69時間目:ふたつの繋がり
この日、メビラ学園は三学期を迎えた。始業式が終わり、下校の時間となる。
「ラインハルトくん、一緒に帰ろう?」
「勿論だよ、ティルちゃん」
ティルは、ラインハルトと甘い視線を交わす。そして、そんな2人の横を通り過ぎようとしていたエリンにも声をかける。
「エリンちゃん!エリンちゃんも一緒に帰ろ?」
「ティルちゃん、私、邪魔じゃない?」
「え、大丈夫だよ?」
「そ、そう。だけど、今日は、2人で帰って?」
そう言うと、エリンは、足早に教室から出て行った。
「どうしたんだろう?エリンちゃん」
「まぁ、何か事情でもあるんだろうね。お言葉に甘えてふたりっきりで帰ろう?」
「うん!」
翌日。三学期最初の給食の時間となった。ティルは真っ先にこう言った。
「エリンちゃん、今日の給食、一緒に食べよ?」
「う、うん。えっと、マラブルくんも誘うの?」
「それはそうだよ?」
「じゃあ、そうするよ。でも、先に行ってて?」
「え?うーん、わかった」
ティルは、その後ラインハルトも誘い、食堂へ。そして、ラインハルトと隣り合わせるように着席した。
「エリンちゃん、来るかなぁ?」
「来るさ。食べよう」
ティルは、ラインハルトと共にこの日の給食を口に運んだ。すると、エリンが来た。
「お待たせ、ティルちゃん」
その傍らには、ハワード。ティルとラインハルトは、同じように首を傾げた。ハワードも口を開いた。
「失礼する」
エリンはティルに、ハワードはラインハルトに向かい合うように座った。ティルは言った。
「エリンちゃん、ハワードくんを誘いたかったんだね?なら、言ってくれればよかったのに」
「違うの。もう、約束してたの。だから、その」
エリンの顔がみるみる赤くなる。その傍らのハワードは、一旦咳払いし、言った。
「気にする事はなかったんだぞ?今日の給食といい、昨日の帰りといい。相手はラインハルトとラーナーさんなんだ」
「だ、だけど!ハワードっ」
ティルとラインハルトは、同時に「ハワード?」と言った。そのハワードは、頬を赤く染めながら言った。
「エリン、その呼び方は、ふたりっきりの時って決めてただろう?まあ、いい機会だ。やはり、友人には言おう」
「うん」
エリンは、耳まで赤く染め下を向いた。ハワードは話し始める。
「ラインハルトとラーナーさん、僕とエリンは、正式に交際を始めた。よろしく頼む」
「そうかい、ハワード、それはいい話だ」
「そうだったんだ、びっくりだよ!エリンちゃん」
エリンは熱に浮かされた目をしながら顔を上げた。そんなエリンにティルは声をかけ続けた。
「という事は、昨日、ハワードくんと帰りたかったんだね?」
「それは違うんじゃないかい?ティルちゃん。もう約束してたんだよ」
「そうだ。エリンと僕は、昨日約束の上、2人で下校した」
「そうなの、ティルちゃん。私、昨日はハワードと帰ったの」
ティルは、言った。
「よかったね!」
それから、ティル達4人は、食事を始めた。そんな中、ラインハルトは疑問を口にした。
「冬休みかい?君達が結ばれたのは」
「そうだ。年末のお祭りで、僕がエリンに交際を申し込んだ」
「ハワードくんから好きって言ったんだね?エリンちゃん、嬉しかったんじゃない?」
「ティルちゃん、そうだよ。とっても嬉しかった。凄く、ハワードはかっこよかったよ」
ティルの満面の笑みと、ラインハルトの微笑みが新たな恋人達を祝福した。祝福を受けた2人は見つめ合った。それから4人は残りの食事を済ませ、食休みの時間となった。すると、エリンか笑う。
「ティルちゃん、口に何かついてる」
「えっ?」
ラインハルトも傍らのティルに視線を移し軽く吹き出した。
「確かにね。でも、そんなティルちゃん、かわいいよ」
そう言いながら、ラインハルトは自らの指でティルの口元を撫でるように綺麗にした。その刺激でティルの体中に甘い熱が走る。その傍らのラインハルトは、今しがたティルに触れていた指を舐めた。
「じゃがいも団子のソースだね」
「あ、ありがとう、ラインハルトくん」
「相変わらず、ラインハルトとラーナーさんの雰囲気には中てられる。しかし、同じ事をエリンがしたら、愛らしいかもな」
「もお、ハワードったら。恥ずかしい」
自然と笑いが起こり、穏やかな雰囲気が4人を包む。笑い終えた後、ハワードは言った。
「まあ、僕達も、ラインハルト達も間違いないとは思うが、風紀を乱さない程度に交際していこう」
ティル、ラインハルト、エリンは頷き、学級委員長命令を受け入れた。
その後、午後の授業を経て、ティル達4人は共に下校する事になった。ラインハルトとハワードは、ほぼ同時に手を差し出す。ティルはラインハルト、エリンはハワードの手を取る。2組の影が、動く歩道に向かって歩き出した。
「呼び捨て、か」
ラインハルトの呟きであった。
「ティルちゃん、君の事、ティルって呼んでいいかい?」
「えっ、恥ずかしい!け、けど、呼びたい?」
「ティルちゃんが恥ずかしいなら、止めておくよ。けれど、一度だけ、僕を呼び捨てで呼んでくれないかい?」
「う、うん。私のわがままを許してくれてありがとう、ラインハルト」
「どういたしまして、ティルちゃん」
ラインハルトの眼差しも、ティルの左手を握る右手も、底なしに優しかった。やがて、恋人達の手は離れる。動く歩道が男子組と女子組を別れさせた。ティルは、ラインハルトと別れた後も、左手に残るラインハルトの余韻を噛み締めた。それは、エリンも同じで、右手を愛おしそうにゆっくり握ったり開いたりしていた。
「それにしてもエリンちゃん、本当にびっくりしたよ!」
「ちょっと恥ずかしいなぁ。今も」
「わかるよ。ねぇ、エリンちゃん、恥ずかしいかもしれないけど、幸せ?」
「うん!とっても幸せ!!」
「よかった!!」
それから、ティルとエリンも別れる。ティルは、その目に涙の気配を感じつつも、それを振り切りながら帰宅する。自室へ行くと、1月なのにも関わらず、暦を4月に変える。
(この月、この月が来ますように。イテラリピティが、ラインハルトくんの私への好きを消して欲しくない。そして、イテラリピティが、エリンちゃんとハワードくんをただのクラスメイトに戻して欲しくない)
4月1日を撫でるティルの右手人差し指が震え始める。
「やだ、やだよぉ」
遂に、ティルは落涙した。




