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第25話 王都探索はまるで修学旅行

 翌日。


 僕と湊雲水は、朝早くから王都へ繰り出そうとしていた。


 宿舎の扉を開けて外へ出た瞬間、思わず足を止める。


「改めて見てもでかいよな」


目の前には巨大な城壁。


 灰色の石を積み上げて作られた壁は、まるで山のようだった。


 高さは二十メートル以上あるだろうか。


 その上では鎧を着た兵士達が見回りをしている。


 日本ではまず見ない光景だった。


「すごいでヤンスな」


 湊も珍しく感心したように見上げていた。


 城壁と王都を繋ぐ門を抜ける。


 そして。


「おお……」


 思わず声が漏れた。


 石畳の大通りが真っ直ぐ伸びている。


 その両側には石造りの建物が並び、赤や青の布が軒先から垂れ下がっていた。


 露店の店主達が大声で客を呼び込んでいる。


「焼きたてだよ!」


「今日の果物は甘いよ!」


「見ていきな!」


 威勢の良い声が飛び交う。


 馬車が通り過ぎる。


 荷台には木箱が山積みだった。


 その横を子供達が駆け抜けていく。


 商人が値段交渉をしている。


 旅人らしき男が地図を広げている。


 どこを見ても人がいた。


 活気がある。


 テーマパークなんかじゃない。


 本当に人が暮らしている街だった


「行くでヤンス!」


 湊が走り出す。


「待て!」


 僕達は慌ててその背中を追いかけた。


 ◇


 最初に連れて行かれたのは武器屋だった。


「剣でヤンス!」


 店へ入った瞬間、湊の目が輝く。


 壁には大小様々な剣が並んでいた。


 槍。


 斧。


 弓。


 見たこともない形の武器まである。


 金属の匂いが鼻をくすぐった。


「男の子だな」


「男の子でヤンス」


 即答だった。


 店主が苦笑している。


 完全に子供を見る目だった。


 ◇


 武器屋を出る。


 そのまま市場へ向かった。


 王都の中心部に近付くにつれ、人の数はさらに増えていく。


 色鮮やかな果物。


 見たこともない野菜。


 大きな魚。


 干し肉。


 香辛料。


 様々な商品が並んでいた。


 中には角の生えた牛のような生き物までいる。


「なんだあれ」


「牛でヤンスか?」


「知らん」


 雲水も知らなかった。


 少し安心した。


 香辛料の匂いが漂う。


 焼いた肉の匂いもする。


 腹が減ってきた。


「食うか」


「賛成でヤンス!」


 僕達は屋台で串焼きを買った。


 炭火で焼かれた肉からは湯気が立ち上っている。


 一口かじる。


「うま」


 肉汁が口の中へ広がった。


 香辛料も効いている。


 思わず二口目を食べてしまう。


「うまでヤンス」


 湊も幸せそうな顔をしていた。


 ◇


 市場を歩いていると、不思議なことに気付いた。


 騎士の姿が多い。


 大通り。


 市場。


 広場。


 どこへ行っても鎧姿の騎士が目に入る。


「警備が厳重だな」


 思わず呟く。


「王都でヤンスからな」


 湊は特に気にしていないようだった。


 確かに王都なのだから不思議ではない。


 そんなことを考えていると、近くを歩いていた騎士達の会話が耳に入った。


「転移者達か」


「ああ」


「今年は随分多いな」


 今年?


 思わず耳が反応する。


 だが。


「仕方ない」


 そこで会話は終わった。


 騎士の一人がこちらに気付き、口を閉ざしたのだ。


 もう一人もそれ以上何も言わない。


 そのまま二人は歩き去っていく。


「どうしたでヤンス?」


「いや」


 気のせいだろうか。


 今の会話に少しだけ引っかかるものを感じた。


 けれど。


「肉のおかわりでヤンス!」


 湊が元気よく叫ぶ。


 僕は小さく息を吐いた。


 考えても分からないことを考えるのは苦手だった。


 ◇


 市場を抜ける。


 すると広場へ出た。


 中央には大きな噴水がある。


 透き通った水が陽光を反射して輝いていた。


 周囲では人々が談笑している。


 子供達が走り回り。


 旅人達が休憩し。


 楽器を演奏する男の周りには人だかりまで出来ていた。


 平和だった。


 魔王が存在する世界とは思えないほどに。


「良い街だな」


 雲水がぽつりと言った。


「珍しく普通の感想だな」


「そうか?」


「ああ」


 少なくとも覚者がどうとか言い出さないだけ普通だった。


 雲水は広場を見渡しながら小さく笑う。何か見つけたのか?


「面白いな」


 ぽつりと呟くと、広場から視線を外した。


「何が?」


「別に」


 それだけだった。


 ◇


 その後。


 湊が見つけたのは大きな建物だった。


 入口には剣と盾の紋章。


「おおお!」


 湊のテンションが一段階上がる。


「冒険者ギルドでヤンス!」


 確かにそれっぽい。


 武器を持った男達が出入りしている。


 鎧姿の者も多い。


 いかにも冒険者という雰囲気だった。


「入りたいでヤンス」


「まだ所属も決まってないだろ」


「未来の職場見学でヤンス」


 意味は分からない。


 だが気持ちは分かる。


 結局、中へは入らなかった。


 ただ。


 湊は何度も振り返っていた。


 本当に好きなんだなと思う。


 ◇


 気付けば日も傾いていた。


 赤く染まり始めた王都を歩く。


 石造りの街並みは朝とは違う表情を見せていた。


 建物の影が長く伸びる。


 店じまいを始める露店。


 家路を急ぐ人々。


 遠くで鐘が鳴った。


 夕暮れを告げる音だった。


「楽しかったでヤンスな」


 湊が満足そうに言う。


「ああ」


「そうだな」


 僕と雲水が続けてうなづく。


 思っていたより楽しかった。


 異世界なんて現実味がなかったけれど。


 街を歩いて。


 人を見て。


 飯を食べて。


 ここは本当に全く知らない世界だった。


 僕達は夕日に染まる王都を背に、今日あった出来事を話しながら、宿舎へと戻っていった。

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