67時間目:増える思い出
ラインハルトとハワードが友人となってから、放課後は、ティルとエリンを加え、4人で下校する日が増えた。そんなある日、ティルは言った。
「学習発表会から、1ヶ月くらい経ったね」
ラインハルトは愛おしそうな視線で、エリンはわずかに顔を染め、ハワードは表情を変えず、3人同時に頷いた。それを見届けたティルは言葉を続けた。
「あの時、名前付きの役やった4人、揃ってるよね?メンデスさんはいないけど」
ラインハルトは言葉を返す。
「確かにね」
「あの、劇で3人姫がいたじゃん?ラインハルトくんとハワードくんさ、誰がかわいかった?」
ラインハルトは、即答した。
「勿論、ティルちゃんのシャルロット姫だよ」
「ありがとう、ラインハルトくん!私も、ラインハルトくんのジュリアン王子がかっこいいって思ったよ!」
「そうかい、嬉しいね」
そんなやり取りの横で、ハワードは少し黙る。その顔は、わずかに赤くなっていた。
「ハワードは?君は、好みの姫はいたかい?」
ハワードは、エリンをチラと見て答えた。
「ふ、フレンツェルさんの、イザベラ姫が、いいと思っていた」
エリンの顔が急激に赤くなる。そんなエリンにティルは耳打ちした。
「よかったね?エリンちゃん。『あの事』言ってみれば?」
「えっ!う、うん」
エリンは、もじもじしながら言った。
「学級委員長、ありがとう。その、私、学級委員長のバティスト、かっこいいと思ってたの」
ハワードの顔の赤みが増す。
「そ、そうか。その、さ、様になっていたか。褒めてくれた事、感謝する」
ティルとラインハルトは、エリンとハワードの顔を見た後、お互いに目を合わせ微笑んだ。そして、ティルは言った。
「今日は、皆で手を繫いで帰ろ!」
ティルは、ラインハルトとエリンの手を取った。1人取り残されるハワード。ラインハルトは、言った。
「ハワード、フレンツェルさんと手を繫いでやりなよ」
「そんな、道を占領するような事出来るか」
「今日だけだよ、ハワードくん」
「う。仕方ない、今日だけだぞ」
ハワードは、エリンに左手を差し出す。
「フレンツェルさん、嫌でなければ、手を繫いでくれ」
「嫌じゃ、ないよ」
エリンは、赤い顔をし、同じく顔を赤くしたハワードの手を取った。
(エリンちゃん、とくんしてるね。意外と、ハワードくんも、とくんしてる?)
それから、動く歩道まで4人は手を繫いで歩いた。その動く歩道は、ティルとエリンの女子組と、ラインハルトとハワードの男子組を別れさせる。お互い、手を離し、別れの言葉を交わした。
その後、エリンと2人になったティルは言った。
「うー、何でラインハルトくんと逆方向なんだろう。ラインハルトくんと一緒に動く歩道に乗りたいなぁ」
エリンは、それに応えず、右手をもじもじさせていた。
(エリンちゃん、とくんで精一杯?)
ティルは、笑顔でエリンの傍らで静かに佇んだ。やがて、エリンの家に繋がる脇道が見える。ティルは、エリンの左肩に触れ、言った。
「そろそろエリンちゃん、お家だよ?」
「あ、本当だ!ありがとう、ティルちゃん!!」
そして、ティルとエリンは別れた。
翌日、ティルが登校するとすぐに、ラインハルトがいつもの微笑みを浮かべ、ティルを見つめてきた。ティルも微笑みを返し、席に着こうとするが、この日のラインハルトの視線は、いつまでもティルに注がれた。
(何?ラインハルトくん、なんだか恥ずかしいなぁ)
ティルは少しラインハルトから視線を外す。ラインハルトの代わりに、エリンの顔が目に入る。エリンは、昨日のもじもじした様子はなりをひそめ、ニコニコしながらティルを見ていた。
(エリンちゃん?何?)
首を傾げながらティルは席に着く。そうして、朝の会や授業を経て、給食の時間がやってきた。すると、ラインハルトが少し早足でティルの所へ来た。
「今日は、給食一緒に食べようか。2人でね」
「うん」
ティルは、微笑み頷いた。そして、食堂へ行き食事を取り分けると、同じく食事を手にしたラインハルトと向かい合うように座った。早速食べ始めようとしたティル。ラインハルトの少し申し訳なさそうな声がかけられた。
「食べる前に、ひとつ聞いて欲しいんだけど」
「ん?何?」
ティルは、目線を上げる。すると、今まで見たことのないラインハルトのあたたかい笑顔があった。その笑顔から、こんな言葉が贈られる。
「ティルちゃん、お誕生日おめでとう」
「あ!今日誕生日だった!!」
(忘れてた)
「ありがとう!ラインハルトくん!!」
「その、今朝フレンツェルさんから聞いてさ、お祝いの言葉だけは言いたくて」
「嬉しいよ。ラインハルトくん」
(エリンちゃんもありがとう!)
しかし、ラインハルトは急に頭を下げた。
「どうしたの?ラインハルトくん」
「昨日までに知ってたら、プレゼントを用意出来たけど、知ったのが今朝だったから、何もプレゼントを君に贈れないんだ。ごめんね」
「いいの!ラインハルトくんのお祝いの言葉だけで嬉しいよ!!」
「そうかい。プレゼントの代わりと言ってはなんだけど、今日は、君とふたりっきりで給食を食べたいと思ったんだ。それに、帰りもふたりっきりで、いいかい?」
「うん!」
「じゃあ、食べようか」
ティルとラインハルトは、給食を食べ始める。ティルは、食事を進めながら言った。
「今日の給食、いつもの味なのに、凄く美味しい。ラインハルトくんがお誕生日お祝いしてくれたからかなぁ?」
「わからない。けれど、よかった。うん、今のティルちゃん、とってもいい笑顔だね。素敵だよ」
「ラインハルトくん」
(あ、とくん)
「大好きだよ、ラインハルトくん!」
「僕も、大好きだよ、ティルちゃん」
やがて給食を食べ終わったティルとラインハルトは、教室へ戻る。ティルは5時間目が迫る時間であったが、既に教室に戻っていたエリンに声をかけた。
「エリンちゃん、私、ラインハルトくんにお誕生日のお祝いをしてもらえたよ!言ってくれてありがとう!!」
「よかった、ティルちゃん!お誕生日おめでとう!!」
ティルが満面の笑顔を浮かべた時、5時間目の授業が始まる鐘が鳴った。それから、次の6時間目まで授業を受け、放課後、ティルはラインハルトと2人で下校する。動く歩道までの道中、ティルの左手と、ラインハルトの右手は固く繋がれ、ひと時も離れる事なくお互いのぬくもりを交換し合った。
その後、帰宅したティルは、グレゴリオ、ノエル、そして、リノにも7歳の誕生日を祝われ、この日を閉じた。
「凄く幸せなお誕生日だった!!」
寝床でのティルの独り言が響いた。




