71時間目:12回目の入学式
(私、ティル!ティル・ラーナー!!うん、駄目。いつものように私の名前言ったけど、全然そんな気分じゃない)
ティルは、学校の講堂内で自らの入学式を待っていた。いつものようにグレゴリオとノエルを探し、2人と手を振り合い、ニッと笑う。
(お父さん、お母さん、私、元気に見える?)
それから、ティルはひととおり初等部1年生の顔を見回す。すると、少し遠くのラインハルトが目に入る。
(また、はじめまして、なんだろうな。ラインハルトくん。でも、今日もかっこいいよ、ラインハルトくん)
引き続き、少し近くのエリンが目に入る。
(エリンちゃん、また私を知ってるの、エリンちゃんだけになったね。でも、なんだかそれが今の私には辛いなぁ)
最後に右隣に座るハワードに目が行く。
(ハワードくん、きっとエリンちゃんへの好き、消えたよね?さびしいよ、苦しいよ)
ティルは、間もなく入学式が開式になるのを講堂の前を向きながら感じた。入学式は開式。ティルは国歌を完璧に歌い上げる。その後の学園長挨拶を待った。学園長のイヴァンは、紫色のスーツという出で立ちで舞台から拡声魔法を用いて挨拶を始める。
「春の花が咲き誇り始めたこの良き日に、メビラ学園に入学の皆さん、ご入学おめでとうございます。これから初等部、中等部、高等部と12年間、魔法をはじめ、この学校で世の中の事を学んでください」
(いつもなら、ここであくびが出るのに、なんだか出ない。でも、それでいいんだよね?ね、ハワードくん、偉いでしょ?あくびしなかったよ。その代わり、ハワードくんにとって私、入学式に隣に座ったただの子になっちゃうけど)
それから、ティルは来賓の紹介、挨拶等を聞き、モニカの新入生の点呼を受けた後、イヴァンから魔法の杖を受け取った。
(杖かぁ)
「これから、よろしくね?」
入学式の閉式後、移動した教室では、保護者と共にモニカの挨拶を受けた。
「今日から皆さんの担任になります、モニカ・オリーンです。よろしくお願いします!」
それから、教科書が入る魔法の杖の説明を経て、クラスメイトとの写真、家族との写真をそれぞれ校門で撮影した後、ティルはノエルと共にグレゴリオの箒にて帰宅した。
帰宅すると、着替えの後、ティルはクラスメイトとの写真の玉を見る。
「皆」
立体映像が出せるその玉を映像を出さずに見つめる。
(前の前のイテラリピティでハワードくんが言ってくれたのに、皆に会えるだけで嬉しいって思いたいのに)
ティルの涙が頬を伝う。
(やっぱり、やっぱり!皆の中から私が消えるのは嫌だよ!!)
「イテラリピティなんて、大嫌い!」
それから、ティルは昼食を摂るなど、入学式の日の午後を過ごす。
仕事に出るグレゴリオとリノをそのお腹に宿しながら家事をこなすノエルはいつも通り。ティルはため息をつく。
(何回、これを繰り返すの?誰か、教えて)
翌日。ティルは虚無な目で登校。教室に行くと、迷わず自らの席に着く。やがて、モニカが教室に来て、第一声を教室に響かせた。
「はい!皆さんおはようございます!!」
「おはようございます」
ティルは小声で挨拶した。他の児童達は、元気に挨拶を返す。それから、朝の会を経てこの日の1時間目が始まる。
「はい、1時間目は学級活動です。まずは、皆さんの自己紹介の時間にしましょう」
その一言から登録番号順に簡単な自己紹介が始まり、ティルの番が来た。
(これ、12回目)
「私は、ティル・ラーナーです」
(ねぇ、皆、オリーン先生、何回自己紹介したら、私を知ってる人になるの?)
そんな自己紹介の時間が終わると、モニカは言った。
「次に、学級委員を決めます。学級委員長になりたい人、手を挙げてください」
ティルの右斜め前に座るハワードが手を挙げた。それを受け、モニカは言った。
「ハワード・フリーダーさんが学級委員長でいいですか?」
ティル含めた児童の拍手がそれを承認する。拍手が収まった後、学級副委員長、書記、会計が次々に決まっていく。ティルは手を挙げずにそれを見守り、決まる度に拍手を贈る。そして、モニカがこう促した。
「さあ、改めて学級委員の皆さん、自己紹介をしてください」
「学級委員長になった、ハワード・フリーダーです。よろしくお願いします」
(ハワードくん、12回目の学級委員長、頑張ってね?私、近くに座ってるけど、今回は一番遠いクラスメイトになるよ)
1時間目が終わり、休み時間が来る。すると、エリンがティルに駆け寄る。
「ティルちゃん!一緒のクラス、私嬉しいよ!!」
「そうだね」
「ティルちゃんは?」
「嬉しいよ」
エリンは首を傾げた。
「うーん、ティルちゃん元気ないよ?どうしたの?」
「私は、元気だよ?」
エリンは、小声になる。
「緊張してる?学級委員長になった人、凄くこわそうだもんね?」
(エリンちゃん、先月は、その学級委員長にとくんしてたんだよ!!なんてこと言うの?)
「こわくないよ、エリンちゃん。それに、緊張もしてないよ」
「な、なんか、ティルちゃん、怒ってる?」
「怒ってないよ、エリンちゃん」
(エリンちゃん、駄目、なんか、私、変。もう、話しかけないで)
「変なの、ティルちゃん」
エリンは、口をへの字にして自らの席に戻って行った。
(ごめん、エリンちゃん。今のエリンちゃんにとっては、やっと同じクラスになれた私だもんね。いっぱいしゃべりたいよね?でも、私、駄目。もう、これから話せなくなってもいいよ)




