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第12話 拝啓、お父様お母様

 拝啓、お父様お母様。


 いかがお過ごしでしょうか。


 僕は元気です。


 ……と言いたいところですが、多分元気ではありません。


 なぜなら。


 学校ごと異世界へ飛ばされたからです。


 ついでにゴブリンもいました。


 鎧を着た騎士もいました。


 あと友達は相変わらず馬鹿です。


 安心してください。


 ◇


「なに一人でブツブツ言ってるでヤンス?」


「遺書」


「早すぎるでヤンス」


「手紙だよ」


「誰にでヤンス?」


「父さんと母さん」


 そう答えると。


 湊は少しだけ黙った。


「……帰れるといいでヤンスね」


「だな」


  僕たちは、天道先輩達よりも先に体育館に戻ることにした。


 体育館では生徒達の点呼が行われていたが、ギリギリ点呼に間に合った。危うく行方不明者にされるところだった。


 幸いにも。


 行方不明者は一人もいない。


 それだけは救いだった。


「全員いるのか」


 雲水が呟く。


「みたいだな」


「それは運がいい」


「確かに」


 学校ごと森の中に飛ばされて。


 死者ゼロ。


 怪我人も少数。


 奇跡みたいな話だった。


 その時。


 体育館の入口が開く。


 全員の視線がそちらへ向いた。


 ハゲチャビン教頭。


 村雨先生。


 神武。


 そして天道先輩。


 四人とも無事だったことに、体育館に安堵の空気が流れる。


 だが、天道先輩の表情は真剣だった。


「皆さん、聞いてください」


 静かだった体育館がさらに静まる。


「先ほど接触した人々について説明します」


 誰も喋らない。


 全員が次の言葉を待っていた。


「彼らはアルヴァニア王国第三騎士団を名乗りました」


 ざわり。


 体育館が揺れる。


「王国?」


「やっぱり異世界?」


「マジかよ……」


 あちこちから声が上がる。


 天道先輩は続けた。


「そして彼らは、私達を保護したいと言っています」


 今度はさらに大きなどよめき。


 保護。


 その言葉だけで少し安心する人もいた。


 だが。


 天道先輩はそこで言葉を切る。


「ただし」


 嫌な予感しかしない。


「この人数をすぐに王国へ移動させることはできません」


 だろうな。


 六百人近い人間だ。


 引っ越しだって大変なのに、ここには車すら無い。


「まずは代表者だけが王国へ向かい、状況確認を行います」


 代表者。


 その言葉に体育館がざわつく。


「王国には、この世界について詳しい者達がいます」


 天道先輩は真っ直ぐ前を見る。


「私達が今後どう生きていくのか。そのために必要な情報を集めてきます」


 天道先輩の言葉を聞きながら。


 僕は少しだけ肩の力が抜けた。


 正直。


 異世界だのゴブリンだの言われても、まだ現実感はない。


 でも、少なくとも話の通じる人間はいた。


 王国があり、文明もある。


 それだけで安心できる。


 食料も。


 水も。


 寝る場所も。


 何とかなるかもしれない。


 そう思えた。


「質問があります!」


 前方から男子生徒が手を挙げた。


「俺達は帰れるんですか!?」


 体育館が静まり返る。


 誰もが聞きたかったことだった。


 天道先輩も一瞬だけ言葉に詰まる。


 そして。


「分かりません」


 そう答えた。


 体育館に重い沈黙が落ちる。


「ですが」


 天道先輩は続ける。


「だからこそ調べてきます」


 その声は力強かった。


「元の世界へ帰る方法も含めて」


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


 体育館の空気が軽くなった気がした。


「本日は体育館で待機となります」


 今度はハゲチャビン教頭が前へ出る。


「教師の指示に従うように!」


 珍しく偉そうじゃない。


 いや、偉そうなんだけど。


 なんというか。


 ちゃんと教頭っぽかった。


「また、本日中に王国へ向かう代表者を選出する」


 その言葉に再びざわめきが起こる。


 王国。その響きにはロマンがある。


 行ってみたいと思う人もいるだろう。


 逆に絶対行きたくない人もいるだろう。


 僕である。理由はもちろん面倒そうだし、危険そうだから。


「由良殿」


「なに?」


「王国でヤンス」


「そうだな」


「お姫様いるでヤンス」


「知らないよ」


「いるでヤンス」


「なんで断言するんだ」


 湊は真剣な顔だった。眼鏡でよくわからないが。


 それにしても、こいつの頭の中はどうなってるんだろう。


「はっはっはっ」


 雲水が笑う。


 相変わらず無表情のまま。 


 こいつの頭の中も気になる。


「由良」


「なに?」


「お前も行くかもしれんぞ」


「絶対ない」


 即答した。


 代表なんて柄じゃない。


 僕は普通の高校生だ。


 こういう時に前へ出るのは神武とか天道先輩みたいな人達の役目である。


「そうか? 俺は由良が代表として行っても違和感ないがな。はっはっはっ」


 何が面白いのかさっぱりわからない。


 僕が代表なんてあり得ない。目立ちたく無い。なにより、僕は無難が好きなんだ。


 なのにまさか数日後。


 王国で人生最大級⸻いや、この世界で一番目立つことになるとは知らずに。


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