第20話 ギャルと謎すぎる男
「次は私かなー」
ギャル子が軽い調子で前へ出た。
緊張感なんて欠片もない。
王の前だろうが神官の前だろうが、いつも通りである。
ある意味すごい。
水晶の前に立つ。
手をかざす。
光が走った。
浮かび上がった文字は――
ギャル。
一瞬。
沈黙。
「……ギャル?」
神官が固まった。
周囲の反応も同じだった。
騎士達も困惑している。
王ですら眉をひそめていた。
「ギャルとは何でしょうか」
髭じい神官が真顔で尋ねる。
「いや、私に聞かれても」
ギャル子が困った顔をした。
それはそうだ。
手に持った本をパラパラとめくり、ギャル子と本の間を視線が行き来する。そして、しばらく沈黙した後、髭じい神官が咳払いをする。
「一応特殊固有職のようです。過去にも何名か存在したようで、基礎能力値は全体的に高く、どちらかと言うと生産職よりも戦闘職のようですな。そして、我が道を行き華やかな人生を生きる者と記載がありますが……正直に言ってしまうとよくわかりません。」
ギャルは戦闘職なのか。確かに、ギャルに言葉で勝てる気はしないし、あの長い爪は危険すぎる。
しかし、謎だ。
髭じい神官も、どこか複雑な表情を浮かべている。
だが職業として決まったのだから仕方がない。
ギャル子は肩をすくめながら戻ってきた。
「なんか勝った気がする」
「何にだよ」
思わずツッコんだ。
次に前へ出たのは湊だった。
「ついに拙者の番でヤンス!」
妙に張り切っている。
水晶の前に立つ。
手をかざす。
光が溢れる。
そして。
浮かび上がった文字は――
愚者。
「……愚者?」
髭じい神官が目を瞬かせた。
これまた聞き慣れない職業だったらしい。
手に持った分厚い本をパラパラとめくる。
周囲もざわつく。
しかし、今回のは本を記載があったようだ。髭じい神官のめくる手があるページで止まった。
「愚者とは、常識や既存の枠組みに囚われず行動する特殊な者とされているようです」
髭じい神官が慎重に説明した。
「古い言葉に『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』というものがあります。しかし愚者は時に歴史すら無視して未知へ踏み込みます。その先で破滅するか、大成するかは本人次第。気をつけてください」
意味深な口調で付け加えた。
「おおおお!」
湊が感動している。
説明を聞いているのか怪しい。
「つまり拙者、自由人でヤンスな!」
「まあ、そういう解釈もできるかもしれないな」
湊は満面の笑みだった。
細かいことは気にしていない。
幸せな奴である。
そして。
残るは二人。
雲水。
そして僕。
雲水が前へ出る。
「はっはっはっ」
いつもの笑い声。
緊張している様子はない。
いや。
よく考えたらこいつが緊張している姿を見たことがなかった。
雲水は水晶の前へ立つ。
そして。
手をかざした。
次の瞬間だった。
水晶が眩く輝いた。
今までとは比べ物にならないほどの光。
「なっ――」
神官が目を見開く。
騎士達がざわめく。
王が立ち上がった。
そして。
水晶に文字が浮かび上がる。
そこに記されていた職業は――。
そこに記されていた職業は――
覚者。
一瞬。
沈黙が流れた。
「……覚者?」
髭じい神官が首を傾げ、本へ視線を落とす。
「誰か知っておる者はおらんのか?」
王が周囲を見渡す。
しかし、返事はない。
神官達は揃って首を横に振った。
「申し訳ありませぬ。聞いたことのない職業です」
本から顔を上げると、髭じい神官が答える。
王も少しだけ困った顔をした。
「また変わった特殊固有職か」
確かに。
ギャルだの霊長類最強だの英国紳士だのが存在する世界だ。
今さら覚者と言われても、よく分からない職業が一つ増えただけである。
「雲水殿。何か心当たりはありますかな?」
髭じい神官が尋ねる。
雲水は頭をぽりぽりと掻いた。
「さあな」
そして。
いつものように笑う。
「はっはっはっ」
相変わらずである。
「俺は職業なんぞ、何だって構わない」
あっさりと言った。
「覚者とやらになったからといって、急に偉くなった訳でもあるまいしな」
「それは……そうかもしれませんが」
神官が困惑している。
「はっはっはっ。まあ気にするな。こんなこともあるさ」
雲水は豪快に笑いながらそう言うと、髭じい神官の肩をバシバシと叩く。
お前は何様なんだ。
雲水が何もなかったかのように僕の隣に戻ってくると、周囲もそれ以上は追及しなかった。
誰もわからないのだから仕方ない。
こうして雲水の職業判定は、なんとも締まらない形で終わった。
そして。
残るは一人。
全員の視線が集まる。
――僕だ。
なんだか胸がざわざわする。
今までの流れを見る限り、まともな職業が出るとは限らない。
だが、ここまで来たらやるしかない。
どうせだったら、剣士とか魔法使いみたいな普通な職業いい。もし特殊固有職なら天地雷鳴士でお願いしたい。
僕は小さく息を吐くと、一歩前へ踏み出した。




