84時間目:13回目の入学式
(私、ティル。ティル・ラーナー。今、メビラ学園の入学式に来てるよ)
ティルは、学校の講堂内で自らの入学式を待っていた。いつものようにグレゴリオとノエルを探し、2人と手を振り合う。ニッと笑い、間もなく入学式が開式になるのを講堂の前を向きながら感じた。
(ここからはフェリシアちゃんが見えない。でも、きっといる。教室に入ったらきっとわかる)
入学式は開式。ティルは国歌を完璧に歌い上げる。その後の学園長挨拶を待った。学園長のイヴァンは、灰色のスーツという出で立ちで舞台から拡声魔法を用いて挨拶を始める。
「春の花が咲き誇り始めたこの良き日に、メビラ学園に入学の皆さん、ご入学おめでとうございます。これから初等部、中等部、高等部と12年間、魔法をはじめ、この学校で世の中の事を学んでください」
「ふ、ふあぁ」
(あ、あくび出ちゃった)
右隣に座るハワードがティルのあくびに気づき、眉をひそめた。
(あくびが出なかった前のイテラリピティより、元気が出たのかな?そう、そうだよね、入学式に来れて安心してるんだ。きっと)
それから、ティルは来賓の紹介、挨拶等を聞き、モニカの新入生の点呼を受けた後、イヴァンから魔法の杖を受け取った。
「これから、よろしくね?」
入学式の閉式後、移動した教室でティルは、席に着こうとするフェリシアを見る事が出来た。ティルは動きを止め、その一挙手一投足を見届けた。
(フェリシアちゃん、戻って来た)
ティルは、ゆっくり息を吸い、また、ゆっくり息を吐いた。そして、自らも席に着くと、保護者と共にモニカの挨拶を受けた。
「今日から皆さんの担任になります、モニカ・オリーンです。よろしくお願いします!」
(オリーン先生、久しぶりだなぁ)
それから、教科書が入る魔法の杖の説明を経て、クラスメイトとの写真、家族との写真をそれぞれ校門で撮影した後、ティルはノエルと共にグレゴリオの瞬間移動にて帰宅した。
帰宅後、ティルは自室にて着替えをし始める。
「フェリシアちゃん、よかった。けれど」
(これから、どうしたらいいかわからないよ。フェリシアちゃんと今回のイテラリピティで仲良くなりたい。けれど、仲良くなったら、3月のお別れが嫌になっちゃう)
制服が、全て床に落とされる。代わりに、ピンクのワンピースを拾う。
(でも、お別れが嫌って思って、1人になったら、フェリシアちゃんは、天国に行っちゃった)
「どうすればいいの?」
ピンクのワンピースを頭からかぶり、ティルは着替えを完了した。そして、椅子に乗りながら制服を壁にかける。
「それに」
ティルは、椅子から降りると、首をブンブン横に振った。
「考えないようにしよう」
(でも、明日学校に行ったら、考えちゃうよね)
ティルは、消せない考えから逃げるように、自室を出た。そして、グレゴリオとノエル、ノエルのお腹の中のリノと共に昼食を摂り始める。
(お父さん、お母さん、前のイテラリピティでは、力を私にくれてありがとう。でも、イテラリピティで私の力、どうなったんだろう?)
ティルは、カリッとしたパンを頬張る。
「パン、美味しい!」
「よかったわね」
ノエルが返すと、グレゴリオは尋ねた。
「フレンツェルさんの所のかい?」
「そうよ」
グレゴリオとノエルは微笑んだ。
(だ、駄目。家でも考えが止まらなかったんだ)
ティルは、頬張ったパンや野菜盛りなどを振り切りたい考えを消すように飲み込んだ。それから、グレゴリオは、夜の勤務の為に出勤して行く。ティルはそれを見送り、入学式を済ませた日の午後を過ごした。
翌日、ティルは下を向きながら登校する。
(出来れば、皆の顔を見たくない)
そして、授業初日が始まる。そんな日のモニカの第一声が教室に響く。
「はい!皆さんおはようございます!!」
「おはようございます」
ティル他児童達は、挨拶を返す。朝の会を経て、この日の1時間目が始まる。
「はい、1時間目は学級活動です。まずは、皆さんの自己紹介の時間にしましょう」
その一言から登録番号順に簡単な自己紹介が始まる。
「私は、フェリシア・メンデスです。えっと、よろしくお願いします」
(フェリシアちゃん)
「僕は、ハワード・フリーダーです。よろしくお願いします」
(ハワードくん)
「私は、エリン・フレンツェル。よろしくね!」
(エリンちゃん)
「僕は、ラインハルト・マラブルだよ。よろしくね」
(ラインハルトくん)
「私は、ティル・ラーナー。よろしくお願いします」
そんな自己紹介の時間が終わると、学級委員の選出の時間が来る。学級委員長、学級副委員長、書記、会計が決まる。学級委員長は勿論、ハワードであった。
「学級委員長になった、ハワード・フリーダーです。よろしくお願いします」
(ハワードくん、こんな私を叱って。まだ、私は、ハワードくんにとって知らない人だけど、早く叱って)
やがて、1時間目が終わった。休憩時間になるなりティルは、1人で中庭へと行った。そして、誰にも届く事のない小声で言った。
「このイテラリピティで、もし、またフェリシアちゃんが天国に行っちゃったら、私、またイテラリピティをお願いするの?」
(フェリシアちゃんだけじゃない。お父さんだって、お母さんだって、リノだって、エリンちゃんだって、ハワードくんだって、ラインハルトくんだって、オリーン先生だって、天国に行っちゃったら、またイテラリピティをお願いするの?)
「そんな私、嫌だ」




