表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
94/108

94時間目:未来の涙

ティルは問うた。


「あの人、なんて言ってたんですか?ちょっとわかんない言葉があって」

「簡単に言えば、強過ぎてひとりになったから、世界と一緒に消えたかったと言っていたんだ。あのような歳にもなって、ひとりが嫌だから世界を消すなど、あまりに勝手だ。あの時の破壊者は、もう立派な大人だが、今の君より考えが幼いかもしれないな」


 との言葉は、イヴァンの返答であった。


(ひとりが嫌?その気持ち、わかる)


「学園長先生、あの人の名前、もう一度訊いていいですか?」

「エルドレッド・ペルシュマンだ。稀代の破壊者の名前として、覚えておくがいい」


(きだい?何?けれど、エルドレッドさん、覚えた)


「さて、ノヴァ・テンポーレ、24歳の君を、見に行こうか。私も見たことがない物だから、どのようになっているのかはわからないが」

「は、はい」


 わずかな時間を置いた後、ティルの耳に青年男性の泣き声が聞こえた。


「誰か、泣いてる?」


 泣き声の後に、青年男性の言葉が続く。


「姉ちゃん、何で死んじゃったんだよ?」


(お姉ちゃん?えっ?)


 再びティルの目の前に、荒野が広がる。そこには、4人の人影。その中の1人、歳の頃は10代後半といった男性が座り込み泣き叫んでいた。


「姉ちゃん、姉ちゃん!」


 ティルの傍らのイヴァンは、目を伏せる。一方、ティルは目を丸くした。


「私、天国に行っちゃった?」


 24歳のティルは、生気のひとかけらもなかった。そんなティルを、歳を重ねたノエルが座り込み、抱き締めていた。そして、その傍らには、こちらも歳を重ねたグレゴリオが悔しさに震え、立ち尽くす。24歳のティルを覗き込むように座り込んでいたのは、リノ。グレゴリオ、ノエル、リノは溢れ出る涙を抑えきれずそれぞれ落涙する。


「お父さん、お母さん、リノ、私、ここにいるよ?」


 イヴァンはそれに返した。


「実際見ているように感じるかもしれないが、これは、記録映像だ。言葉は届かない。それに、姿もあちらからは見えない」

「そんな」


 しかし、いてもたってもいられず、ティルは駆け出し、ラーナー家の面々の輪に入り込む。


「ねぇ、泣かないで、お父さん、お母さん、リノ」


 グレゴリオはティルを見下ろして言った。


「守れなくて、ごめん。ティル」


 ノエルはティルを揺さぶって言った。


「ねえ、ティル、起きて、起きなさいよ!」


 リノは頭を抱えて言った。


「姉ちゃん、嫌だよ!!」


(本当に聞こえてない。それに、見えてない)


 ティルはじわじわ涙を浮かべる。


「リノが喋ってるの、初めて聞いた。『姉ちゃん』って私の事、呼んでくれてたんだ、リノ。お父さん、謝らないで。お母さん、起きれなくてごめん」


 ポロポロ涙を流し始めるティル。見かねたイヴァンは、抱き上げて背中を撫でてくれた。


「学園長先生?」

「ノヴァ・テンポーレ、君は家族の中で、一番先に死を迎えたようだな。ここから、ご両親と弟くんが、どのくらい君の死を嘆いていられたのかはわからないが、君を強制的に追いかける事になっただろう。その場面を君に見せるのは酷だ。記録映像はここまでにしよう」


 再び、ティルとイヴァンの目の前は真っ暗になる。そして、間を置かずに、まだ時が止まっている学園長室へと戻った。


「ノヴァ・テンポーレ。さて、滅びの時、エスパランタ1552年12月31日はどうだった?」


 イヴァンは、ティルを降ろしながら言った。ティルは、未だ涙に震えていたが、ゆっくり答え始める。


「大変でした」

「そう、大変だったろう?」

「やっぱり、イテラリピティを我慢しなきゃって思いました」

「ああ、よく言った!ノヴァ・テンポーレ!!」

「で、でも、エルドレッドさんの、ひとりが嫌って気持ちもわかったし、今も、人を傷つけるのがこわいです」

「破壊者に同情するとは、いけない考えだ。しかし、今はこう評価しよう。破壊者にも寄り添える、そして、人を傷つけたくないと考える優しい児童だと。そんな優しい児童なら、世界を壊したくないだろう?」

「は、はい」


 イヴァンは、安堵の色が見えるため息をつき、こう言った。


「では、その涙が収まるまで待ち、再び時を動かす事にしよう。イテラリピティを受け入れた君は、とても偉い児童だ」


 未だ部屋では時計の秒針が止まり、窓の外では風になびいた形で静止する国旗と校旗のある光景の中、ティルは泣き叫んだ。その間、途切れ途切れに言った。


「学校で、人を、いじめたら、イテラリピティを、知ってる、オリーン先生に、叱って、もらえる、けど、家では、イテラリピティを、知らない、人、ばかり。家族を、傷つけるの、こわいよぅ」

「そうか。それへの対策を考えよう。少し、時間をくれ」


 それから、ティルの涙が収まるまで、イヴァンは時を止めながら、見守った。やがて、ティルの涙は止まる。呼吸が落ち着いた所を見計らい、イヴァンは言った。


「今から、時を動かす。2時間目は間近に迫っている。急いで教室に戻り、引き続き通常の授業を受けなさい」

「はい」


 そして、イヴァンは呟くように言った。


「フェルマレスタ、解除」


 時計の秒針は動いた。国旗や校旗ははためき始める。イヴァンは学園長室の出入り口を開けた。


「さあ!急げ!!」

「はい、ありがとうございました」


 ティルは、初等部1年3組の教室へ急いだ。そして、鐘の音が鳴る直前に教室に入る事が出来た。ティルが席に着くと同時に、モニカが瞬間移動で教室に入って来た。


「はい、2時間目の授業を始めます!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ