59時間目:解けた問題
その日は、一学期の試験の日であった。ティルが登校すると、最後の復習をしている児童達がいて、その中には、ラインハルトもいた。ラインハルトは、真剣な眼差しで教科書に目を通していた。
(ラインハルトくん、いつもよりかっこいい)
この日最初のとくんが、ティルに訪れる。それは自らの席に着いても収まる事はなく、妙な声を上げてしまう。
「ふうぅ」
右斜め前の席から、鋭い声がかけられる。
「なんだ?変な声を出して」
「が、学級委員長、ごめん」
「わかればいい」
そう言うと、ハワードは教科書に向き直った。ティルのとくんは、ひとまず収まった。
それから、朝の会を経て、試験の時間が始まる。魔法の杖が回収された後、配られた問題用紙や答案用紙に児童達は向き合った。
(前のイテラリピティでは、皆と勉強会してから試験やったなぁ)
ティルは、答案用紙に自らの名前を書く。
(でも、今は違う。今は、ラインハルトくんの事ばっかり考えてる)
それから、見知った問題への解答を次々に書いていく。そんな中でも、とくん、とくん、とくんと、ティルの胸がうるさくなっていく。
(う、また来た。このとくん。ずっと何なのかわからなかった。ううん、途中でわかってたのかもしれない。でも、わからない事だって思おうとしてた)
ティルの解答を書く右手が止まる。
(もう、わからないふりは、止めよう。私、ラインハルトくんを好きになっちゃった)
ティルの左手が、ティルの胸をさする。
(ああ、とくんが止まらないよ、ラインハルトくん)
とくんとの戦いの中、ティルは再び解答を書いていくが、手元が狂う。何度も消しては書くを繰り返すうちに、試験は終わる。
(一応、全部答え書いたけど、何書いてるのかわからなくなっちゃった)
ティルは、チラとラインハルトを見る。すると、ラインハルトと目が合った。
(わっ)
思わずティルは、目をそらす。同時にラインハルトも目をそらした。
それから、全教科の試験をティルやラインハルト達は受け、放課後を迎える。ティルは、一目散にエリンに声をかけた。
「エリンちゃん、試験疲れたね!」
「そうだね、ティルちゃん!」
「ね、一緒に帰ろ!」
「うん!」
ラインハルトは、エリンと2人並んで教室から出て行くティルの背中をさびしそうに見送った。一方、エリンはティルと校門を出た所で、ティルに尋ねた。
「ね、マラブルくんは誘わなくてよかったの?私達友達じゃん?」
「そ、そうだね。忘れちゃった!」
「忘れちゃったの?マラブルくん、かわいそう」
「明日!明日は3人で帰ろ?」
「うん」
(あんまり、ラインハルトくんといると、好きって言っちゃいそうだけどね)
翌日の下校時は、約束通り、ティル、エリン、ラインハルトの3人で動く歩道まで歩く。エリンは言った。
「ティルちゃんったら、酷いんだよ?昨日帰るときにね、マラブルくん誘うの忘れたんだよ?」
「そうだったのかい」
「ごめん!マラブルくん!!でも、言わないでよ!エリンちゃん!!」
「ごめん!ティルちゃん!!」
エリンは笑った。
(う、でも、私の事悪く言ってくれた方がいいかも。ラインハルトくんに好きって言えなくなるから)
更に、時は過ぎて一学期の終業式を迎えた。モニカからティル達は、成績表を受け取る。モニカは成績表を渡しながら児童達に一言かけていく。ティルには、こんな言葉がかけられた。
「ラーナーさんは、あともうちょっとで満点でしたね。でも、よくここまで点数を取りました」
「ありがとうございます」
(やっぱり。何書いてるのかわかんなかったもんね)
そして、放課後。ラインハルトからティルに声がかかる。
「ねえ、ラーナーさん、今日は一緒に帰ろう」
「い、いいよ?あ、エリンちゃん!エリンちゃんも一緒に帰ろう?」
「うーん、一緒に帰りたいけど、私、今日は1人で帰るよ」
「えー!」
エリンは、先に教室を出ようと、教室の出入り口へと移動し始める。
「前、マラブルくん誘わなかったじゃん?」
「そうだね。うん、ばいばい、エリンちゃん」
そして、エリンは下校していった。
(ふたりっきり!ラインハルトくんと、ふたりっきり!!)
ティルとラインハルトは並んで校門をくぐり、動く歩道までのまっすぐな道をゆっくり歩き始める。しばらくすると、ラインハルトが口を開いた。
「一学期、色々あったね」
「本当にね!あ、箒一緒に作ってくれてありがとう。運動会の時ね、学級委員長に箒、褒められたんだよ!!」
「そうだったのかい!学級委員長を見返せたね?ラーナーさん」
「うん、マラブルくんのおかげ!」
ラインハルトは微笑んだ。
「どういたしまして。その運動会は、君とリレー出来て、よかったよ」
「そう!あの時のマラブルくん、かっこよかった!!」
ラインハルトの頬が、わずかに染まるが、ティルは気づかないまま、言葉を続ける。
「かっこいいって言えば、マラブルくんのお父さん、遠足の時、かっこよかった!」
一転、ラインハルトの顔は、引き締まった。
「父は、僕の目標だよ。並んで戦いたい。そして、いつか超えたい」
「へー!凄いじゃん!!」
「そうかい?でも、まだ並んでないし、超えてもないよ」
「違うよ、そう考えられるマラブルくんが、凄いって言いたかったの」
「ありがとう」
ラインハルトは、ティルを隣から見つめる。
「その遠足で、フレンツェルさんと一緒に友達になってくれて、感謝してるよ。ありがとう」
「私も、かっこいいマラブルくんと友達になれてよかった!二学期もよろしくね?」
「うん」
ラインハルトの目が揺れる。ティルは、そんなラインハルトの目を見て、わずかに首を傾げた。一転、ラインハルトは、さみしそうな笑みを浮かべた。それと同時に動く歩道が視界に入ってくる。
「じゃ、ラーナーさん、さよなら」
「うん、ばいばい、マラブルくん!」
ティルとラインハルトは、逆方向の動く歩道に乗り、帰宅して行った。
(ふー、ラインハルトくんと友達として話せてよかった)




