第2話 突然見知らぬ場所へ
朝のホームルーム前、担任が来るまでまだ十分と時間がある。
夏休み目前ということもあり、夏休みの予定を話す声があちこちから聞こえてくる。
「おい由良」
「なに?」
「夏休み暇だから、一緒に山へ籠もるぞ」
前の席から雲水が振り返る。
相変わらず無表情だ。
無表情なのに目だけは本気だった。
「嫌だよ」
「なぜだ」
「高校生の夏休みに山籠もりを提案する奴がいるか」
「いるぞ」
「確かにな。目の前にはいる。だけどそういうことじゃない」
「ちなみに吾輩は賛成でヤンス」
隣から湊が会話に入ってくる。
今日も分厚いぐるぐる眼鏡だ。
レンズの向こう側は何も見えない。
本当に見えているのかたまに不安になる。
「お前もかよ」
「ロマンでヤンス」
「山籠もりにロマンなんてかけらもないだろ。絶対途中で帰りたくなるよ」
「その時は由良殿がおぶってくれるでヤンス」
「崖から投げ捨てるぞ」
そんなくだらない話をしていると、
「ねぇ」
聞き慣れた女子の声がした。
振り返る。
ギャル子だ。
もちろん本名ではない。
本名は確かーー何だっけ。
忘れてしまったけど、でもクラスの男子の八割くらいはギャル子って呼んでいる。
僕が呼び始めたことがきっかけなのは、ギャル子に口が裂けても言えない。
「どうしたの?」
「消しゴム貸してくんない?」
「自分のは?」
「なくしたし」
「何個目?」
「五個目くらいじゃん?」
「馬鹿じゃん」
「失礼だし」
言いながら普通に受け取っていく。
返す気はなさそうだ。
「今度はちゃんと返せよ」
「いつも返してるし」
「米粒の大きさになってたけどな」
「一等米目指したの。美味しそうな米粒だったっしょ?」
「ああ、あれはいい品質のコシヒカリ……じゃねーよ!」
こいつ、本当に反省しないな。
そんなやり取りを見ていた雲水がぽつりと言った。
「平和だな」
「急になに」
「いや」
雲水は窓の外を見る。
「こういう日常は突然終わるものだからな」
「死亡フラグみたいなこと言うなよ」
「大丈夫だ」
「なにが?」
「俺が回収してやる」
「いや絶対回収しちゃダメだろ」
「由良殿は一級フラグ建築士でヤンス」
「お前も乗るな」
「フラグって何? カエルのこと?」
「それはフロッグな?」
4人で笑う。
いつもと変わらない日常。
突然――
教室全体が激しく揺れ出した。




