15話 代表者の出発
第15話 出発
王国へ向かう代表者が決まった翌日。
校庭では、王国へ向かう代表者達が出発の準備をしていた。
騎士団が馬や馬車を整え、生徒達もそれぞれ別れの挨拶を交わしている。
僕はその様子を少し離れた場所から眺めていた。
少し離れた場所にいた湊が、なぜか急に真顔になる。
そして周囲をかき分けるようにして、ずんずんと神武のところまで歩み寄った。
「神武殿」
「なんだ?」
「一つ頼みがあるでヤンス」
「お、おう?」
突然距離を詰められた神武も少し困惑している。
そして湊は神武の肩を掴んだ。
「お姫様がいたら紹介してください」
「それ餞別じゃねぇだろ」
思わず突っ込んだ。
周囲から笑い声が漏れる。
「努力する」
神武も苦笑していた。
「約束でヤンスよ」
「約束はしてない」
さすが神武。
ちゃんと否定した。
「はっはっはっ!」
雲水が笑う。
今日も平常運転らしい。
そんなやり取りの後。
代表者達は騎士団と共に王国へ向かっていった。
馬に乗る者。
馬車に乗る者。
その姿が森の向こうへ消えていく。
気付けば校庭は静かになっていた。
天道先輩も。
神武も。
星英登も。
福野副会長も。
みんな居なくなった。
少しだけ心細い。
◇
代表者達が出発した後。
学校では特にやることがなかった。
教師達は周辺の警戒。
生徒会役員は物資管理。
その他大勢は待機。
異世界なのに暇だった。
僕達三人も特にやることがない。
「由良殿」
「なに?」
「暇でヤンス」
「僕も」
「暇だな」
雲水も頷く。
三人揃って体育館の壁にもたれていた。
「冒険とかないのでヤンスか」
「行きたいの?」
「行きたいでヤンス」
「僕は行きたくない」
即答だった。
ゴブリンがいるのだ。
冒険より安全がいい。
平和がいい。
できれば布団も欲しい。
「由良は小心者だな」
「慎重派と言ってほしい」
「同じでヤンス」
「違う」
多分違う。
きっと違う。
そういうことにしておく。
◇
夕方。
校庭が騒がしくなった。
騎士団と共に、王国へ向かっていた代表者達が戻って来たのだ。
生徒達が一斉に外へ集まる。
「帰って来た!」
「どうだったんだ!?」
「王国って本当にあるのか!?」
質問が飛び交う。
代表者達も少し疲れているようだった。
だが。
その表情は明るい。
天道先輩が前へ出る。
「皆さん」
自然と静かになる。
やっぱり凄い人だ。
「報告があります」
全員が耳を傾けた。
「まず結論から言います」
一度言葉を切る。
「私達は全員、王国へ移動することになりました」
体育館がざわつく。
当然だ。
つい昨日まで日本にいたのに。
今度は王国へ引っ越しらしい。
「食料、水、住居の提供も受けられます」
安堵の声が広がる。
中には泣き出す生徒もいた。
無理もない。
みんな不安だったのだ。
だが。
天道先輩はそこで終わらなかった。
「それと、もう一つ」
表情が少し真剣になる。
「王国で分かったことがあります」
体育館が静まり返る。
「この世界には職業があります」
職業?
教師とか会社員とかそういう話だろうか。
だが、天道先輩の様子は違った。
騎士、魔法使い、神官、鍛冶師。聞いたことのない単語が次々と並ぶ。
いや、聞いたことはある。ただし、ゲームやアニメの中で。
「そして王国は、私達全員の職業を調べると言っています」
体育館がざわつく。
何だそれ。意味が分からない。
「詳細については、王国到着後に説明されます」
天道先輩はそう締めくくった。
ゲームみたいな話だった。
だけど、誰も笑わない。
ゴブリンがいて、騎士がいて、王国が存在する。
そんな世界なのだ。
今さら職業があってもおかしくない。
「由良殿」
「なに?」
「吾輩は賢者だと思うでヤンス」
「君の職業はただのオタクだ」
「失礼でヤンス!由良殿は村人でヤンス!」
「そっちの方が失礼だろ」
「はっはっはっ!」
雲水が笑う。
僕も苦笑した。
この時の僕はまだ知らない。
王国で待ち受ける現実が。
そして、その職業というものが。
僕達の立場や未来にまで関わってくることを。
まだ想像もしていなかった。




