78時間目:謝罪
夏休みは、1ヶ月経過した。グレゴリオがティルの見舞いに単独で来て、開口一番にこう言った。
「ティル。ティルをいじめた男の子、ようやく昨日逮捕されたよ。取り調べの時は、本当にティルは頑張ったね」
「そうなの」
ティルの脳裏に、あの青い制服がよみがえる。グレゴリオは、言った。
「けど、けれど、ティルの力は、戻らないね」
「うん」
ティルの正統魔法は、全く回復していなかった。本来なら魔法で成長する子供の身であるティルは、高栄養の病院食にてその成長が支えられていた。
沈黙が病室に訪れる。しばらくすると、グレゴリオは口を開く。
「さて、帰るよ」
「え?もう?」
「これから、お客さんが家に来るんだ」
「そうなの。じゃあ、またね」
そう言葉を交わした後、グレゴリオは瞬間移動にて帰宅して行った。
「お父さん」
ティルは呟いた。
それからティルは病院で時間を過ごすが、夕方、病室にモニカが訪れた。
「お、オリーン先生」
「ラーナーさん、今回の事は、とても辛い思いをされましたね。学校として守ってあげられなくて、お詫びします。本当にごめんなさい」
モニカは頭を深々と下げた。
「先生は、駄目じゃないです。ごめんなさいなんて、しなくていいです」
そのティルの言葉に、モニカは頭を上げる。そして、言った。
「ラーナーさん、あなたは優し過ぎます。怒っていい事なんですよ?」
「怒っても、何も、変わらないです」
モニカは、縮こまりながらうなだれた。そして、そのまま言葉を返した。
「それが、その言葉が、我々メビラ学園への叱責と捉えましょう」
モニカは再び頭を上げ、言葉を続けた。
「実は、先程まで、ご両親とお話していたんです。保護者説明会が無い代わりに、私が説明しなければと思って」
(だからお父さん帰っちゃったんだ)
「色々、お叱りを受けました。特に、お父様から」
(お父さん、ここで怒ったあの顔を、先生にも見せたのかな?)
「お父様やお母様にとって、今の学園の児童生徒は後輩にあたるそうですね」
「そうです」
「その後輩の指導がなっていない事、そして、その後輩がやってしまった事への説明が無かった事、更には、事件の捜査に非協力的だった事、とてもご立腹のようでした」
「お父さん、お母さん、そうだったんですか」
「とても、申し訳なかったです」
モニカの目が伏せられる。
「先生、そんな、先生は悪くないです」
「ありがとうございます。けれど、私は、学園の職員の1人ですから、全く責任が無いとは言えません。だから、今日、ラーナーさん本人にも、怒られに来たんですよ」
モニカの目に涙が浮かぶ。
「なのに、私を庇ってくれるなんて、本当にラーナーさんは、優しい女の子ですね。私は、あなたの担任になれてよかったと思っています」
「先生、私、先生を好きです」
遂に、モニカの涙は決壊した。
「すみません。ラーナーさんのその心の痛みと比べたら、私の痛みなんて、小さい物なのに」
「先生、私も、いっぱい、いっぱい泣いたんです。先生が泣いちゃ駄目って事ないです」
それから、モニカは涙で言葉を紡げなくなった。ティルは、そんなモニカを見つめた。しばらくして、モニカの涙は収まる。そして、こう言った。
「謝りに来たのに、慰められてしまいました。なんだか恥ずかしいですね。でも、今日ラーナーさんの顔を見れてよかったです。ご両親の反対を押し切って来てしまいましたし、あれから1ヶ月経ってから来たのは遅過ぎるとも思いましたが」
ティルは、首を横に振りながら返した。
「先生、私も先生と会えてよかったです」
「では、お早い回復を祈ります」
そう言うと、モニカは瞬間移動にて帰宅して行った。
「オリーン先生、また会おうね」
ティルは、モニカがいた所を見つめ言った。しばらくそうしていたが、ティルは窓の方へ視線を移した。
「明日。明日だったよね?リノが産まれるの。お母さん、頑張って」




