第19話 選ばれしものたち
静寂の中。
天道先輩が一歩前へ進んだ。
赤い絨毯の上を、ゆっくりと歩いていく。
その姿だけで場の空気が変わる。
さすがだと思った。
「こちらへ」
神官の声が響く。
天道先輩は迷いなく水晶の前に立った。
「手をかざしてください」
言われた通りに手を置く。
一瞬。
水晶が淡く光った。
次の瞬間。
水晶の上に文字が浮かぶ。
賢者。
「おお! これは……」
神官が目を大きく開く。
ざわり。
謁見の間がざわめきに包まれた。
「賢者――卓越した知識と魔法の才を併せ持つ者に与えられる職業です」
神官は興奮を抑えきれない様子で続けた。
「多くの魔法を自在に扱い、時には王や学者達の師ともなる存在と伝えられております。伝承では、国難を知恵によって乗り越えた偉大な人物が賢者であったと言われています」
神官は敬意を込めるように説明した。
「なお、職業は大きく下級職・中級職・上級職に分けられます。下級職であれば騎士見習いや鍛冶見習い。中級職であれば騎士や鍛冶職人。上級職は職の最上位である騎士団長や上級鍛冶職人となります」
神官はそこで一度言葉を切り、更に続けた。
「そして、そのどれにも属さない固有職と特殊固有職というものが存在します。固有職は珍しいですが過去に何人か存在が確認されている職業。特殊固有職はその人のみが持つ職業で、伝説や神話に出てくる職業です。賢者もその一つで、この国の歴史でも遠い昔に一人だけいた……と記録がある非常に希少な職業です」
天道先輩は顎に手を当て、しばし考える仕草をしたのち、納得したようにうなずいた。
ふと王の表情を見ると、薄っすらと笑みが浮かんでいた。
天道先輩は静かに一礼する。
そして集団の位置まで下がった。
「次は俺が行こう」
神武が一歩前へ出る。
迷いがない。
堂々とした歩き方だった。
水晶に手をかざす。
光が走る。
そして。
浮かび上がった文字は――勇者。
一瞬の沈黙。
次の瞬間、どよめきが爆発した。
「勇者……本物か」
「伝説の職業……」
周囲のざわめきが止まらない。
王も騎士達も、信じられないものを見るような目で神武を見つめている。
「勇者もまた特殊固有職です!」
神官の声が震えている。
「この世界を救う存在と言い伝えられた伝説の職業で、高い身体能力と魔力を兼ね備え、多くの職業技能を習得しやすいと言われています。また、仲間を導く資質を持つとも伝承に記されています」
神官は興奮を抑えきれない様子で答える。
「さらに、古い文献には勇者が魔物の大軍を退けた話や、世界規模の災厄を鎮めた話が残されております。ただ、その多くは伝説の域を出ず、詳細は失われています」
神武は納得したようにうなずいた。
漫画やゲームの扱いでも勇者の存在は凄いものとして描かれるが、現実だとこんな感じになるのか。
隣にいる湊が羨ましそうに神武を見つめている。
神武は軽く息を吐くと、一礼した。
そして踵を返し、天道先輩と同じように集団へ戻る。
その後も次々と職業が調べられた。
村雨先生は『侍』。
こちらは特殊ではないが固有職ではあるらしく、剣道部の顧問をしている先生らしい職業だった。
ハゲチャビン教頭は『支配者』。この固有職は権力者や貴族なんかに多いらしい。ハゲチャビンはその職業にとても満足したのか、嬉しさによる興奮で鼻息が荒くなっている。
次に鑑定したのはゴリマッチョ。特殊固有職『霊長類最強』だった。
これは流石に王や騎士達も頭の上にハテナを浮かべていた。
職業の詳細としては、その名の通りとのこと。いや、よくわからん。しかしゴリマッチョはどこか納得したように、うんうんとうなづいていた。
「ゴリラは霊長類最強と言われているでヤンス! つまりゴリマッチョの職業はゴリラでヤンス!」
と、湊が得意げに説明してくれた。
なるほど。
ゴリマッチョだし納得。
次の鑑定者は英登先輩だった。
職業は特殊固有職『英雄』。
勇者や賢者と同じように周囲がざわめいていたので凄い職業らしい。
どうやら将来的に英雄となる素質を持つ者に与えられる職業だとかで、神官達も感嘆の声を漏らしていた。
そして、その英登先輩に続いて職業を調べたのが一年の神楽坂聖華だった。
彼女もまたこの場を盛大に驚かす結果を出すことになった。
学園内では天道先輩と並ぶ有名人であり、整った容姿から男女問わず人気の高い聖華は、特殊固有職の『聖女』。
これはファンタジーでは定番の、よく聞く職業だなと思っていたら、突然鑑定していた神官が突然泡を吹いて倒れた。
周囲は軽く騒然となる。
どうやら神官達のような聖職者にとって、聖女は何よりも貴重で神聖な存在らしい。
ちなみに泡を吹いて倒れた神官はすぐさま別の神官によってどこかへ運ばれていった。
そして代わりに、お爺ちゃん神官がやって来た。
どこか偉そうである。いや、実際偉いのかもしれない。立派な髭を蓄えた老人は大抵偉いのだ。髭じいと呼ぼう。
その髭じい神官が来たことで、場の空気が少し変わった気がした。
その後も剣士や騎士、鍛冶職人といった職業に加え、プロレスラー、愛の守護者、英国紳士なんていう変わった特種固有職の者もいた。
そして残るは、ギャル子と湊と雲水、そして僕だけとなった。
不思議な職業が次々と現れる中、自分が何になるのかまったく想像がつかない。
せめて変な職業にだけはなりませんように――そう神に祈ることしか、今の僕にはできなかった。




