第1話 異世界洞窟生活始めました
人生は無難が一番だと思う。
そう思っていたはずなのに。
気がつけば……何故か、無難とは真逆の人生を送ることになっていた。
洞窟の天井を見上げる。
むき出しの岩肌。
どこからか落ちる水滴の音。
薄暗い空間。
三日も暮らせば慣れる。
慣れたくはなかったけど。
「由良」
「なに?」
「腹が減った」
向かいの壁にもたれている南雲雲水が言った。
「僕も減ってるよ」
そう答えた瞬間。
ぐぅぅぅ。
腹が鳴った。
とても正直な僕のお腹である。
「由良殿」
今度は勘解由小路湊が、グルグル眼鏡を向こうからこちらに視線を向けてくる。
相変わらずその眼鏡はどうなっているんだろう。何故グルグルしているのか。変わったデザインをしている。
「由良殿!」
「あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「吾輩、喉が渇いたでヤンス」
「そりゃ、僕も同じだよ」
喋るたびに喉が張り付く。
「というか、なんでみんな僕に言うんだ」
「大ピンチだからでヤンス」
「まあ、それはそうなんだけど」
「由良が一番落ち着いているからな」
雲水が言う。
「いや、これでも焦ってるつもりなんだけど」
「本当か?」
「本当だよ」
「はっはっはっ! その顔では分からんな」
雲水が笑う。
表情は全く変わっていない。
たぶんこいつの笑いは一般人と仕様が違う気がする。
「由良殿」
「今度はなに?」
「平安時代から続く、勘解由小路家の末裔として、吾輩こんなところでくたばれないでヤンス」
「はっはっはっ!大丈夫だ、骨は俺が拾ってやる」
雲水が湊の肩をたたく。
「そう言うことじゃないでヤンス!」
「じゃあどういうことだ?」
「食料もない、水も最低限、寝床もない」
湊が指を折る。
「これは詰んでるでヤンス」
「言葉にすると急に現実感が出るな」
周囲を見渡す。
見事なくらい岩しかない。
拠点というより、たまたま雨風をしのげる穴だ。
「男しかいないのも問題でヤンスな」
「急に何を言うんだ」
雲水が不思議そうな顔をする。
「いや、大事だろ」
「大事でヤンス」
なぜかそこだけ湊と意見が一致する。
「そんなことより由良」
「ん?」
「無職ってどんな気分なんだ」
「やめろその話題」
小石を拾って投げる。
雲水が避ける。
「最悪だよ。最初からずっと」
僕たちが学校ごと異世界へ飛ばされ、そして王城へ行き、次々に職業を授かったあの日のことを思い出す。
勇者や剣士。賢者に聖女。
聞くだけならゲームみたいだけど、実際、みんな結構盛り上がっていた。
僕も少しだけ期待していた。
けれど……結果はこの世界で唯一の、無職。
「貴重なサンプルでヤンス」
「人を珍獣扱いするな」
「唯一無二でヤンス」
「褒めてる?」
「自由に解釈して欲しいでヤンス」
「しかし」
雲水が洞窟の外を見る。
入口の向こうには深い森が広がっていた。
「本当になんとかしないとな」
「そうだね」
僕たち三人は、この先どうなるんだろうか。
僕はもっと、普通に生きる予定だった。
放課後にコンビニへ寄って。
適当にゲームをして。
動画を見て。
暖かい布団で寝る。
そんな無難で平凡な人生を望んでいたはずなのに。
僕達の異世界洞窟生活は、あの日から始まった。
ちょこちょこ文章の修正加えてます。すみません!
でも大きなストーリーの変更はしないようにしているので大丈夫!……多分。
ちなみに登場人物の名前はこちら。
百瀬由良
南雲雲水
勘解由小路湊




