66時間目:友達増やそう
休日。ティルとラインハルトは、約束通りに会った。年末のお祭りの会場にも使われる広場で、お互いを呼ぶところから2人の会話は始まる。
「ティルちゃん」
「ラインハルトくん」
2人は、見つめ合うだけで満足感が体中に溢れた。しかし、それだけでは飽き足らず、手を繋ぎ、流れで抱き合う。周囲に知らない大人達がいたが、子供のじゃれ合いに微笑ましい視線を注いでくれた。
(とっても幸せ。こういうの、エリンちゃんにも味わってもらいたいなぁ)
「ハワードくんかぁ」
2人の体が離れた頃、ティルの呟きが漏れる。ラインハルトは一瞬顔をしかめた。
「あ、ごめん、ラインハルトくん」
「僕といるのに。でも、大丈夫。君は僕の所にいる。学級委員長はここにはいないからね」
「ありがとう」
ティルは、ラインハルトの腕に抱きつく。
「でも、ひとつだけ、ラインハルトくんにハワードくんの事を言いたいの」
「なんだい?」
「一学期に泣かされたハワードくんに、私がなんで話しかけてたか、ラインハルトくんに知って欲しいの」
ラインハルトは、軽く首を傾げた。ティルは、そんなラインハルトの目を見つめる。
「私、ずっとラインハルトくんにとくんしてた。我慢出来ないくらい凄くとくんしてた時もあったの」
「えっ」
ラインハルトの顔が赤くなる。ティルは、そんな顔から視線を外さずにこう言った。
「そんな時に、ハワードくんに話しかけるとさ、とくんが収まったの。それを、ラインハルトくんは見てるの辛かったんだよね?ごめんね」
ラインハルトの目は、一転熱を帯び始める。
「その話は、本当なのかい?」
「本当。嘘じゃないよ」
「なら、今日その話を聞けてよかったよ。謝らないで。僕は、君の愛を沢山受けてたんだね。ああ、なんて幸せなんだ、僕は」
ラインハルトは、その言葉を言い終わると、ティルの腕から自らの腕を外し、ティルの顔を両手で優しく包んだ。
「でも、学級委員長を『ハワードくん』呼ばわりする君は、見たくないね」
ティルは、熱でとけそうになりながらも、反論した。
「やだ。好きなのは、ラインハルトくんだけ。そんなラインハルトくんに、新しい友達が出来て欲しいなって」
「友達?」
「ほら、ラインハルトくん遠足の時、友達がいないって言ってたじゃん?」
「確かに。父の仕事仲間の子供達の集まりで一応、友達みたいなのはいるけれど、結局学校では作らなかったね。でも、それとこれ、関係あるのかい?」
「ラインハルトくんの友達に、ハワードくんはどうかな?って考えてたんだ」
「なんでだい?」
目から熱が消えたラインハルトの手が、ティルから離れる。
(今のイテラリピティでは、私のせいで喧嘩してるけど、2人は似てる。だから)
「それにさ、私はもうラインハルトくんの友達じゃなくなっちゃったじゃん。友達、減っちゃったよね?」
ティルは、そう言いながら赤面し始める。
「でも、ラインハルトくんの女の子の友達はエリンちゃん以外は、嫌だし」
熱に浮かされ始める目を自覚しながらティルは必死に言葉を続ける。
「だ、だから、男の子がいいの」
ラインハルトの目が、再び熱を帯び始める。
「そういう事なら、考えるよ」
「ありがとう。その、気が早いけど、ラインハルトくんの友達をさ、『学級委員長』って呼びたくないなって、そういう事なの」
「確かに、他人行儀だね?わかったよ。僕は、学級委員長をどう呼ぼうかな?それも考えておくよ」
「うん」
それから、ティルとラインハルトは広場で愛を語り合い、帰宅した。
翌々日。登校したラインハルトはティルに言った。
「ティルちゃん、『ハワードの件』をやってみることにしたよ」
「そう!うまくいったら、エリンちゃんと4人で仲良くできるね!!」
「そうなればいいけれど。今日の給食の時にでも、話そうかと思ってる」
「一緒に行っていい?」
「どうだろう。僕達の雰囲気に中てられるとまた言われるかもしれないよ?」
「あ、そうだね」
刹那の沈黙の後、ティルは言った。
「あの、エリンちゃんも誘おう?」
「確かに、それがいいね」
ラインハルトは、微笑んだ。
(ハワードくん、ラインハルトくんをラインハルトって呼んでくれるかな?)
その日の給食の時間がやってきた。先にハワードは食堂へ行った。そんな背中を見送り、ティルはエリンに声をかけた。
「給食、一緒に食べよ?エリンちゃん!」
「うん!」
「ラインハルトくんも一緒にね!」
「そう」
そんなやり取りの中、ラインハルトは食堂に向かった。ティルとエリンも追いかける。食堂に着くと、ハワードが席に着くところであった。ティル、ラインハルト、エリンは食べたい物を取り分け、ラインハルトを先頭に、ハワードの所へ行った。
「向かいの席、失礼するよ。学級委員長」
「構わないが、また君はラーナーさんと一緒か」
「いいだろう?今日は、フレンツェルさんもいるよ」
エリンの顔がほんのり赤く染まった。ティルは言う。
「私は、ラインハルトくんの隣がいいな!エリンちゃんは、学級委員長の隣がいいんじゃない?」
「へっ?う、うん」
そして、ハワードの周りに3人は着席する。そして、給食を食べ始める。エリンは、食事を口に運ぶ手がわずかに震えた。
(エリンちゃんもとくんしてるみたい)
そんな中ではあったが、食事は進む。そして、完食した後、ラインハルトは口を開いた。
「学級委員長、少し話をしたいんだ。いいかい?」
「おおかた、そんなところだと思っていた。何だ?」
「謝罪が、まだだったと思ってね」
「『謝罪』?」
ハワードは、椅子の背もたれに背中を預ける。
「一学期からここまで、君を目の敵にしていたと思う。すまなかったよ」
「急に、何だ?まあ、その謝罪を拒否する理由は僕にはない」
「ありがとう」
そんな会談の中、ティルはラインハルトを見ながら、エリンの様子も度々見た。エリンは、隣のハワードを凝視していた。
「学級委員長、僕は君とこれまで話してきて、感じた事があるんだ」
ハワードは首を傾げた。
「話してきた事は、お互いへの攻撃だったけど、君は僕にとって、とても話しやすい人だとね」
「なっ」
ハワードは、一旦ラインハルトから視線を外し、エリンの方向を見た。エリンは、ハワードと目が合い、慌てて下を向いた。ハワードは、一旦首を傾げた後、ラインハルトに視線を戻す。
「話しやすいか。僕も、そう言われれば君とは同じレベルで話す事が出来る。いけ好かない男だとは思ってはいるが」
ラインハルトは短く笑った。そして、言葉を返す。
「いけ好かない男、か。僕もそうだよ。でも、そう言った意味では、僕達は気が合うね。これから、仲良くしないかい?」
ラインハルトは、右手をハワードに差し出す。ハワードは、多少の時間躊躇していたが、ラインハルトとの握手に応じた。ラインハルトは、それを受け言った。
「これからよろしくね。ハワード」
ハワードは目を丸くしたが、すぐに短く笑い、こう返した。
「こちらこそ、よろしく。ラインハルト」
ティルは、それを合図に口を開いた。
「わー!ハワードくんが、ラインハルトくんの友達になった!!」
ラインハルトは微笑み、ハワードは一瞬眉間に皺を寄せた。しかし、すぐ笑みを浮かべた。
「ラーナーさん、僕は学級委員長だ。馴れ馴れしい。しかし、許そう」
「ありがとう!ハワードくん!!」
それから、4人で食堂を出る。ティルが教室までの廊下で再び口を開いた。
「ね!今日、4人で帰らない?」
ハワードは答えた。
「仕方ない、帰ってやるか」
ラインハルトは答えた。
「いいね」
エリンは言った。
「ティルちゃん」
ティルは、笑顔で力強く頷いた。エリンは言葉を続ける。
「うん、帰ろ!」
「わー!また4人で帰れるね!!」
それから、午後の授業を受けた後、ティル、ラインハルト、エリン、ハワードは、並んで下校した。




