7時間目:勉強と色んな準備
魔熊の乱入という事件はあったものの、終わってみれば楽しい物となった遠足も終わり、ティルの学習は、通常の物に戻った。
その日の最後の授業は、生活科であった。その時間も最終盤に差し掛かった頃、モニカがこう言った。
「復習です。私たちの住んでいる国の名前は?挙手!」
次々に児童達の手が挙げられる。1人の女子児童が指名される。
「レボルテ!!」
「はい、正解です。では、このメビラ学園がある地域の名前は?挙手!」
再び児童達の手が挙げられる。1人の男子児童が指名される。
「レソラだよね!!」
「はい、正解です。今日の宿題を出します。このレソラ地域の好きな所を、明日、明後日のおやすみを使って探してきてください」
そして、モニカはこの宿題専用の用紙を魔法を用いて全児童に配った。
「そして、この用紙に書いて来週提出してください」
ティルはじめ児童達は、「はーい」と返事をした。
翌日、ティルは宿題にとりかかる。
「ね、お母さん、外で宿題してくるね」
「何の宿題?」
「レソラの好きな所、探すの」
「いいわね。私も、一緒に行っていい?散歩したいから」
「うん!」
用紙片手に、ティルはノエルと外出して行った。見上げれば、青空を背にかわいらしい雲がゆったりと流れていた。風はそよそよとティルの頬を撫でていく。
「レソラの好きな所、この風景にしようかな?」
「ええ?駄目よ。ちゃんと、『ここ』って所を書いた方がいいわよ。先生は、レソラの事を知って欲しいって宿題出したんだと思うわ。多分だけど」
「うーん。わかった!」
ティルとノエルは、再び歩き出した。そして、大通りに出て、動く歩道に乗る。わずかに夏の気配が感じられる風がティルとノエルを包む。
「この街は、お父さん達が守ってる。やっぱり、『どこか』なんて決められないよぉ」
「そう。なら、『お父さんが守ってるこの街』って題名で色んな所書いてみたら?」
ノエルの笑顔に応え、ティルも笑顔を返す。
「うん!そうする!!ありがとう!お母さん!!」
それから、ティルはキョロキョロ周囲を見回しながらこう言った。
「あ、お父さんの警察署まで行こうかな?」
「さすがに遠いわよ。それに、グレゴリオの仕事の邪魔よ」
「あ、そうだね。ごめん」
「そうよ。でも、わかってくれて偉いわ。ティル」
ノエルはティルの頭を撫でた。
それから移動を続けると、大きな橋に差し掛かる。ティルはその橋が架かる川の上流方面を見ながら言った。
「この川、遠足で行った公園の川だよね?」
「そうね」
「あの時は、楽しかったよ」
「そうなの。あの公園は、色々遊べるからね」
「それに、お父さんかっこよかったんだよ」
「魔熊の事ね?ティルも、グレゴリオも、同級生達も、先生達も皆、無事でよかったわ」
「うん」
そして、ティルはそれから1時間かけて街を巡った。川の風景や商店街等の情報が用紙に書かれ、宿題は完成した。
「終わった!!」
「じゃあ、帰ろうか」
「うん」
そして、ノエルは帰宅の手段を瞬間移動に決めた。ティルの手を握ったノエルは、こう唱えた。
「ティエ、エレエ、ティエーレア、エッセピオエーレ、ティオ!家へ!!」
次の瞬間、家の前にティルとノエルはいた。そして、鍵を解除した後、2人は家に入っていく。
「お母さん、楽しかった!」
「私もよ、ティル」
翌週、ティルは宿題の用紙をモニカに提出した。モニカはティルに声をかけた。
「ラーナーさんは、初等部1年生なのに、字が上手ですね」
「あ、ありがとうございます、先生」
その日の授業も終わり、帰りの学級会が開かれる。その日、ティル達の元に、印刷物が配られた。ティルはそれを見て呟く。
「運動会だ」
印刷物には、運動会の日程や種目一覧が載っていた。モニカは言う。
「それを皆さんのお父さん、お母さん等に渡してください。そして、今後の体育の授業は、運動会の練習をします」
ティルは、他の児童と共に「はーい!」と答えた。
帰宅すると、ティルはノエルに運動会を知らせる印刷物を渡す。ノエルはグレゴリオと一緒に印刷物を見た。グレゴリオはそれを読みながら言った。
「ティルにとって初めての運動会だね。その日は休みだから、急な仕事が入らなければ、見に行ける。ああ、よかった」
「嬉しい!お父さん!!」
「行けなかった時は、グレゴリオの分までティルを応援するわ」
「そうならないように願うよ。けど、その時は頼んだよ、ノエル」
グレゴリオとノエルは、印刷物に書かれている運動会の種目に目を落とした。ノエルは尋ねた。
「もう、決まってるの?何に出るか」
「えっと、箒リレー」
グレゴリオは、箒リレーの時間をチェックしながら尋ねた。
「本当かい?何番目に飛ぶんだい?」
「7番目」
「あらー、最終飛行者の前じゃない」
「そう」
「頑張るんだよ!ティル!!」
「うん!」
翌日の授業。3時間目は、算数であった。黒板に、さくらんぼが5個あり、2個食べたら、何個残るかを問う問題が書いてあった。モニカは言った。
「さて、実物を使って考えてみましょう」
そして、モニカは1人1人の児童の机の上に、薄手の白い紙を乗せて行った。それが終わると、モニカの呪文が教室に響いた。
「チイ、ビオ。さくらんぼ!」
すると、全員の紙の上に5個ずつさくらんぼが出現。
「さあ、皆さん、さくらんぼを2個食べてください。はじめは2個だけですよ?食べ過ぎないように!」
それに促され、児童達は、さくらんぼを2個頬張った。一方、ティルは、さくらんぼに伸ばす指先が震える。
「さ、さくらんぼだよね。う、うん、食べる」
その呟きの後、意を決してティルはさくらんぼを口にした。ゴロゴロとした種が少し邪魔ではあったが、甘く爽やかなさくらんぼにほっとする。そして、ティルは、他の児童と共にこう言った。
「美味しい!」
それを受け、モニカは言った。
「紙に残ったさくらんぼを数えましょう!」
その声に促され、ティルはじめ児童達は、「いーち、にー、さん」とさくらんぼを数えた。
「はい!この問題の答えはわかりましたね?」
再び教室に児童全員の「3個!!」という声が揃う。
「はい、正解!3個でした!!このような問題は、7月の試験にも出ますので、よく復習してくださいね。さ!残りのさくらんぼも食べてください!!」
ティルは、他の児童と共に、さくらんぼを完食した。すると、3時間目の終わりを告げる鐘の音が鳴った。ティルは、教室の後方にある年間の行事予定を見て、こう呟いた。
「そうだ、6月の終わりには、運動会、7月になったら、一学期の試験。うわー、忙しい」
その呟きが聞こえたエリンが話しかけてきた。
「でも、運動会楽しみだよ!ティルちゃんと一緒に箒リレーやれるから!」
「そうだね!フェリシアちゃんともだったよね!!」
そのティルの声が聞こえたフェリシアも来た。
「頑張ろう?ティルちゃん!エリンちゃん!」
自然とティル、エリン、フェリシアは手を繋いで輪を作った。互いの笑顔を交換したが、フェリシアが言葉を続ける。
「でも、試験は緊張しちゃうかも」
「そうだね」
エリンがそれに返答する。ティルは、ひとつため息をついた後、こう返した。
「それも、私、2人と頑張りたい!」
そのティルの言葉に、エリンとフェリシアは再び笑顔になった。そして、口々に「頑張る!」と言った。
その後、下校時間になり、ティルはエリンとフェリシアの3人で帰宅。1人になったティルはこう声を上げた。
「うー、運動会!頑張る!!試験!頑張る!!」




