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58時間目:止まらない

6月に入った。ある日の体育の時間、第三校庭にてモニカは言った。


「今日から運動会の練習をします」


 ティルは、ラインハルトをチラと見た。


(いつかの箒リレーは、7番目だったけど、今回は5番目。女子の1番目だぁ。しかも、男子の最後がラインハルトくん。また、とくんしたらどうしよう?)


 ティルは、モニカの方に視線を向けた。入れ替わるように注がれたラインハルトの視線に気づく事はなかった。モニカの指導は続いた。


「さて、箒リレーの皆さん、集まってください」

「はーい」


 ティルは、そう返した。箒リレーに出場する8人の児童の集団が出来上がると、モニカは、長く先端が赤い木の棒を第一飛行者の男子児童に渡した。


「今日は、箒を使わないで、たいまつを渡す時の練習をしましょう。棒の赤い所は、当日光っています。皆さん、楽しみにしていてくださいね」


 第一飛行者の児童は、左手に持っている棒の赤い所を見た。更にモニカの指導は続く。


「今日は、校庭を皆さんで走って練習しましょう。飛ぶ順で1列に並んでください」


 多少距離をおいて、等間隔に並ぶ8人。ティルは、後ろに立つラインハルトを振り返る。並び終えた所で、モニカは号令を出す。第一飛行者の男子児童が走り出した。第二飛行者、第三飛行者の男子児童に渡る木の棒は、ラインハルトへ。ラインハルトは走り出し、ティルに向かってくる。


(わっ、わっ!わっ!!近づいてくるっ)


 ティルの胸がとくんと鳴る。


(やだ!こんな所で、とくん?)


 木の棒を右手に持ち、接近してくるラインハルト。ティルは左手を出しながら、とくんと鳴る胸を振り切るように助走をし始める。そして、ティルとラインハルトの手の接触を伴いながら木の棒は、無事に渡った。渡った瞬間、ティルはラインハルトの微笑みを見た。


(ラインハルトくん、駄目、笑わないで)


 とくんが止まらないティルは、それを誤魔化すために全速力で走った。そして、次の女子児童の右手に木の棒を渡した。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 ティルは、走り終えた児童達の集団へ。そこで、ラインハルトはティルに声をかける。


「速かったね?でも、苦しそうだ。大丈夫かい?」

「だ、大丈夫!」


 そう言いながら座るティル。ラインハルトは、ティルの背中をひと撫で、ふた撫でした。


「ふぇっ!」

「あ、びっくりさせてしまったかな?」

「え、あ、大丈夫」


 ティルの耳は、激しい熱を帯びた。


(やだ、やだ!やだ!!とくんが止まらない!熱いよ!!どうしちゃったの?私)


 それからというものの、ティルは、度々起こる「とくん」に悩む。しかし、時はお構いなしに運動会当日まで進んだ。開会式や、他の競技を経て箒リレーの時間が来る。グレゴリオとノエルの応援の声に後押しされ、ティルは、リレーの待機場所へと向かった。


「ウ、エッセア、エーレエ。箒」


 ティルは、箒を杖から出した。


(ラインハルトくんと作った箒でこれから飛ぶんだよね。って、何考えてるの?またとくんが来ちゃう。駄目だなぁ、私)


 ティルは、5番目に飛行する児童の待機場所に移動した。他の児童達も、それぞれの待機場所へ。


「箒リレー初等部1年生の部、開始します」


 男性教諭の声が校庭に響く。5人の第一飛行者である男子児童が並ぶ。一斉に箒に跨った第一飛行者を確認した男性教諭は、次々に第一飛行者に光り輝くたいまつを渡していき、それが終わるとこう言った。


「飛行の呪文を」


 それに応え、第一飛行者である男子児童達は、「ヴオ、エレア、エーレエ」と唱えた。児童達が浮遊する。それを確認した男性教諭は、こう言った。


「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、発進!!」


 低空飛行の箒リレーが始まった。観戦している上級生や大人達は、低空飛行のかわいらしい初等部1年生にあたたかい声援を贈り始める。そんな中、第四飛行者のラインハルトにたいまつが渡る。箒を巧みに使い、完璧な飛行を披露するラインハルト。遂にこの日初めてのとくんがティルに訪れる。


(う、ラインハルトくん、かっこいい。って、次、私!)


 慌ててティルは唱える。


「ヴオ、エレア、エーレエ」


 低く飛び始めたティルの出番が迫る。そして、ティルに、ラインハルトからたいまつが渡る。ラインハルトの右手からの熱が、ティルの左手に移る。ラインハルトは叫ぶように言った。


「頑張って!ラーナーさん!!」

「うん!マラブルくん!!」


 ティルは、4位だった3組を、2位まで押し上げた。そして、次の第五飛行者の女子児童へとたいまつを渡す。地上に降り立つと、箒を胸に抱えながら、右手で左手を柔らかくさすった。


(う、ラインハルトくんのあったかいの、消えないよ)


 そのまま1年3組は、2位で箒リレーを終える。8人の飛行者達は、「惜しかったね」「頑張った」などと声を掛け合いながら、お互いにハイタッチをした。勿論、ティルとラインハルトもハイタッチ。ティルのとくんは酷くなる。


「が、頑張ったね!マラブルくん!!」

「そうだね!ラーナーさん!!」


 そうやり取りするのが限界で、ティルは、教室に逃げるように戻った。そこで、ハワードに声をかけられた。


「いい飛行だった。それに、作り直した箒、なかなかの出来だったんじゃないか?」

「ありがとう!学級委員長!!」


(本当に、ありがとう。とくんが止まったよ、ハワードくん)




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