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74時間目:弔い

ティルは、目を覚ます。無機質な白い天井が、まず始めに目に飛び込んできた。そんなティルの耳に、ノエルの声が届く。


「ティル?ティル!起きたわ!!」

「お母さん?」


 体が鉛のように重く、全身に痛みが走るが、ティルは声を絞り出した。すぐに、涙に震えるノエルの声が返る。


「良かった、ティル」


(お母さんに、泣かないでって言いたいのに、駄目。痛くて、重くて、駄目)


 虚ろな目のティルの傍らで、ノエルはひととおり泣いた後、大きなお腹を抱えつつ病室を出て行った。


(お母さん、ここ、どこ?)


 しばらくすると、ノエルは中年の男性医師を伴い病室に入ってくる。医師は、わずかに緊張の色を見せてはいたが、笑顔でこう言った。


「1日危ない状態だったけど、目が覚めて、良かったね。大丈夫かい?話せるかい?」


 ティルは、ギュッと目を瞑り、首を横に小さく振った。


「体力がまだないからだね。無理しないでね。ここで、少しの間休んでからお家に帰ろうね」


 ティルは、仰向けで首を傾げた。ノエルは言う。


「今のティルは、大変だから、ここにお泊りよ」


(入院、って事だね。それより)


 ティルは、再びギュッと目を瞑り、声を絞り出した。


「あ、の、フェリシアちゃんは?」


 ノエルの目は、極限まで見開かれる。その奥には、かなしみしか無かった。一転、ノエルも一瞬ギュッと目を瞑り絞り出すような声をティルに聞かせた。


「天国へ、行ったわ」


(フェリシアちゃん。嘘、嘘!嘘!!)


 ティルの目に涙が浮かぶ。ノエルも涙を再び浮かべる。そのまま、ノエルはティルの元へ行き、その額を撫でた。


「ティルが生きてて良かったって、私、思ってる。けれど、けれどね、メンデスさんの家族の事考えたら、どうしていいか、私、わからなくて」


 ノエルの涙が、ティルの頬に落ちた。一方、ティルの涙も溢れ、枕を濡らす。そんな中、医師はこう声をかけた。


「今、急いでそれを決める必要はないですよ、お母さん。娘さんと一緒に、気持ちを整理していけばいいです」

「ありがとうございます」


 遂に泣き崩れるノエル。ティルも、声を上げて泣いた。


「フェリシアちゃん、フェリシアちゃん!守れなくて、ごめん!!」


(こんなの、嫌だよ!!)


 ティルとノエルが泣き叫んでいる所に、仕事を終えたグレゴリオが入室してきた。


「ティル?ティル!起きたのかい!!」

「そうよ、グレゴリオっ!!」


 グレゴリオも涙を浮かべ始める。そんなグレゴリオは、医師の手を握り、こう言った。


「先生、ありがとうございました!!」

「いいえ、どういたしまして。私は後ほど改めて診察に来ます。しばらく親子で時間を過ごしてください」


 そう言った医師は、病室から退出して行った。それを見送ったグレゴリオは、妻と娘の所へ。右手でノエルの背中を支えつつ、左手でティルの両手を包んだ。そして、落涙する。


「このまま、ティルが起きなかったら、どうしようと、思っていたよ」

「私もだわ。グレゴリオ」


 ティルは、泣き疲れ今にも意識を手離してしまいそうだったが、精一杯声を絞り出し、こう言った。


「お父さん、お母さん、かなしい思いさせてごめん。あの、あと、フェリシアちゃんにも謝りに行きたい」


 グレゴリオとノエルは、ティルを凝視した後、2人で目を合わせた。そして、グレゴリオが答えた。


「先生に、相談だね」

「うん」


 ティルは、言いたい事を言えた事から、目を閉じる。ノエルが慌ててティルを揺さぶった。


「ティル!しっかりして!!」


(ご、ごめん、お母さん)


 ティルの意識は、途切れた。


 再びティルが目を開けると、若い男性看護師がいた。グレゴリオやノエルの姿は無かった。


「お父さん?お母さん?」


 ティルの細い声に、看護師が返した。


「お父さんはお仕事、お母さんはお家だよ。よく、また起きれたね」


 間髪入れずに、医師が瞬間移動にて入室してきた。そして、言った。


「ティルちゃん、お父さんとお母さんから聞いたよ。天国へ行っちゃったお友達に謝りたいんだね?」

「うん」

「でも、今すぐには行けないよ。君の体は、今危ないからね」

「でも、謝りたい。お葬式に、出たい」


 医師は、大きめの呼吸を一度した後、看護師をチラと見て、こう返した。


「わかった。その代わり、この看護師のお兄ちゃんと一緒だよ?」

「うん」


 それから、急遽話し合いをし、正式にティルはフェリシアの葬儀に行けるようになった。


 夏休み4日目。それは、フェリシア・メンデスの葬儀が行われる日であった。ティルに同伴したのは、看護師の他にグレゴリオ。そのグレゴリオは、厳かな雰囲気の葬儀堂を目の前にしてこう言った。


「ティル、無理は駄目だからね?少しでもおかしかったら、僕か看護師のお兄ちゃんに言うんだよ?」

「うん」


 紫の喪服を着たティル、グレゴリオ、看護師は、葬儀堂へ入って行った。最前部にある殺風景な祭壇を見ると、フェリシアが柔らかい紫の光に包まれながら横たわっていた。


「フェリシア、ちゃん」


 ティルの視界が歪む。その先で、フェリシアの母親がフェリシアを抱き上げた。


「フェリシアちゃんの、お母さん」


 ティルは、看護師に支えられながら、フェリシアの元へと歩み寄る。ふっと見上げた先には、目を潤ませたグレゴリオもいた。ティルは、一旦下を向いた後、意を決し口を開く。


「あの、私、ティル・ラーナーです」


 フェリシアの母親の頬には、涙の川。震える声でこう返した。


「私は、イルマ・メンデスよ」

「フェリシアちゃんに、謝りたくて、来ました」

「何を謝るの?」


 イルマはフェリシアを一旦祭壇に戻す。ティルは、傷跡は残れど、綺麗にされたフェリシアの顔をまっすぐ見て言った。


「フェリシアちゃん、助けられなくて、ごめんね」

「助ける?」

「フェリシアちゃん、こわがってたから、いじめてきた人と私、喧嘩したの。でも、フェリシアちゃん、天国行っちゃった。ごめん、ごめん、ごめんなさい」

「フェリシアを、守ってくれたのね?」


 ティルは、頷いた。


「ありがとう、フェリシアもきっと感謝してるわ」


 イルマは、一旦下を向いた後、再びフェリシアを抱き寄せた。


「フェリシア、守ってもらってたのね?よかったわ。でも、なんで、フェリシアだけ、天国に行っちゃったの?」


 誰もその問いに答えられる者はいなかった。グレゴリオは、その代わりに深々と頭を下げる。そんな様子が目に入ったイルマは言った。


「もしかして、ティルちゃんのお父さん?」

「そうです、グレゴリオ・ラーナーです。この度は、心からお悔やみ申し上げます」

「ありがとうございます」


 そうしていると、フェリシアの親戚や、モニカが葬儀堂に入ってくる。葬儀が近い事を知らせた。グレゴリオはそれを感じ、ティルに声をかけた。


「そろそろ、式が始まるね。席に着こう」

「うん」


 ティルは、再び看護師に支えられながら適当な席に座った。ティルは前を見る。自分達と入れ替わるように、モニカがイルマに挨拶をする光景が目に入った。


「オリーン先生」


 そんなティルに隣のグレゴリオは、言う。


「ティル、フェリシアちゃんに贈りたい花、あるかい?式に必要なんだけど、今のティルじゃ出せないから、代わりに僕が出そうと思ってるんだ」

「えっと、ひ、ひなぎく」

「わかったよ、ひなぎくだね?」


 そのやり取りが終わった頃、10人程の明るい紫の装束を身にまとった男性が葬儀堂の前部に1列に並んだ。この男性達は、聖歌隊だ。そんな聖歌隊の中央に立った男性が、一歩前に出て、拡声魔法にてこう言った。


「本日の喪主、シェルト・メンデスです。皆様、本日は娘の葬儀にご参列いただき、誠にありがとうございます。これより、葬儀を執り行います」


 シェルトは、深々と頭を下げた。これにより、フェリシアの葬儀が開式となった。数秒下げた頭を上げたシェルトは、言葉を続けた。


「はじめに、皆様、献花をお願いします」


 参列者の大人達はバラバラに、「ピイアエンネ、ティア」と唱える。更に、それぞれのフェリシアに贈りたい花の名前を言った。グレゴリオも例外ではなく、こう言う。


「ひなぎく、アカシアの花」


 すると、グレゴリオや参列者の方から、祭壇に様々な花が飛んで行き、フェリシアを囲んだ。


(お葬式、初めて。とっても苦しいよ)



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