表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
88/93

88時間目:寄り添いが

慣らし授業の1週間を終え、ティル達初等部1年生は、6時間目の授業まで受ける事になった。そんな初日の給食の時間が来る。


(また、あの食堂で、給食だ)


 しかし、ティルはモニカに声をかけられる。


「ラーナーさん、今日は、特別に私と食事しませんか?」

「え?オリーン先生と?」

「先週言ったお話を、食事と一緒にしようと思いまして。放課後だと、帰りが遅くなってしまいますからね」

「はい、わかりました」


 そして、モニカは、教職員用の食堂へとティルを誘導した。教職員用の食堂の雰囲気は、児童生徒用の食堂とあまり変わらないが、出されている食事は大人向けの物であった。


「ラーナーさん、あまり馴染みのない食事かもしれませんが、食べたい物をどうぞ」

「はい」


(なんか、ちょっと豪華なお昼ご飯)


「この麺と、野菜盛りかな?」


 ティルは、それらを取り分ける。モニカは微笑む。


「あら、だいぶ健康的な食事ですね?」

「は、はい」


 そして、席に着く。ティルと向かい合わせるように着席したモニカは言った。


「さ、食べましょう」


 そうして、ティルは食事を始める。野菜盛りの爽やかさが口いっぱいに広がった。モニカもある程度食事を進める。昼食の時間も中盤に差し掛かった頃、モニカは口を開く。


「『イテラリピティ』」


 ティルの体がビクッとなった。モニカはそんなティルを見つめ、言葉を続ける。


「ラーナーさん、10年以上も、大変な学校生活を送られていたのですね」

「何で、その話を知ってるんですか?」

「あの日、学校に戻った後、学園長にラーナーさんと何を話したか訊いたんです。そうしたら、あの時少ししか話を聞いていませんでしたが、その中で聞いた『イテラリピティ』の事を話してくれました」

「学園長先生が?」

「そうです。そのイテラリピティが必要な事と、ラーナーさんはそれを10年以上もずっと見てきたと」


(どこまで話したんたんだろ?)


「私にとってラーナーさんは、つい1週間前に出会った児童ですが、ラーナーさんにとっての私は、10年以上もラーナーさんを教えている教諭なんですね?」

「はい、そうです」

「ごめんなさい。ラーナーさんを毎回忘れてしまっているようで、とても、悔しいです。それに、ラーナーさんが10年以上、どんな思いで学校に来ていたかを考えたら、あの日は全く眠れませんでした」

「そんな」


(先生、優しい。優しすぎるよ)


「ラーナーさん、私がラーナーさんを忘れてしまう3月まで、私はラーナーさんに寄り添わせていただきます。学園長からも頼まれましたが、私自身が強くそう思っているので、何か辛い事があったら、いつでも、どんな時でも、私に相談しに来てください。それを伝えたかったんです」

「先生」


 ティルは、急激に溢れ出る涙を抑えられなかった。


「つ、辛かったです。これからも、きっと、辛いと思います。先生、よろしくお願いします」

「いいえ、こちらこそ、よろしくお願いします」


 モニカは、ティルの涙を小さな布で拭ってくれた。そして、ティルが落ち着いた後、食事は再開された。


「ラーナーさん、大人向けの食事は、どうですか?」

「えっ、あの、なんか新しいです」

「『新しい』ですか。食べ慣れない物を食べさせてしまってすみません」

「い、いいえ!」

「けれど、本来ならラーナーさんは20歳前後、立派な大人です。だから、大人向けの食事をと思いましたが、やっぱり、お口に合わなかったみたいですね」

「ご、ごめんなさい」


 頭を下げるティル。


「いいえ。お気になさらず。そして、明日からは、食べ慣れた物を児童生徒用の食堂で食べてくださいね」

「はい」


 それから、ティルは5時間目の授業を受ける。


(オリーン先生が、味方になってくれたみたい。ちょっと頑張ろうかな?)


 ティルの鉛筆を握る手の力が増す。


(フェリシアちゃんと、友達になってみようかな?それに、ラインハルトくんとも久しぶりにお話したいな)


 理科の教科書に目を落とすティル。


(初めてイテラリピティになった時、先生には話してなかった。最初から先生に言えばよかったのかな?)


 そうしていると、5時間目の授業が終わろうとした。


(って、フェリシアちゃんと何話す?ラインハルトくんと何話す?フェリシアちゃんが天国から戻って来てよかったとか、ラインハルトくんが私を好きだったんだよとか?)


 5時間目が終わった事を知らせる鐘の音が鳴る。


(あ、駄目。やっぱりフェリシアちゃんとラインハルトくんと話すの、今は止めよ)


 6時間目を待つ休み時間、エリンが話しかけてきた。


「ねぇ、ティルちゃん。給食の時間、どこ行ってたの?」

「あ、えっと、先生に呼ばれて違う所に行ってたの」

「そうだったんだ。迷子になっちゃって、食べられなかったと思って、ティルちゃんにパンだけ持って来たけど、要らない?」

「ありがとう!エリンちゃん、お家に持って帰って食べるね?」

「うん!」


 エリンは、紙に包まれたパンをティルに手渡した。


「明日は、一緒に給食食べよう?エリンちゃん」

「わー!明日楽しみ!!」


 そんな様子をティルの右斜め前の席から見ていたハワードは、口を挟んだ。


「ラーナーさん、先生に呼ばれていたのか。今度は何をしたんだ?」

「う。えっと、内緒だよ。学級委員長」

「学級委員長の僕に隠し事か」

「うー、えっと、先生がお友達になってくれるって言ってくれたの」

「は?何で?」


 納得がいかない様子のハワードの声をかき消すように、エリンが言った。


「わー!ティルちゃんオリーン先生とお友達になったの?凄い!!」

「あ、えへへ、そうだよ」

「でも、何で?」


(う、結局、エリンちゃんもハワードくんも何でって言う。友達なんて、嘘つくんじゃなかった。どうしよう?)


「あ、えっと、入学式の時、学園長先生のお話聞いててあくびしちゃったじゃん?私」

「確かにな、横でしかと聞いた」

「それで、すぐに謝ったじゃん?私」

「へー!ティルちゃん偉い!!」

「そうそう!偉いって言われて、そんな素直な子とお友達になりたいって先生が言ってくれたの!!」


 羨望のエリンの視線と、疑念が晴れないハワードの視線がティルに向けて同時に注がれる。そんな中、6時間目が始まる鐘の音が鳴る。エリンは、それを受け、自らの席に戻った。一方、ハワードは前を向いた。


(はあ。嘘の為に嘘ついちゃった。本当の事言いたいけど、イテラリピティの事、やっぱり言えない)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ