表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
99/108

99時間目:私も出来た

ラーナー家に一時帰宅した日の夜、ティルは寝床にて体を強張らせていた。


(お父さん達も、オリーン先生も、学校の皆も、世界も、私が我慢すれば、大丈夫なんだ。凄く苦しいけど、頑張る)


 自然と思考は、この日の帰宅後の光景に遡る。


(時の記録に接続って、あの、エスパランタ1552年に行った時のあんな感じなのかな?学園長先生、きっとあれをやってたんだね)


 すると、ティルがイヴァンから受けた「特別授業」の最中に、イヴァンが唱えた呪文が鮮明に頭に浮かんできた。


(何で?1回しか聞いたことない呪文なのに、ずっと前から知ってたみたいな感じ)


 ティルは、一度軽くため息をついた。


(学園長、こっちの呪文で時の記録を見せてくれたなぁ)


 極々小さな声でティルは唱えた。


「ティエエンメ、ピオ。アエーレ、チアッカイ、ヴイオ」


 すると、夜ではあったが、夜のそれより深い暗さが部屋を包んだ。


「あっ!えっ?」


(私も出来るのっ?)


 慌てて寝床を飛び出すティル。そんなティルの目の前に、学校の講堂の光景が広がる。そして、記録映像が流れ始める。


「春の花が咲き誇り始めたこの良き日に、メビラ学園に入学の皆さん、ご入学おめでとうございます。これから初等部、中等部、高等部と12年間、魔法をはじめ、この学校で世の中の事を学んでください」


 イヴァンが学園長挨拶をする。


「ふ、ふあぁ」


 ティルは、自らの席であくびをした。


(これ、入学式っ?)


 しかし、そこで映像は途切れ、通常の夜の帳がティルの目の前に広がった。ティルは、床に座り込む。


「あ、あれ、いつのイテラリピティの入学式?」


 それから、ティルは気を取り直し寝床へと入る。


(こわい。あの呪文、もう唱えない)


 それから無理矢理ティルは就寝した。


 翌日も休日であったが、ティルは朝からイヴァンと目を合わせる事が出来ない。


(う、昨日は隠し事してないって言ったのに、今日は、隠し事しちゃう。学園長先生に、昨日の夜の事言ったら、また怒る)


 一方、イヴァンはそんなティルに気づいた。朝食が終わった食卓でイヴァンは言う。


「ノヴァ・テンポーレ、今日の君は様子がおかしい」


 体がビクッとなるティル。


「えっと」


(お、怒らせちゃった)


 イヴァンは立ち上がり、ティルに接近する。そして、心配の視線を投げかけるモニカの前で、ティルの両肩を掴み、目線を合わせた。


「昨日の私の問いに、答える気にでもなったか?」

「う、えっと、えっと」

「学園長。昨日といい、今日といい、ラーナーさんに威圧感を与えています。席に戻って改めて質問を」

「オリーン先生、席を外せ」


 イヴァンとモニカの視線が険悪に絡み合う。


「が、学園長先生、オリーン先生、喧嘩しないでください。は、話します」


(本当は、隠したかったけど、話す前に怒られるなら、意味ないよね)


 モニカの目の前で、ティルは話す。


「あ、あの、よくわかんないんですけど、昨日の夜、時の記録を見ました」

「な、なんだと?」

「そ、その、ちょっとだけ、いつのかわからない入学式を見ました。学園長先生が挨拶してました」

「そんな、馬鹿な」


 イヴァンは、一転ティルの元から離れ、自室へと行ってしまった。


(意外と、怒られなかった)


 ほっとため息をついたティルは、モニカの方を見る。モニカは、額に手を当て、目を瞑っていた。


「お、オリーン先生?」

「あっ、失礼しました」


 モニカは額の手をはらい、ティルをまっすぐ見て、話を続けた。


「『いつのかわからない入学式』ですか。改めてラーナーさんが沢山の初等部1年生を過ごしてきた事がわかりました」

「そうですか」

「いい機会です。忘れてしまった私に、ラーナーさんの思い出を少しだけでも教えてくれませんか?沢山の初等部1年生を過ごされたようですし。その、3月までしか覚えていられないようですが」


(オリーン先生)


「ちょっとだけ、話します」

「はい、それでいいです」


 ティルは、話し出した。


(エリンちゃん)


「幼稚園の頃から仲がいいエリンちゃんに、お誕生日ケーキをプレゼントしてもらったのは、嬉しかったです」

「あら、フレンツェルさんから。素敵ですね」


(ハワードくん)


「私、学級副委員長をやってた時もありました。その時も学級委員長は、ハワードくんで、勉強を頑張りました。三学期には、クラス別の成績で3組が1位でした」

「フリーダーさんと、学級委員を!そして、クラス別の成績が一番だったのですか?それは、誇らしいです」


(ラインハルトくん)


「あ、あと、恥ずかしいですけど、ラインハルトくんと交際しました。学習発表会では、劇で私とラインハルトくん、結婚しました」

「マラブルさんと交際っ?何ということでしょう。でも、恥ずかしい事ではありません。人と人との愛というのは」


(フェリシアちゃん)


「でも、楽しい事だけじゃなかったです。フェリシアちゃんが、高等部の男の子にいじめられて天国に行ってしまいました。私も同じようにいじめられて、それから学校に行けなくなりました」

「えっ、メンデスさんが?そんな、信じられません。でも、イテラリピティという力の影響で今、生きてるのでしょうね」


(お父さん、お母さん、リノの事は、話さないでおこう)


「他にもいっぱい思い出、あります」

「そうですよね。時の記録というものはわかりませんが、それが無くても、ラーナーさんの心には、思い出がたっぷりあるんですよね?それだけでいいのに、学園長は、何を拘っているのでしょうね?」

「オリーン先生。そうですね」


 ティルとモニカの間に、穏やかな空気が流れる。それをかき消すように、イヴァンが戻って来た。


「ノヴァ・テンポーレ、わかったぞ。時間は分岐している!」

「えっ?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ