだ」
第三騎士団が来た理由はこういうことだったのか。
天道先輩の方へ視線を向けると、納得したようにうなづいていた。
「また、文献には魔王を討った者は転移に関する力を得ることが出来るという記載もある。つまり、その転移の力が元の世界へ帰還できる可能性だ。……確証はないがな」
その言葉に空気が変わった。
「帰れるのか?」
「本当に?」
期待の声が漏れる。
僕も思わず顔を上げた。
帰れる。
その可能性があるのか。
だが王は首を横に振る。
「何度も言うが確証はない。文献は断片的であり、真実かどうかも分からぬ」
希望に満ちかけた空気が少しだけしぼむ。
「それでも我々は方法を探し続けるつもりだ。そして諸君らにも、この世界で力を貸してほしい」
王は深く頭を下げた。
国王が。
僕達に向かって。
広間がざわつく。
やがて王は顔を上げた。
「諸君らには今後、それぞれの適性に応じた所属へ分かれてもらう」
ざわりと空気が揺れる。
(中略・勇者組〜学校組の説明は現状のままでOK)
その後、所属希望の確認が始まった。
本人の意思と職業の適性を確認し、次々と行き先が決まっていく。
神武は勇者部隊。
聖華は神殿組。
英登先輩は騎士候補組。
湊は迷うことなく冒険者組へ向かった。
そして意外にもギャル子も冒険者組だった。
気づけば列はほとんどなくなっていた。
神武も。
聖華も。
英登先輩も。
湊も。
ギャル子も。
みんなそれぞれの居場所へ向かっている。
そして最後に残ったのは僕だけだった。
王も、神官達も、少しだけ困った顔をしている。
無理もない。
職業がないから決める判断材料がないのだ。
自分でさえどこへ行けばいいのかわからない。
学校組も拠点作りで建築関係の職業や農業関係の職業など、それぞれが役割を持っている。
「百瀬については学校組が妥当でしょうな」
前へ出たハゲチャビン教頭がそう告げた。
「無理に戦わせる必要もありますまい」
誰も反対しなかった。
神官達も。
騎士達も。
生徒達も。
王も静かに頷いていた。
当然だ。
職業を持たない僕に、他の選択肢などない。
「異論はあるか?」
王が尋ねる。
僕は首を横に振った。
「ありません」
あるはずがない。
「では以上とする!」
王のその言葉で所属分けは終了した。
生徒達はそれぞれの所属先の担当者に連れられ、少しずつ広間を後にしていく。
勇者部隊。
神殿組。
騎士候補組。
冒険者組。
それぞれが新しい居場所へ向かっていく。
その背中を見送りながら、僕は小さく息を吐いた。
皆が前へ進んでいく中。
僕だけは何も変わらない、少しだけ、そう感じた。




