68時間目:年末は
ティルの誕生日の翌日。登校したティルは、改めてラインハルトとエリンに誕生日祝いのお礼を言った。エリンは笑顔を返し、ラインハルトはこう言った。
「心残りは、プレゼントだね。来年、君が8歳になる時には、絶対にプレゼントを用意するよ」
「そうしてあげてよ!マラブルくん!!」
エリンは元気に反応した。ティルは、一瞬動きを止める。
(ああ、ラインハルトくんがそう言うって事は、ラインハルトくんも、イテラリピティを知らない人なんだね)
「うん、ラインハルトくん、楽しみにしてる!」
(イテラリピティがなければ、来年の私、何をもらえたんだろう)
ティルの目に涙の気配。しかし、ティルはそれを堪え、笑顔で自らの席についた。
(う、今日の授業、なんだか集中できなさそう。少し、力を借りていいかな?ハワードくん)
「ね、ハワードくん、私、昨日誕生日だったんだ!」
「それはめでたいな」
振り返ってくれたハワードにティルはこう言った。
「だから、誕生日のお祝いに、今日勉強しなくていいよね?」
「は?それとこれは違うだろう?それに、誕生日は昨日だよな?今日は、関係ない。しっかり勉強するように」
「えへへ、わかった!」
そんなティルの返答を聞き届けた後、正面に向き直る右斜め前のハワード。ティルはそんな背中を見て気合いを入れた。
(なんか、また違う事でハワードくんを使っちゃった。ごめん、もう二度としないよ)
それから、ティルは試験を含めた二学期のラストスパートをラインハルト、エリン、時には、ハワードと共に駆け抜けた。
そして、12月。二学期は終業式まで終了した。ティルは、試験が満点であった事を知らせる成績表と共に下校する。周囲には、ラインハルト、エリン、ハワード。そんな中、ラインハルトは口を開いた。
「ねぇ、ティルちゃん」
「何?」
「年末のお祭り、一緒に遊ばないかい?」
「えっと」
(そうしたいけど、前のイテラリピティでは、クラスの皆と、その前のイテラリピティでは、エリンちゃんと遊んで、2回連続で家族と一緒じゃなかったんだよね。そろそろ家族とも過ごさなきゃ)
「行けないんだ。家、弟が産まれたばかりだから」
そんなティルの返答に、エリンがラインハルトより早く反応した。
「えー!ティルちゃんと、マラブルくんと、学級委員長と私の4人で年末のお祭り行こうと思ってたのに!!」
ティルは、それに答える。
「ごめん、エリンちゃん。私抜きで遊んで?」
一方、ハワードはこう答えた。
「ラーナーさん抜きでというのもいいんじゃないか?僕は、家が厳しいから、約束できないが、なんとか説得して行こうと思う」
エリンは、しょんぼりしながら言った。
「そうだね。ティルちゃん、弟のリノくんと仲良くね?」
「うん、ありがとう。エリンちゃん」
(エリンちゃん、さびしそう。やっぱり、お祭りに行った方がよかったかな?)
話がまとまりかけたその時、ラインハルトは口を開いた。
「ティルちゃんが来ないのなら、僕もお祭りは、やめようかな?」
「えっ!あっ!やっぱり、行こうか?」
慌てるティル。しかし、ラインハルトは穏やかに言った。
「僕の目的は、お祭りじゃないんだ」
「えっ?」
「君だよ、ティルちゃん」
「ラインハルトくん」
ティルの胸がとくんとする。ラインハルトは、こう言う。
「言い出した僕が言うのもなんだけど、年末のお祭りは、ハワードとフレンツェルさんで行ったらいいよ。僕はやめる」
その言葉に、エリンとハワードが同時に赤面する。それを見ずに、ラインハルトはティルに向き合い言葉を続ける。
「僕は、お邪魔じゃなければ、ティルちゃんの家に行こうかな?そこで、君と仲良くしたい」
「あの、お、お祭り行かない代わりに、来ていいよ」
「じゃあ、年末のお祭りの時間に、君の家に行くよ。待っててね」
「うん!」
ラインハルトは、ようやくハワードに視線を移し、穏やかな微笑みを向けた。
「ハワード、僕は、ティルちゃんと仲良くする。君は、フレンツェルさんと仲良くね」
「あ、ああ」
ラインハルト以外の3人の赤面が並んだ。
それから、ティルは帰宅。ノエルに成績表を渡しつつ言った。
「あの、年末の花火の時ね、お友達が来るの。いい?」
「あら、いいんじゃない?」
「よかった。クラスのね、ラインハルトくんが来るんだ」
「そう」
それから、ティルは冬休みに入り、初日には宿題の問題集を解答で全て埋めた。
そして、年末の花火の時間が迫る頃、ティルは、家族揃って玄関の外へ。すると、ラインハルトが両親に手を引かれ瞬間移動してきた。
「ラインハルトくん!」
「ティルちゃん!」
ティルは、ラインハルトは、同時に駆け出す。そして、両手を繋ぐ。笑顔を交換した後、ティルは、ラインハルトの後方を見ながら言った。
「ラインハルトくん、お父さんとお母さんも来たんだね」
「そうだよ。僕の両親にも、かわいい君を見せたかったんだ」
「ラインハルトくん」
ティルはこの日初めてのとくんに身を任せ、言った。
「これから、花火だけ見に行くの!ちょっと歩くけどいい?」
「勿論だよ」
ティルとラインハルトを先頭に、ラーナー家とマラブル家の散歩が始まる。グレゴリオは、少し緊張した面持ちで、フォルカーに声をかける。
「まさか、プルド団の団長さんとお会いするとは思いませんでした。はじめまして、グレゴリオ・ラーナーです。娘がお世話になっています」
「こちらこそ、息子がお世話になっています。はじめまして、フォルカー・マラブルです。息子から聞きましたが、あなたは警察官だと。私は騎士、同じ国の治安を守る方とお会いできて光栄ですよ」
それから、グレゴリオとフォルカーは自然と治安維持の事について話し込んだ。そんな夫を少し離れた所で見ながら、ラインハルトの母親がリノを抱っこしたノエルに歩み寄る。
「赤ちゃん、かわいいですね?ラインハルトが産まれたばかりの頃を思い出します。はじめまして、私、リーア・マラブルです」
「息子をほめてくださってありがとうございます。はじめまして、私は、ノエル・ラーナーです。こっちは、リノ。リーアさんと名前が似てますね」
ノエルとリーアは笑い合う。ラインハルトはそんな母親達を見上げながら微笑む。
「確かに、母と似てるね。君と運命を感じるよ」
「そう?」
ラインハルトの右手は、ティルの左手を取る。繋がれた手は、ゆったり前後に振られる。そうしているうちに、少し長めの坂道を登りきった所の道端に辿り着く。そこで、ノエルに抱っこされているリノを含めた7人は、花火が上がる広場の方角を向いた。一旦離されるティルとラインハルトの手。しかし、確実に同じ方向を見ていた。
(ラインハルトくんだけだと思ってた。けど、ラインハルトくんの家族とこれから花火。楽しみ!)
すると、リーアがティルの元へ来た。
「ティルちゃん、はじめまして、リーアよ。いつもラインハルトと仲良くしてくれて、ありがとう」
少し儚げな、それでいて底なしに柔らかい微笑みをリーアは浮かべた。
(わぁ、ラインハルトくんのお母さん、とっても素敵)
「私、ラインハルトくんと仲良く出来てとっても嬉しいよ!」
そこに、フォルカーも来てしゃがみながらこう言った。
「それは、ありがたい話だね。ティルさん、これからもラインハルトをよろしくね」
「は、はい!」
(遠足の時、ラインハルトくんのお父さんも来たんだよね。その時にも思ってたけど、かっこいい!近くで見ると、本当にかっこいい!!)
気づけば、ラインハルトはティルの傍らにはいなかった。そのラインハルトは、グレゴリオとノエルの元へと行っていた。
「ティルちゃんのお父さん、お母さん、僕は、ティルちゃんと仲良く出来てとても幸せです」
「そうかい?そう言ってくれて、僕も嬉しいよ。ありがとう、ラインハルトくん。確か、君は学習発表会で王子様をやったね?君自身も、王子様のようだ」
ノエルは、そんなグレゴリオの言葉に続く。
「王子様と仲良くさせてもらえて、ティルは幸せね?ラインハルトくん、ティルをよろしくね?」
「はい。お任せください」
そうラインハルトが返事して間もなく、広場の方角から小さなポンという音が聞こえた。そして、間髪入れずにドーンと花火が轟き始める。リノは初めて聞く音に驚き、泣き始めてしまった。
(あ、リノ泣いちゃった!)
ノエルやティルをはじめ、その場にいた全員が代わる代わるリノをあやし始めた。次第に落ち着くリノ。そんなリノの顔は花火の光に染まる。ほっとした一同は、改めて花火を堪能した。再び、ティルとラインハルトの手は繋がれ、年末の寒さを吹き飛ばした。
「ティルちゃん」
「ラインハルトくん」
2人にしか聞こえない愛おしそうな声が、花火にかき消されていった。
15分は続いたであろうか。花火は、一際大きい物が上がり、終了した。その後、花火の余韻を楽しみつつお互いへの新年の祝いの言葉を交わした。そして、フォルカーとリーアは、ラインハルトを挟むように立った。ラインハルトは言う。
「今日は、これで。楽しかったよ、ティルちゃん。また、三学期に会おうね」
「うん!ラインハルトくん、ばいばい!!」
思いきり手を振るティルに、ラインハルトは両親と手を繋ぎつつ微笑みながらフォルカーの瞬間移動にて帰宅して行った。
「ラインハルトくん」
ティルの呟きは、ラインハルトが消えた方向にとけていった。
それから、ラーナー家の面々は帰宅し、就寝する事に。それぞれ挨拶を交わした後、ティルは自室へ。そして、暦をめくり、エスパランタ1536年1月になった事を改めて噛み締めた。しばらく暦を見つめていたが、照明を落とし、眠りに就いた。




