第13話 異世界最初の夜
異世界一日目の夜。
それはもっと絶望的なものになるかもと思っていた。
でも実際は少し違った。
体育館には非常灯が点いている。
備蓄倉庫から持ってきた毛布もある。
トイレも使える。
スマホは圏外だけど、バッテリーは残っている。
なんだか少し修学旅行みたいでワクワクする。
「由良」
「なに?」
「楽しそうだな」
「ちょっとね」
「こんな状況なのにおかしなやつだな。はっはっはっ」
この異常な状況で少しハイになっているのは否定出来ない。
教師と生徒会役員主体で夕飯が配られた。
乾パン。以上。
高校生男子の胃袋には圧倒的に足りないが、わがままは言えない。
「こんなんじゃ足りねーよー!」
「もっと寄越せ!」
「缶詰とかあんだろー!」
生徒会役員に対してわがままを言っているのは、不良トリオの三馬、加藤、里桜だ。
恥ずかしい。ああはなりたくない。
「由良殿」
「なに?」
「肉が食べたいでヤンス」
「そうだね」
「よく見ると由良殿って程よい肉付きで、肌も綺麗でなんだか美味しそうでヤンスね。齧ってもいいでヤンスか?」
「いい訳あるか!」
「冗談でヤンス」
嘘つけ。ヨダレ垂れてるぞお前。
「由良」
後ろから声をかけられ、振り返るとギャル子だった。
「ん? どうした?」
「……」
黙ったままギャル子がモジモジしてる。
「トイレでヤンスか?」
「な! 勘解由小路、あんたってほんとデリカシーってもんがないの!?あり得ないんだけど!」
「吾輩、乙女心は熟知してるでヤンス。今まで何人の乙女を落として来たことか」
「ゲームの中でだろ」
とりあえず、湊は無視。
「んで、どうしたの?」
「え、ああ。ちょっと話したいと思って」
「いいけど、何の話?」
「……あんた、この状況でどうしてそんなに普通なの?」
「普通? そうかな。今は修学旅行みたいで少しワクワクしてるけど」
「あり得ないし。……怖くないの?」
「確かに。由良殿は怖くないのでヤンスか?」
「それを言うならーー」
湊こそ。そう言おうとして、僕はそこで言葉を止めた。
ふと、今日の湊の様子を思い出す。異世界だとハイテンションにはしゃいでいた。でも、もしかしたらそれは、怖い気持ちを隠すためにワザとそのように振る舞っていたとしたら。
……うん、ないな。こいつは絶対心の底から楽しんでる。もう付き合いも長いからそれくらいわかる。
「湊、なんか、手が震えてるぞ」
「吾輩、冷え性なんでヤンスよ」
そういうと手を僕の首元に当ててくる。凄く冷たい。
「やめろ」
近場にあった毛布を湊に投げつける。
少しだけ考えてみた。
怖いかどうか。
そんなのもちろん怖い。魔物やゴブリン、この先何があるかわからないこの異世界。
だけど。
「僕が怖がってても仕方なくない?」
それが正直な感想だった。湊とギャル子が驚いた顔をする。
「帰れるか分からないし、ゴブリンだっている。もちろん僕も怖いよ。でも、ここには天道先輩だってゴリマッチョだってハゲチャビン教頭……は役に立つかわからないけど他の先生達だっている。もし、ゴブリンと戦闘になったらその時は神武に戦って守ってもらう」
だから。
「だから怖いけど、きっとなんとかなると思ってる。普段通りーーは無理だとしても、頼れる人に頼る。僕はやれることをやる。それだけだよ」
僕に出来ることなんて限られてる。
「さっきの話もほら。焼肉食べられないのに焼肉のこと考えるだけ無駄だろ?」
「あはは! なにそれ!」
「由良らしいでヤンス」
「褒めてる?」
「一応褒めてるでヤンス」
「一応褒めてるは褒めてるに入るのか?」
「はっはっはっ」
今まで黙っていた雲水が突然笑いだす。
「何が面白いんだ」
「湊はやっぱり変わってるな」
「そうかな。僕は自分のことを誰よりも普通だと思ってるけど」
「いや、変人でヤンス」
「変人だわ」
「むしろ変態だな」
「ちょっと待て。変態は違うだろ! いや変人も違うけど!」
その後、四人で会話を続け、消灯時間となり眠りについた。
異世界最初の夜が更けていく。
不安を抱えたまま眠った者。
泣き疲れて眠った者。
逆に興奮して眠れなかった者。
きっと色々いたと思う。
ちなみに僕は普通に寝た。
雲水と湊もいびきをかいて寝ていたのを、後でギャル子から聞かされた。




