85時間目:訊いた
授業初日の2時間目は、図画工作。恒例の箒作りが始まった。モニカの指導を受けながら、ティル含めた児童達は箒を作る。
(上手な箒、下手な箒、普通の箒。どんな箒を作るか悩んでたけど、簡単な事に気づいた。オリーン先生の言った通りに、オリーン先生の見本通りに箒を作ればいいんだ。なんでこんな事に早く気づかなかったんだろ)
ティルは、黒板に書かれた箒作りの手順と、モニカの実演をじっくり見ながら自らの箒を作っていく。
(先生と離れて、先生の授業がとっても大切に思えるようになった。お母さんのお友達の授業も楽しかった時もあったけど、やっぱり私の先生は、オリーン先生)
ティルは、モニカの見本と同じ箒を作る事に成功した。
(この箒、大切にしよう。前のイテラリピティでは、あの高等部の人に壊されたけど、この箒は、このイテラリピティが終わるまで、絶対に壊されたくない)
そして、授業が終わる。モニカは、瞬間移動で職員室へと行った。ティルは、モニカがいた所を見つめ呟いた。
「でも、先生が教えてくれない事、ある」
ティルは、それ以降、ぼうっとした。間もなく、3時間目が始まる。再び瞬間移動にて来たモニカは、この国語の授業中に、箒を杖に収納する呪文を指導する。そして、ティルは他の児童と共に杖を持ちながらこう唱えた。
「チオエンネ、エッセエエーレ、ヴア、エーレエ。箒」
箒は、杖にきちんと収納された。
(呪文とか、沢山教えてくれるけど、先生もイテラリピティの事、知らないから、いつまで経っても教えてくれない)
その3時間目の授業をもって、初等部1年生は、慣らし授業の為、下校の時間を迎える。
(オリーン先生が、教えてくれないなら、違う先生に、イテラリピティの事訊くしかないかな?)
すると、エリンから声をかけられる。
「ね、ティルちゃん、一緒に帰ろ!」
「うん!エリンちゃん!!」
(やっぱり、エリンちゃんとだけは、友達を続けておいた方がいいのかな?放課後、イテラリピティを教えてくれそうな先生を探したかったけど、明日にしよう)
下校途中、ティルは先んじてこう言った。
「エリンちゃんと、おんなじクラスになれてよかった!」
「うん!私もそう思ってたんだ!!」
「ずっと友達だよ!エリンちゃん!!」
「ずっとだよ!ティルちゃん!!」
(これで、フェリシアちゃんが天国に行っちゃうの、止められたかなぁ?)
多少無気力な表情をしているティルと正反対の笑顔をエリンは浮かべた。
(エリンちゃんの笑った顔、いいなぁ)
ティルも笑顔を返した。
翌日も慣らし授業をティル達は受ける。授業中、ティルは外の雨音を聞きながら授業とは別の事を考える。
(イテラリピティの事訊くの、初等部の先生?中等部?それとも高等部?うー、決まらない)
あっという間に、3時間目が来た。授業時間が終わりに差し掛かった頃、外の雨音が消える。
(うー、めんどくさい!もう、何でも知ってそうな先生は、やっぱり、学園長先生だよね?前のイテラリピティで、お父さんが学園長先生に怒ってたけど、もう、それしか思いつかない)
いつものように授業をするモニカをティルは見つめた。
(今日の放課後、学園長先生に訊きに行こう。でも、ちょっとこわいから、オリーン先生について行ってもらおうかな?)
そうして、下校の時間を迎える。ティルは、瞬間移動にて職員室へと行こうとするモニカに駆け寄る。
「どうしましたか?ラーナーさん?」
「今日って、学園長先生に会えませんか?」
「急ですね?」
その様子を、ハワードは見ながら教室を出て行った。一方、モニカは、こう返した。
「何をするんですか?」
「お話を聞きたいんです。オリーン先生も一緒にいて欲しいです」
「そうですか。でも、学園長の都合もあると思うので、今日お会いする事は出来ないかもしれませんよ?」
「明日でも、明後日でもいいです。学園長先生とお話したいです」
「わかりました」
モニカの懸念は、杞憂に終わり、ティルは学園長のイヴァンと面会が叶った。学園長室にティルはモニカと共に入室した。起立したままのモニカと学園長席に座すイヴァンの視線は、絡み合う。ティルは立ったままゆっくり深呼吸をした後、口を開く。
「はじめまして、私、初等部1年3組のティル・ラーナーです」
「はじめまして、学園長のイヴァン・オーケンです。今日は何の話ですか?」
「あの、学園長先生は、『イテラリピティ』って言葉、知ってますか?」
イヴァンの目が、こぼれそうなくらい見開かれた。しばらく、イヴァンはティルから視線を外す事なく、沈黙した。モニカは、「イテラリピティ」という言葉に首を傾げたが、すぐに心配そうにティルとイヴァンを交互に何度も見た。当のティルも、なぜかイヴァンから視線を外せなかった。その後、イヴァンはわずかに笑い、こう言った。
「オリーン先生、席を外してください」
「は、はい」
モニカは、戸惑いを見せつつ退出して行った。ティルは、ようやくイヴァンから視線を外してモニカを目で追った。そして、呟いた。
「オリーン先生」
すると、イヴァンの狂ったような笑い声が、学園長室に響いた。
(えっ、学園長先生?)
「まさか、我が学園に、元妻の受け持ちのクラスに、『いた』とは」
「えっ?」
「そして、まさか、私が見つけるのではなく、本人が乗り込んでくるとは。ようやく姿を現したな!ノヴァ・テンポーレ!!」
ティルは、戸惑う。一方、イヴァンは、厳しい視線でティルを見た。その視線に、ティルはたじろいだ。
(こ、こわい。それに、イテラリピティの事訊きに来たのに、わかんない言葉を学園長先生、言った。何?あの言葉)
イヴァンは口を開く。
「『イテラリピティ』の事を尋ねてどうするというのだ?私に。その言葉を知ってるという事は、君はわかっている筈だ。時間を巻き戻すという事くらい」
「わ、わかって、ます」
ティルの声が上ずる。イヴァンは改めてこう言った。
「改めて、自己紹介しよう。私は、メビラ学園の学園長にして、時間の管理者、テンポーレのイヴァン・オーケンだ」
ティルは、イヴァンの迫力に声が出ない。イヴァンは、そんなティルに向かって話を続ける。
「教えてやろう。イテラリピティは、私が起こしている。私にとって、イテラリピティは希望だ!」
(き、希望?私にとっては)
「あ、の、学園長先生、い、イテラリピティを、止めてください。お願いします」
「なんだと?」
ただでさえ厳しかったイヴァンの視線が冷たい物へと変貌していく。ティルは震える。
「私にとっての希望を、止めろと?ノヴァ・テンポーレ。そうだとしたら、ノヴァ・テンポーレは、世界の破壊者となるな。君は、私にとっての敵のようだ」
「て、敵?」
「何があろうと、イテラリピティは止めない。私がテンポーレである限り」
「あ、の、『テンポーレ』って何ですか?」
「ノヴァ・テンポーレだというのに『テンポーレ』がわからないのか?」
「は、はい」
イヴァンは、嘲笑に近い笑い声を上げた。
「そんな知識で、私に敵対するのか。まあ、教えてやろう」




