87時間目:どうするの
ティルが学園長室を出ると、廊下にはモニカがいた。
「あ、オリーン先生」
「お話、終わったようですね。心配で待っていました」
「あ、ありがとうございます」
(色んな話を聞いたから、頭の中ごちゃごちゃ)
「少し、下校が遅くなってしまいましたね。親御さんも、心配しているでしょう」
「そうかも、しれません」
(学園長も、言った事を、オリーン先生も言ってる)
「特別に、ご自宅へと送ります」
「お願いします」
モニカは、ティルの手を取る。
(あ、あれってどんな意味なんだろう?)
「オリーン先生、『もとつま』って何ですか?」
「えっ?」
モニカの声が揺れ、わずかな時間、目が泳いだが、すぐに微笑み、答えた。
「学園長に、聞いたのですね。そうですね、私と学園長は、前に結婚していて夫婦でした。でも、私が、どうしても先生をやりたいと言ったので、夫婦でいる事を終わりにしました。それでも、学園長は、私の上司として面倒をみてくれています。おかげで、ラーナーさんとも出会う事が出来ました」
「そうだったんですか」
(学園長先生、前のイテラリピティでお父さんが言ってた通り、優しいの?学園長先生の事、私、邪魔してる?)
「私の話は、ここまで。さ、帰りましょう」
「はい」
すると、モニカは唱えた。
「ティエ、エレエ、ティエーレア、エッセピオエーレ、ティオ。ラーナーさんの自宅へ」
モニカの瞬間移動にて、ティルは家に着き、玄関を開ける。
「ただいま」
「おかえりなさい、遅かったんじゃない?」
玄関で待ち構えていた様子のノエルが言った。それを受け、モニカが返した。
「すみません。ラーナーさんが、学園長に質問があったようで、お話をしていたんですよ」
「先生!そうだったんですか。もう、ティル?それなら朝、言ってから学校行けば、心配しなかったのよ?」
「お母さん、ごめんなさい」
「あら、お母様に怒られてしまいましたね?少し、反省をしなければなりませんね?ラーナーさん」
「はい」
ノエルは、ほっとした様子で言った。
「先生、送ってくださってありがとうございました」
「いいえ、どういたしまして」
頭を下げるノエルと、微笑むモニカをティルは交互に見た。その視線に気づいたモニカはティルに視線を合わせ言った。
「ラーナーさん?ラーナーさんのお母様は、お腹に赤ちゃんがいるみたいですね?」
「はい」
「尚更、体が大変なお母様を心配させてはなりませんよ」
「わかりました。先生」
ノエルは、自らのお腹を撫でた。それをチラと見ながらティルは言った。
「オリーン先生、今日はありがとうございました。さようなら」
「さようなら、また、明日」
そして、ティルとノエルに見送られながらモニカは再び瞬間移動にて学校へと戻って行った。モニカが消えた先には、綺麗な青空が広がっていた。
「さ、お昼ご飯にしようか」
「うん、お母さん」
ティルは、自室に鞄を置きに行こうとしたが、その足を止め、尋ねた。
「ご飯、待ってた?」
「それはそうよ」
「ごめん、お母さん」
「無事帰って来たし、先生が送ってきてくれたから、一安心よ。これからは、こういう事、やっちゃ駄目よ?」
「うん」
(ずっと前のイテラリピティで、エリンちゃんの所に寄り道した時にも、お母さんに怒られたっけ。またやっちゃった)
それから昼食などを経て、ティルは就寝時間を迎える。寝床にて、呟いた。
「て、テンポーレ」
胸のあたりをゴソゴソするティル。
(ノヴァ・テンポーレの力、どうしたらいいの?なんで、あの時変な実、時の実っていうの、食べちゃったんだろう)
「眠れない」
その後、あまり眠れないまま、翌日ティルは登校して行った。教室に入ると、ハワードがいた。
「ラーナーさん、昨日は、学園長先生と何を話したんだ?」
「えっ!!何でわかったの?」
「オリーン先生とのやり取りを聞いていた」
「そ、そうなの。えっと、うんと」
(イテラリピティの事を訊いたら、テンポーレの事を聞いたって言えない)
ハワードは、ため息混じりに言った。
「入学式にあくびした事を謝罪しに行ったのかと思ったが、恥ずかしくて言えないか?」
(そうじゃないけど)
「うん!ごめんなさいって言って来たんだ!!」
「そうか。謝罪したのか。いい心がけだ」
「ありがとう!学級委員長!!」
そうして、モニカが教室に来た。そのモニカは、わずかな疲れを見せていた。しかし、それとは関係なく、すぐに朝の会が始まる。モニカは言った。
「今日の3時間目は、昨日雨で延期にした体育になります。皆さんで箒を使って飛んでみましょうね!」
「はーい」
ティル他児童達がそう返事する中、モニカはチラチラとティルを見た。
(オリーン先生?)
それから、何事もなく授業は行われる。そして、3時間目の体育。モニカは、いつも通りに箒での飛行の仕方を児童達に指導する。ティル達児童も、その指導を受け空へ飛んで行った。ティルは、再びモニカの視線を感じたが、安定した低空飛行を行った。
(どうしたんだろ?オリーン先生。気になる)
しかし、特に何事もなく授業は終わり、慣らし授業の3日目が終了した。放課後、ティルは前日のようにモニカに話しかける。
「オリーン先生、どうしたんですか?」
「え?なんでしょう?」
「今日、ずっと私の事見てたみたいですけど」
「ああ、気づかれていましたか。本当は、今日は、私の方がラーナーさんとお話ししたいのですが、2日連続帰宅が遅くなるのは避けたいので、また、私から声をかけさせてもらいます」
「そ、そうですか」
(なんだろう?)
それから、ティルはエリンを誘って下校して行った。その途中でエリンが言った。
「ティルちゃん、なんかお腹空かない?」
「う、うん。早く帰って何か食べよ?」
「うん。でも、ティルちゃんのお家は遠いよね?大変じゃない?」
「大丈夫!頑張るよ!!」
「そう。うちのパン食べてもらおうと思ったんだけど」
「あ、遅くなっちゃったら、お母さん、心配するし!」
「そ、そうだね。うん、じゃあ、急いで帰ろ!」
「うん!!」
それから可能な限りティルとエリンは早く帰宅し、早めにお腹を満たした。
(そう、あのイテラリピティの時、箒で飛んだ後、凄くお腹空いてて、玄関にあった時の実を食べて、私、ノヴァ・テンポーレになっちゃったんだ)
自室に入ったティルは、時の実の奇怪な味などを鮮明に思い出した。
(なんだかんだ言って、忘れかけてたのに。でも、そんな事より、これから、どうするの?私)
学習机に向かって、頭を抱えるティル。
「学園長先生に、やっぱりイテラリピティを止めてもらうの?それとも、私が我慢すればいいの?そして、この1年、どうやって過ごすの?わかんなくなっちゃった」
ティルは、一転天を仰いだ。
(誰か、教えて)




