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80時間目:退院と

魔法移植が終わってから、拒絶反応の有無や、移植した魔法がきちんと定着し、増えるかどうかを確認する為、ティルは更に2週間の入院生活を送ることになった。魔法移植から2日後、ノエルが見舞いに来た。その胸には、リノが抱っこされていた。


「リノ!」


 ノエルは、ティルの元気な声に微笑み、言った。


「リノ?お姉ちゃんよ」

「お母さん、リノを抱っこしたい!」

「大丈夫?」

「うん!大丈夫!!」


 ノエルからティルに渡るリノ。しかし、リノは驚き泣きだしてしまう。


「リノ、リノ、私、嫌?」


 しかし、しばらくするとリノは、ほわんほわん光りながら泣き止んだ。そして、ティルの目を真ん丸な目で見つめてきた。


「よかった。泣き止んだ。うー、リノ、かわいい」

「そうよね?かわいいわよね?」


 ノエルは、柔らかく言った。そして、尋ねる。


「体、どうなの?」

「凄く楽になったよ!!」


 ぱっと笑顔になるティルを見て、ノエルはほっと胸をなでおろした。すると、昼食が運ばれてきた。魔法が回復した事から、食事は高栄養の物ではなく普通の物に切り替えられた。そんな昼食がティルの目の前に置かれる。男性看護師は微笑みながら言った。


「赤ちゃん、かわいいね?」

「うん!リノ、かわいい!!」

「お姉ちゃん自慢の赤ちゃんだね」


 ティルは底なしに明るい顔を看護師に見せた。そして、ティルはリノをノエルに返し、昼食を食べ始めた。ノエルは尋ねる。


「美味しい?」

「う、今まで凄く濃かったから、なんか味が薄いの」

「あら」

「お母さんの料理、早く食べたいな」


 わずかにノエルの目に涙が浮かぶ。


「そうね、私も早く食べさせてあげたいわ。ティル、退院したら何食べたい?」

「煮込みご飯」

「わかったわ、特別に頑張って作るわね」

「うん!」


 そうティルが返事をすると、再びリノが泣きだす。ノエルは、目をこすりながら言った。


「リノもご飯の時間ね」


 そうして、ノエルはリノに授乳をし始める。その様子をティルは食事を進めながら温かく見守った。


 それからというものの、ティルに移植した魔法への拒絶反応は見られなかった。また、ティルの正統魔法は、順調に増え、退院の日を迎えた。ティルは主治医である男性医師に言った。


「先生、ありがとうございました!!」

「うん、元気な挨拶だね。よかったよ。これからも元気でね」


 また、医師は言った。


「お父さん、お母さん、その後体調はどうですか?」


 グレゴリオは答えた。


「おかげさまで、良くなってきています」


 リノを抱っこしているノエルも答えた。


「大丈夫です」


 医師は、柔らかく頷き、こう言った。


「では、皆さん、また魔法に何かあったらいつでも来てくださいね。お大事に」


 ティルは、両親と共に「はい」と返事をし、病院を後にした。そして、2ヶ月ぶりの家にティルは入る。


「ただいま!」


 それから、ティルは自室へ。


「久しぶり!私の部屋!!」


 元気な声を響かせた。しかし、すぐに息を飲んだ。


(私の鞄、傷だらけだ)


 ティルの脳裏に、あの日がよみがえる。


(う、駄目)


 ティルは首をブンブン横に振った。


「っていうか、夏休みの宿題やらなきゃ。今日はなんか疲れたから、明日と明後日やろう。お休みだし」


 意を決し、鞄から夏休みの宿題の問題集を取り出した。そのままパラパラめくる。


(いつものだね。2日あれば大丈夫)


 一応、ティルは最後のページまで目を通す。そうしていると、わずかにまろやかな匂いが部屋に入ってくる。その匂いは、ティルの鼻をくすぐった。


「この匂い、煮込みご飯だ!」


 ティルは、問題集を机に置いて1階へと降りて行った。そして、昼食の時間となった。リノは寝床に寝かされていたが、食卓に、ティル、グレゴリオ、ノエルが揃って座る。そこでノエルは言った。


「さ、食べましょ」

「うん!」


 ティルは元気に返事をし、煮込みご飯をのどにくぐらせた。


「煮込みご飯、やっぱり美味しい!ありがとう、お母さん!!」


 同じく煮込みご飯を口にしたグレゴリオとノエルは、ティルから目を反らす。その目には、涙。グレゴリオは震える声で言った。


「ティルが、ここに、いる。ああ、なんて幸せな食事なんだろうね?」

「そうね、グレゴリオ。長かったわね」


 ノエルの声も震えていた。ティルは、そんな両親を交互に見た。


(私も、食べる時1人だった)


 ティルは、ふた口目の煮込みご飯を口に運ぶ。なめらかな刺激が、涙を刺激した。


「う、美味しい、美味しいよ」


 ティルもポロポロと涙を落とす。食卓は、涙の洪水に遭う。それを止めるようなリノの泣き声が家中に響く。ノエルは、涙を必死に拭き、リノの元へ。ティルもそれに続いた。そして、ティルは言った。


「リノ、これからずっと一緒だよ!」


 それから、グレゴリオは仕事に向かった。夜の勤務に向かったのだ。一方、ティルとノエルは夜、言葉を交わした。


「お母さん、おやすみ」

「おやすみ、ティル」


(お母さんにおやすみ言って寝るのも久しぶり。今度はお父さんに言いたいな、おやすみって)


 それから、ティルはすぐに眠りに就いた。


 翌日、ティルは夏休みの宿題の問題集にとりかかる。ノエルは、そんなティルをチラチラ見ながら家事やリノの世話をした。昼前、グレゴリオが帰宅する。


「ただいま」

「おかえり!お父さん!!」


 グレゴリオは、ティルに近づく。そして、尋ねた。


「これ、夏休みの宿題?」

「うん。病院にいたから、出来なかったから」


 ティルのその言葉の途中で、問題集はグレゴリオに回収された。


「え?お父さん?」

「これは、やらなくていい」

「え?何で?」

「ティルを、もうあの学校には行かせないから」

「えっ」


 ティルは、それに続く言葉が見つからなかった。




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