9時間目:初等部1年生最初の試験
7月に入ってすぐのある日。モニカは帰りの会で言った。
「いよいよ明日は一学期の試験です。初めてで緊張するかもしれませんが、いつも通りの皆さんで試験を受けてください」
「はーい」
ティルは、元気に返事した。同級生達の声も揃う。その後、皆で下校して行った。
「エリンちゃん、フェリシアちゃん、かーえろ!」
ティルの呼びかけに、2人は応じてくれた。しかし、この日の会話は全く弾まない。動く歩道での移動中に、エリンがこう切り出した。
「ティルちゃん、フェリシアちゃん、緊張してる?」
フェリシアが少し震える声で答えた。
「エリンちゃん。う、うん。そうなんだ」
一方、ティルは笑顔で返す。
「初めてだもんね!試験。やっぱり頑張るって前に言ってたけど、緊張するよね!!」
「ティルちゃんは、緊張しないの?えっと、私もフェリシアちゃんみたいに緊張してるんだけど」
「えっ!あ、そ、そうなの?エリンちゃんも?あー、えっと、私も緊張してるっ」
エリンはほっとしたような顔をする。フェリシアも表情がほぐれる。ティルは、そんな2人の顔を交互に見て言葉を続けた。
「み、みんなで頑張ろ?って、これ、前にも言ったよね。あはは」
「そうだったね、ティルちゃん。フェリシアちゃんと、私の3人で頑張るって約束だったもんね!」
「うん!ティルちゃん、エリンちゃん、私、2人と頑張る!!」
そんな言葉を交わし、3人は頷き合った。その後、3人はそれぞれの家に帰って行った。帰宅するなり、ティルは大きく息を吐いた。
「あー、どうしよ」
翌日、試験の日がやってきた。登校してきた児童生徒全員は、それぞれの朝の時間を過ごしていた。そんな中、初等部1年3組の教室では、ハワードが杖から自主的に教科書を出していた。そこに、ラインハルトが。
「復習かい?僕も真似しようかな?」
「邪魔をしないでくれるか?」
「これは、失礼。学級委員長」
「ふん」
そんな会話をティルは近くで聞きながら、教室の窓から見える雨模様をぼうっと見ていた。ハワードは、ラインハルトを目で追う中で、ティルの様子が目に入った。そして、一言声をかけた。
「ラーナーさん、君は、やはり復習をしないんだな」
「えっ!あ、あの!今からやろうと思ってたの!!」
そのティルの返答に追いかけるようなラインハルトの声。
「まあ、それぞれの『やり方』があるんだよ。学級委員長?」
「あ、ありがとう。マラブルくん」
ハワードは、首を軽く傾げつつ、再び教科書に目を落とした。ティルやラインハルトも杖から教科書を出し、復習し始める。しばらくすると、モニカが教室に入って来た。
「おはようございます。さて、今日はいよいよ試験ですね。教科書を出した人は、杖にしまってください」
ティル他、教科書を出していた児童達は言われた通り、杖に教科書を収納した。すると、モニカは、紐のついた細い名札を児童達に配る。
「試験中は、杖を回収します。その名札を付けてください」
ティルは、もう既に「ティル・ラーナー」と書かれている名札を杖に括り付けた。モニカは、教室全体を見渡した後、言った。
「はい、名札をつけ終わりましたね?では回収しますよ」
モニカは、児童1人1人の所へ行き、杖を袋へ入れていった。ティルの番が来る。
「はい、先生」
勿論、ティルの杖も袋の中へ。全員の杖が回収された後、わずかな時間を経て試験開始を知らせる鐘が鳴り響く。モニカは、それを受け唱えた。
「ディイ、エッセティエーレイ、ビウ、イ、エーレエ。試験用紙を皆へ」
すると、一瞬児童全員の机上が光る。光が収まると、試験用紙が机の上に出現する。ティルは、誰にも聞こえない極々小さな声で言った。
「ど、どうしよう?」
その声をかき消すようにモニカは言った。
「では、1時間目の試験は国語です。試験を始めてください!」
児童達は、一斉に試験用紙に記名をし、問題を解き始めた。一方、ティルも同じく記名を済ませたが、鉛筆が止まる。しかし、それはわずかな時間。その後、ティルはギュッと目を短く瞑った後、問題を解き始めた。
それから50分後、鐘が鳴った。モニカは児童達に声をかけつつ間髪入れずに呪文を唱えた。
「はい、そこまで!エーレアチ、チオ、ジエレイエ、エーレエ。試験用紙をこちらへ」
児童達の机から、試験用紙が一瞬の光と共に消え、モニカの手元に揃う。
そうして、昼食を挟みながら、算数、理科、生活科、音楽と試験は進んでいった。試験中、決まってティルの鉛筆は最初に止まる。しかし、最終的にティルの試験用紙は解答で埋まった。
時は過ぎ、この日の最後の試験が終わる。モニカは杖を返却しながら、児童1人1人に同じ言葉ではあったが、こう声をかけていった。
「よく、初めての試験を乗り切りましたね。偉いですよ」
ティルは、その言葉にこう返した。
「オリーン先生、ありがとうございます」
「ラーナーさん、頑張りましたね」
「はい」
そして、放課後。ティルは、自らの机に突っ伏した。
「はあー、つ、疲れたぁー」
そんなティルにエリンが声をかける。
「ティルちゃん、大丈夫?」
「だ!大丈夫!エリンちゃん!!」
ティルは弾かれたように頭を上げた。フェリシアもエリンの横に来て言った。
「緊張したね?」
「う、うん!フェリシアちゃん、そうだね!!でも、頑張れたよ!!」
エリンとフェリシアは、笑顔で頷いた。それから、いつものようにティルはエリンとフェリシアと3人で下校し、帰宅して行った。
「ただいま」
「おかえりなさい。ティル」
「おお!ティル、おかえり」
ノエルと夜勤の仕事に向かうグレゴリオが迎えた。グレゴリオは、ティルに尋ねた。
「確か、今日試験だったよね?どうだった?初めての試験」
「疲れた」
「そうかー。でも、よくやってきたね」
「うん。お父さんもお仕事頑張って」
グレゴリオは、柔らかく笑う。
「ティルが頑張ってきたんだったら、僕も頑張らなきゃね。行ってくるよ」
「いってらっしゃい!お父さん!!」
「グレゴリオ、いってらっしゃい」
グレゴリオは、瞬間移動にて出勤して行った。一方、ティルは自室へと行き、寝床に横たわる。
「本当に、疲れた。どうしていいかわかんないよ」
そのまま、居眠りしてしまった。しばらくすると、ノエルの声がティルの頭の中に届く。
「ティル?ティル!夕飯よ!!」
「ふあ?あっ!ごめん!今行く!!」
「本当に疲れたのね?初めてだから」
「うーん。そうだね」
そして、食卓へと行く。すると、ティルは声を上げた。
「煮込みご飯!」
「試験、お疲れ様。好きでしょ?煮込みご飯」
「うん!」
そして、煮込みご飯を食し始めるティル。柔らかい刺激がティルの舌を喜ばせる。
「美味しいっ!ありがとう!お母さん!!」
ノエルは、微笑んだ。こうして、ティルの一学期の試験の日は終わった。
数日後。学校は一学期の終業式を迎える。式の後、モニカが言った。
「一学期の試験の結果表を渡します。驚いた事に、全教科満点の人がいます!」
教室がざわめく。それを聞き届けると、モニカは言葉を続けた。
「ティル・ラーナーさん、あなたは凄いですね!満点でした!!」
「あ、ありがとうございます」
ティルは、少し縮こまりながらそう答えた。児童達は、口々に「凄い!」と口にする。ハワードは、疑問の目をティルに向けつつ、呟いた。
「信じられない」
モニカは、手をパンパン鳴らし、こう言った。
「ラーナーさんを見習って、皆さんもいい点数を取れるように二学期も学習していきましょう。でも、その前に、皆さんにとっての初めての夏休みが明日から始まりますね!1ヶ月半、事故のないように楽しんでください!!」
「はーい」
ティルは、他の児童と共にそう返事した。かくして、ティルの一学期は終わりを告げた。ティルは、渡された成績表を眺め、呟いた。
「これで、いいのかなぁ?」




