65時間目:隠さないよ
ティルとラインハルトが心を繋げてから、最初の登校日。ティルが教室に入ると、もう既にラインハルトは席に着いていた。ティルは、ラインハルトにまっすぐ視線を向け、ラインハルトも、ティルにまっすぐな視線を向ける。
(ん、今日最初のとくん)
そんなティルの後ろから、エリンの声が。
「ティルちゃん、おはよう!」
「わあっ!エリンちゃん、おはよう!」
「びっくりさせちゃった?」
「うん。でも、大丈夫!」
ティルとエリンのやり取りを、ラインハルトは優しい微笑みで見つめていた。ティルは、そんな視線をも捉え、笑顔をラインハルトに見せた。
それから、ティルもラインハルトも真面目に授業を受けた。そして、給食の時間となる。ティルは、食堂に行こうとするラインハルトにこう声をかけた。
「ラインハルトくん。ね、今日は一緒に給食食べよ?」
「いいね、ティルちゃん」
それからティルとラインハルトは並んで食堂に入る。そして、食べたい物を取り分け、向かい合わせるように着席した。ティルとラインハルトは、笑顔を交換し、食べ始める。そんな2人に、かけられる声。
「隣、失礼する」
ティルとラインハルトの「学級委員長」の声が揃う。2人は、目を見合わせ、再び「いいよ」の声を揃えた。ハワードが、ティルとラインハルトを交互に見る中、ラインハルトは、一度頷く。そして、隣に座ったハワードに向け、口を開いた。
「風紀が乱れないように、来たのかい?学級委員長」
「以前、見本をと言ったのは君だろう?」
クスとラインハルトは笑い、言った。
「いい機会だ、学級委員長に許可をもらいたいんだ」
「何の許可だ?」
「ラーナーさんと僕は、交際を始めた。派手なことはしないから、見逃してくれないかい?」
ハワードは、むせかける。それを必死に止めながら返した。
「こ、交際っ?」
「本当は、君に知られた時に、改めて許可をと思っていたけど、それでは、火に油を注ぐと思ってね」
「何だ。少し前からおかしいと思っていたが、そんな事になっていたのか」
「そうだよ」
ラインハルトとハワードの会談が続く中、ティルは、頬を染めていく。そんなティルの顔と、涼しい表情のラインハルトをハワードは交互に見て、一旦ため息をついた。そしてすぐに、ハワードはこう返した。
「『派手な事をしない』か。それを約束するなら、学級委員長としては、許可しよう」
「恩に着るよ、学級委員長」
「ありがとう!学級委員長!!」
すると、ハワードはほとんど手をつけていない給食を手に席を立った。ティルとラインハルトは同時に首を傾げる。ハワードは言う。
「君たちの雰囲気に中てられそうだ」
そうして、ハワードはティルとラインハルトの言葉を待たずに別の席へと移動して行った。残された2人は、再び笑顔を交換し、食事を再開させた。
「ありがとう、ラインハルトくん。これで、学級委員長に怒られないね」
「そうだね。これから、君とこうやって一緒に給食を食べたり、帰ったりしたいけど、学級委員長にああ言った手前、毎日はやめようね」
「うん。ちょっとさびしいけど」
「その分、お休みの日に、会わないかい?」
「それ、いい!」
ティルは、その日一番の笑顔をラインハルトに見せた。ラインハルトもそんなティルに見とれながら、こう言った。
「じゃあ、今日は一緒に帰らないとして、次のお休みに、また会おうね」
「うん!」
それから、午後の授業を受け、放課後となった。
「ね!エリンちゃん、帰ろ!!」
「うん!」
ティルは、エリンと並んで下校して行く。それから、動く歩道に乗った頃、エリンが言った。
「あ!マラブルくん誘わなかった!!」
「今日は、ラインハルトくん誘っても一緒に帰らないよ」
「そう、よくわかるね?」
「うん」
(ラインハルトくんが、ハワードくんに隠さなかったように、私も、エリンちゃんに隠しちゃ駄目だよね)
「あの、エリンちゃん、私、ラインハルトくんと、その、恋人になったよ」
「ええっ?恋人っ?」
エリンの顔が、驚きに染まった。その後、みるみる赤くなるエリンの顔。
「マラブルくんかっこいいもんね」
「うん」
「応援、するよ」
エリンの声が、小さくなる。
(え、何?エリンちゃん、どうしたの?あ、もしかして、ラインハルトくんの事、エリンちゃんも好きだった?)
エリンは、ティルの傍らでもじもじし始める。そして、改めて口を開いた。
「あの、やっぱり学習発表会の劇で、マラブルくん好きになったの?」
「えっと、えっと、その、うん、夏休み前からずっと好きだったの。ごめん」
「え?何で謝るの?」
「も、もしかして、エリンちゃんもラインハルトくんを好きなのかなって」
「ち、違うよ」
エリンは、両手で顔を隠した。そして、恥ずかしそうな声を上げた。
「あの、学級委員長、好きになっちゃったの、私」
「ええっ!」
「劇で、その、いつもと違う服だったじゃん?凄くかっこいいって思って」
「そうだったんだ。エリンちゃん、応援するよ!」
「ありがとう!ティルちゃん!!」
ようやく、エリンは両手を顔から取り払った。
(そっか。エリンちゃんが、ハワードくんかぁ。でも)
ティルは首を横に振る。エリンは首を傾げる。
「え、やっぱり嫌?ティルちゃん」
「ううん!なんでもない!!」
そうティルが返した頃、エリンの家に繋がる脇道に着く。
「じゃ、ティルちゃん、ばいばい!」
「ばいばい!エリンちゃん!!」
(う、やっぱり考えちゃう。エリンちゃんの好きも、ラインハルトくんの好きも、きっと消えちゃう。やだなぁ)




