第1話 ここは洞窟
人生は無難が一番だと思う。
目立たない。怒られない。
余計な面倒事に巻き込まれず、余計なことをしない。
これ一番重要。
そしてそれが一番楽な生き方。
少なくとも僕はそう思っていた。
学校ごと異世界へ飛ばされるまでは。
◇
洞窟の天井を見上げる。
むき出しの岩肌。
どこからか落ちる水滴の音。
薄暗い空間。
三日も暮らせば慣れる。
慣れたくはなかったけど。
「由良」
「なに?」
「腹が減った」
向かいの壁にもたれている南雲雲水が言った。
変人である。
説明は以上だ。
「僕も減ってるよ」
そう答えた瞬間。
ぐぅぅぅ。
腹が鳴った。
僕のだ。
「由良殿」
「なに?」
「喉が渇いたでヤンス」
今度は勘解由小路湊。
声に出すたび思う。
名前が長い。
初めて聞いた時は平安貴族かと思った。
実際、実家はかなりの金持ちらしい。
そしてこいつも変人。
「僕も渇いてるよ」
喋るたびに喉が張り付く。
幸い水だけはある。
洞窟の奥で湧き水を見つけた。
問題は食料だった。
「というか、なんでみんな僕に言うんだ」
「大ピンチだからでヤンス」
「まあ、それはそうなんだけど」
「由良が一番落ち着いているからな」
雲水が言う。
「いや、これでも焦ってるつもりなんだけど」
「本当か?」
「本当だよ」
「はっはっはっ! その顔では分からんな」
雲水が笑う。
表情は全く変わっていない。
たぶんこいつの笑いは一般人と仕様が違う。
「由良殿」
「今度はなに?」
「寝床も未完成でヤンス」
湊が洞窟の隅を指差した。
枝。
落ち葉。
途中で放置された何か。
たぶん寝床予定地だ。
「食料もない、水も最低限、寝床もない」
湊が指を折る。
「これは詰みでヤンス」
「言葉にすると急に現実感が出るな」
周囲を見渡す。
岩。
岩。
岩。
見事なくらい岩しかない。
拠点というより、たまたま雨風をしのげる穴だ。
「男しかいないのも問題でヤンスな」
「急に何を言う」
「いや、大事だろ」
「大事でヤンス」
「大事だな」
なぜそこだけ意見が一致するんだ。
「そういえば由良」
「ん?」
「無職ってどんな気分なんだ」
「やめろその話題」
小石を拾って投げる。
湊の額に命中した。
「あだっ」
「最悪だよ。最初からずっと」
あの日。
学校ごと異世界へ飛ばされた。
そして生徒達は次々に職業を授かった。
勇者。
剣士。
魔法使い。
聖女。
聞くだけならゲームみたいだ。
実際、みんな結構盛り上がっていた。
僕も少しだけ期待した。
少しだけだ。
なのに。
僕だけ。
無職だった。
「貴重なサンプルでヤンス」
「人を珍獣扱いするな」
「唯一無二でヤンス」
「褒めてる?」
「自由に解釈して欲しいでヤンス」
「しかし」
雲水が洞窟の外を見る。
入口の向こうには見知らぬ森が広がっていた。
「学校を出て三日か」
「あっという間でヤンスな」
「濃すぎるよ、いろいろ」
初日は野宿。
二日目は拠点探し。
三日目の今日は食料問題。
ずっと生存イベントだ。
僕はもっと普通に生きる予定だった。
放課後にコンビニへ寄って。
適当にゲームをして。
動画を見て。
寝る。
そんな人生。
それが一番楽なはずだった。
「人生分からんものでヤンス」
「ほんと、それ」
笑う余裕はまだない。
ただ。
どうしようもない現実だけがここにある。
そして多分。
――僕だけ無職になった理由も、まだ分からないままだ。
ちょこちょこ文章の修正加えてます。すみません!
でも大きなストーリーの変更はしないようにしているので大丈夫!……多分。
ちなみに登場人物の名前はこちら。
百瀬由良
南雲雲水
勘解由小路湊




