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6時間目:遠足に行く

5月中旬のこの日、メビラ学園の講堂には、学園長であるイヴァンがいた。イヴァンは講堂前部の舞台から、運動着に身を包む初等部1年生全員にこう言った。


「初等部1年生の諸君、クラスには慣れてきましたか?もっとクラスの仲間と仲を深める為に、今日1日は、遠足を楽しんできてください」


 ティルは、他の児童と共に「はい!」と答えた。そして、1組の児童から講堂を出ていく。3組のティル達も、モニカに誘導されながら講堂を出る。雲ひとつない空がティルの眼前に広がる。


「うーん!いい天気!!」


 その空の下には、児童の保護者数人がいた。引率する担任の補助をするのだ。


「お父さん!」

「おお!ティル!!」


 保護者達の中にいた制服姿のグレゴリオにティルは駆け寄る。グレゴリオは、ティルの父親として、また、警察官として児童達の移動中の交通整理をするのだ。モニカは、グレゴリオに声をかけた。


「警察官のラーナーさんがいてくれるのは、とても心強いです。児童達の安全にご協力ください。今日は、よろしくお願いします」

「はい、お任せください」


 それを聞き届けたモニカは、他のクラスの担任と共にこう声を上げた。


「さあ、みんな!出発しますよ!」


 瞬間移動も、箒での長距離飛行も出来ない初等部1年の児童達は、遠足の目的地へと歩き始めた。担任や保護者達も歩きでそれを見守る。この日の遠足の目的地は、学園近くの川べりの公園である。子供の足で10分程度かかるその公園までの道のりは、動く歩道はなく、ひたすら歩く児童達。出発から数分経った時であった。妙な黒い影が進行方向に小さく現れた。


「きゃー!!」

「うわあー!!」


 前方を歩いていた視力のいい児童達は、それが何かわかり、悲鳴を上げた。その悲鳴が集団の中程にいたティルの耳に届く。5人いたメビラ学園の教諭は声を揃えて「魔熊!!」と叫ぶ。ティルは言った。


「ま、く、ま」


 その声を追いかけるような、グレゴリオの声が。その声は、かなりの早口であった。


「エーレア、ディイオ!こちら、グレゴリオ・ラーナー!市街地に魔熊出没。170名程度の子供等への被害防止に、聖銃での発砲の許可を!!」


 魔熊はよだれを垂らしながら充血した目で児童達の集団めがけて突進してくる。教諭達の「逃げて!」の声と、児童達の悲鳴が路上に轟いた。ティルは、来た道を引き返すように逃げ惑う児童達にもみくちゃにされる。


「お父さんっ!」


 ティルの声は、グレゴリオには届かない。そのグレゴリオは、言った。


「了解!これより、発砲実行!!」


 グレゴリオは、短距離ではあるが、魔熊の元へと瞬間移動。児童や教諭、他の保護者を魔熊から庇うように立ちはだかり、こう唱えた。


「エッセアエンネ、ティオ。ピイ、エッセティオ、エレア!聖銃よ!魔熊を撃ち抜け!!」


 グレゴリオの手には、光で形成されている銃が出現。短時間で魔熊の急所に照準を合わせ、引き金を引いた。すると、まばゆいまでの弾丸が発射され、魔熊に命中。弾丸は、魔熊の邪悪な気配のみ吸収していく。そして、魔熊は、普通の熊に戻り、穏やかに去って行く。それを警戒しながらグレゴリオは見届け、小声でこう言った。


「魔熊、退却。これにて、無線通信終了」


 そんなグレゴリオに、ティルは駆け寄る。


「お父さん!!」

「ティル!それに、皆さんお怪我は?」


 教諭や保護者達は、児童達に怪我がないか確認していく。そして、震える児童や、泣き出す児童がいたが、怪我人がない事が確認された。モニカが代表してこう言った。


「ありがとうございます。ラーナーさん」

「いいえ、怪我人が出なくてよかったです」


 グレゴリオは、そう返すと、ティルを見下ろす。


「勿論、ティルにも怪我がなくてよかったよ」

「お父さん!ありがとう!」


 そうして、目的地の公園に辿り着くティル達。この大規模な公園は遊具等が充実している上に、川で釣り等が楽しめる。ここで、ティル達は思いっきり遊ぶのだ。モニカは、受け持ちの児童達を集めこう言った。


「魔熊はこわかったですね。でも、私達は皆さんを守ります。さて!これから、時間までここで遊びましょう。この遠足は、同級生との交流が目的です。皆さん、なるべく1人ではなく、複数で遊んでください。では、これから怪我等に気をつけて、楽しんでください!」


 その指導を受けたティル達1年3組の児童は、「はーい」と返し、思い思いの時間を過ごし始めた。教諭やグレゴリオ含めた大人は、全体が見渡せる場所にて集まり、子供達の様子を見守る。そんな中、ティルは、ふらふら広場を歩く。


「何して遊ぼう?」


 そんなティルに、フェリシアが駆け寄ってくる。


「ティルちゃん!ね!ティルちゃんのお父さん、本当にかっこよかったね!!」

「ありがとう!フェリシアちゃん!!」


 フェリシアは、遠くにいるグレゴリオをキラキラした目で見始めた。ティルは、しばらくそんなフェリシアを見守りながら、この公園で出来そうな遊びを考えた。そして、こう声をかけた。


「ねぇ、フェリシアちゃん、しゃぼん玉遊びしよう?」

「いいね!」


 すると、ティルとフェリシアは、声を揃えて「ビオエレ、エレエ!!」と唱える。すると、2人の周りにしゃぼん玉が出現。風に乗ってふわりふわり飛んでいく。


「わー!フェリシアちゃんのしゃぼん玉かわいい!!」

「ティルちゃんのは、綺麗だね!!」


 ティルとフェリシアは、笑い合う。そして、しゃぼん玉を追いかけ始める。他の児童達もそれに加わったり、自分でしゃぼん玉を作ったりした。そうしているうちに、公園はしゃぼん玉でいっぱいになった。教諭や保護者達はそれを微笑ましく見ていた。グレゴリオも例外ではない。こんな呟きがグレゴリオから漏れる。


「ティル、楽しそうだ」


 ティルとグレゴリオは目が合う。ティルは、ニッと笑い、グレゴリオは柔らかく笑い、手を振った。


 楽しく遊んでいると、昼食の時間となった。エリンがティルの元へ。そして、隣にいたフェリシアにも話しかける。


「ね!お父さんのパン、2人の分もお願いして作ってもらったの。食べて!!」

「わー!エリンちゃんのお父さんのパンだ!!フェリシアちゃん、食べよう!」

「うん!ありがとう、エリンちゃん。うわー!美味しそう!!」


 そして、ティルは、フェリシアと共にエリンの父親が作ったパンを頬張った。柔らかい舌触りで噛めば噛むほど甘さが溢れるパンであった。


「やっぱり、美味しい!!」


 ティルは、満面の笑みを見せた。


 午後になる。帰り時間が迫ってはいたが、わずかな時間も児童達は、遊びの時間にあてる。ラインハルトは、ハワードにこう言った。


「決闘ごっこをしないかい?学級委員長」

「そんな乱暴な遊びはしない」

「そうかい。負けるのがこわいかい?」

「勝ち負けではない。落ち着いた遊びがしたいだけだ」

「落ち着いた遊び?ここで?」


 ハワードは、周囲を見渡し、元気に体を動かす児童達に考えを変え、こう返した。


「ここは、体を動かす所だったな。受けて立とう」

「ありがとう」


 そうして、ハワードとラインハルトは落ちている木の枝を1本ずつ拾い、両手でしっかり握った。ラインハルトは言った。


「いくよ!学級委員長!!」

「かかってこい!マラブルくん!!」


 ハワードとラインハルトの剣代わりの枝が擦れ合い始める。次第にカンカンと音を立て、激しい打ち合いになっていった。そんな音に気づいたティル。音の方向へと歩いて行った。


「わあ!ハワードくんとラインハルトくんが遊んでる!!2人共!頑張って!!」


 ティルの他に観戦する児童も数人出てきた。そんな中、ハワードは言った。


「君も騎士を目指しているのか?」

「そうだよ!だから、今から強くなりたいんだ!!」

「そうか。僕もいずれ議員となる!その時は、君は僕らが作った決まりの中で働いてもらう!!」

「僕は、騎士としての考えで国に尽くすんだ!議員の駒にはならないよ!!」


 そう言ったラインハルトの一撃で、ハワードは膝をついた。


「くそっ、負けた。もう一度!」

「受けて立つよ!学級委員長!!」


 そうして、今度はラインハルトが膝をついた。


「はぁっ。僕もまだまだだね」

「1勝1敗。ここまでにしよう」

「そうだね」


 ティルは、その決闘ごっこを最後まで見届けた。


「なんか、凄かった!2人共、頑張ったね!!」


 ハワードもラインハルトも急にティルからかけられた言葉に驚いたが、次第にはにかんだ笑顔を見せてくれた。


 やがて、学校に帰る時間が来る。児童達は、何事もなく帰る事が出来た。その後ティルは、1人ニッと笑いながらこう言ってグレゴリオと帰宅した。


「うーん!楽しかった!今日の遠足!!」




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