第2話 突然見知らぬ場所へ
話は少し前に遡る。
僕達がまだ平和な高校生活を送っていた頃の話だ。
この時の僕は知らなかった。
数日後、自分が無職になって洞窟で暮らすことになるなんて。
◇
朝のホームルーム前、担任が来るまでまだ十分と時間がある。
夏休み目前ということもあり、夏休みの予定を話す声があちこちから聞こえてくる。
「おい由良」
「なに?」
「夏休み暇だから、一緒に山へ籠もるぞ」
前の席から雲水が振り返る。
相変わらず無表情だ。
無表情なのに目だけは本気だった。
「嫌だよ」
「なぜだ」
「高校生の夏休みに山籠もりを提案する奴がいるか」
「いるぞ」
「確かにな。目の前にはいる。だけどそういうことじゃない」
「ちなみに吾輩は賛成でヤンス」
隣から湊が会話に入ってくる。
今日も分厚いぐるぐる眼鏡だ。
レンズの向こう側は何も見えない。
本当に見えているのかたまに不安になる。
「お前もかよ」
「ロマンでヤンス」
「山籠もりにロマンなんてかけらもないだろ。絶対途中で帰りたくなるよ」
「その時は由良殿がおぶってくれるでヤンス」
「崖から投げ捨てるぞ」
そんなくだらない話をしていると、
「ねぇ」
聞き慣れた女子の声がした。
振り返る。
ギャル子だ。
もちろん本名ではない。
本名は確かーー何だっけ。
忘れてしまったけど、でもクラスの男子の八割くらいはギャル子って呼んでいる。
僕が呼び始めたことがきっかけなのは、ギャル子に口が裂けても言えない。
「どうしたの?」
「消しゴム貸してくんない?」
「自分のは?」
「なくしたし」
「何個目?」
「五個目くらいじゃん?」
「馬鹿じゃん」
「失礼だし」
言いながら普通に受け取っていく。
返す気はなさそうだ。
「今度はちゃんと返せよ」
「いつも返してるし」
「米粒の大きさになってたけどな」
「一等米目指したの。美味しそうな米粒だったっしょ?」
「ああ、あれはいい品質のコシヒカリ……じゃねーよ!」
こいつ、本当に反省しないな。
そんなやり取りを見ていた雲水がぽつりと言った。
「平和だな」
「急になに」
「いや」
雲水は窓の外を見る。
「こういう日常は突然終わるものだからな」
「死亡フラグみたいなこと言うなよ」
「大丈夫だ」
「なにが?」
「俺が回収してやる」
「いや絶対回収しちゃダメだろ」
「由良殿は一級フラグ建築士でヤンス」
「お前も乗るな」
「フラグって何? カエルのこと?」
「それはフロッグな?」
4人で笑う。
いつもと変わらない日常。
突然――
教室全体が激しく揺れ出した。




