第17話 ここはアルヴァニア王国
巨大な城壁が近付くにつれ、生徒達の興奮も高まっていった。
僕も例外じゃない。
正直かなりワクワクしている。
いや、怖さもある。
でもそれ以上に好奇心が勝っていた。
「由良殿」
「なに?」
「あれを見るでヤンス!」
湊が窓の外を指差した。
街道の脇を歩いている人影。
その耳が妙に長い。
そして見たことのないほど美形。
「……あれはまさか!」
「オタクの憧れの種族! エルフでヤンス!」
「めっちゃ美人だし……」
ギャル子も身を乗り出す。
「服装もエロいでヤンス!」
確かに布面積が少ない。
男子高校生には刺激が強い服装だ。
ありがたいけど。
「はっはっはっ。次は小人族でも探すか」
雲水も相変わらず楽しそうだった。
◇
やがて馬車の列は王都の門へと到着した。
近くで見るとさらに大きい。
もはや壁だった。
門というより要塞である。
「うわ……」
思わず声が漏れる。
見上げるだけで首が痛い。
門の両脇には騎士達が並んでいた。
槍を持ち、微動だにしない。
その姿だけで威圧感がある。
「開門!」
号令が響く。
次の瞬間。
ギギギギギ――。
重い音を立てながら巨大な門が開いていく。
そして。
王都の景色が姿を現した。
「おおおおお!」
歓声が上がった。
石畳の大通り。
並ぶ建物。
色とりどりの看板。
中央には大きな噴水。
道を行き交う人々。
まるでゲームの世界だった。
「すご……」
ギャル子が呟く。
「ちょっと待って。ほんとに異世界じゃん」
「今さら?」
「いや、分かってたけど!」
分かる。
僕も同じ気持ちだった。
森やゴブリンよりも。
こうして人の暮らしを見る方が異世界を実感する。
◇
王都の人々もこちらを見ていた。
当然だろう。
六百人近い集団を乗せた馬車だ。
目立たない訳がない。
ざわつく声が聞こえてくる。
「由良殿」
「なに?」
「人気者でヤンス」
「これは悪目立ちだと思う」
「異世界デビューでヤンス」
「したくない」
即答した。
◇
しばらく街中を進む。
賑やかな市場。
立ち並ぶ商店。
行き交う人々。
王都は想像していた以上に活気に満ちていた。
だが、その先に見える光景に思わず目を奪われる。
「まだ壁がある……」
王都の中心部。
そこには更に巨大な城壁が築かれていた。
外壁にも負けないほど高く厚い。
まるで街の中にもう一つの要塞が存在しているようだった。
「二重構造でヤンスか」
湊が感心したように呟く。
巨大な門を抜けると、周囲の雰囲気が一変した。
人通りが少ない。
代わりに立派な建物が並んでいる。
兵士や騎士の姿も目立った。
どうやら王族や貴族、それに国の重要施設が集まる区画らしい。
さらに奥へ進む。
遠くには王城らしき巨大な建造物も見えた。
そして、その近くにある大きな建物の前で馬車が止まる。
白い壁。
赤い屋根。
三階建ての巨大な建物。
王城には及ばないが、それでも十分豪華だった。
生徒達は続々と馬車から降りる。
「皆さん」
天道先輩が全員馬車から降りたのを確認した後、前へ出る。
自然と生徒達の視線が集まった。
「こちらが、しばらく私達が生活する施設になります」
ざわめきが起こる。
少なくとも体育館よりは遥かに快適そうである。
ベッドもあるらしい。
それだけで感動だ。
「長旅で皆さん疲れたと思います。今日は各自休息を取ってください」
天道先輩は続ける。
「明日、国王陛下との謁見が予定されています」
ざわり。
空気が揺れた。
国王陛下との謁見。
その言葉だけで緊張する。
「そして」
天道先輩は一度言葉を切る。
「その場で職業鑑定も行われます」
周囲が静まり返った。
職業鑑定。
昨日も聞いた言葉だ。
だけど妙に気になる。
この世界の人間は、生まれながらに職業を持つらしい。
そう聞いている。
なら僕達はどうなるのか。
勇者。
賢者。
騎士。
魔法使い。
それとも別の何かか。
「由良殿」
「なに?」
「吾輩は大魔導師でヤンス」
「まだ決まってないだろ」
「決まってるでヤンス」
「根拠は?」
「かっこいいからでヤンス」
駄目だこいつ。
全く参考にならない。
だけど。
職業鑑定か。
不安もある。
期待もある。
明日になれば、僕達はこの世界での自分を知ることになるのかもしれない。
そんなことを考えながら、僕は王城の近くに建つ宿舎を見上げた。




