56時間目:なんでこんなに
翌日から、ティルとラインハルトの会話はなくなった。お互い話しかけようにも、何から話していいのかわからなかった。そんな中で、目が合う事はなかったが、お互いをチラチラ見る事が多くなった。
(ラインハルトくんに謝りたい。けど、言い訳に聞こえちゃうかも。私を心配してるラインハルトくんが私は心配だったなんて)
そうしているうちに、5月になってしまった。その日の帰りの時間となった。モニカが言う。
「今日は、宿題を出します。皆さんの家族についての作文を書いてきてください」
ティルは、額に左手を当てながら呟いた。
「作文かぁ」
その後、自宅に帰ったティルは、自分の学習机に向かい椅子に座ると、作文を書き始めた。
(こんな事より、ラインハルトくんと前のイテラリピティの時みたいにおしゃべりしたい)
程なく作文は完成。いつもの作文が、ティルの鞄へと詰められた。
翌日、モニカは言った。
「さ!皆さん宿題の作文は書いてきましたか?」
ティル達児童は、「はーい」と返した。モニカはそんな児童にこう声をかけた。
「では、1人1人読み上げてください。登録番号順に発表をお願いします」
そして、一番小さい番号の児童から作文を読み上げていった。
「僕の家族。1年3組、ラインハルト・マラブル。僕の父は、騎士をしています。プルド団の団長で、国に忠誠を誓っています。僕は、そんな父が誇りです。いつも母と共に父の任務が成功するように祈っています」
(こんな形でしか、ラインハルトくんの声が聞けない。なんだかさびしい。けど、なんで?)
そんな出だしから書かれた作文が、書いた本人によって次々に読み上げられていった。1人1人読み終わる度に、他の児童からの拍手が教室に響く。そして、ティルの番が来た。
「私の家族。1年3組、ティル・ラーナー。私のお父さんは、警察官です。みんなが安心して暮らせるように、街を守っています。私とお母さんは、そんなお父さんをかっこいいと思っています。私の家族には、もうすぐ弟が産まれます。とっても楽しみです。4人家族になったら、きっと楽しいと思います。今までよりも、もっと仲良く過ごしたいです」
ティルは、作文を読み終わる。同級生から拍手をもらった。やがて、最後の児童の作文が読み終わる。モニカは言った。
「皆さんは、立派な家族に恵まれていますね。よくできました。この時間の授業は、ここまでです!」
ティルは、ひとつため息をつく。
(なんか、私、凄く落ち込んでる。もうすぐ遠足。私、楽しめるかな?今回のイテラリピティではいつもの公園になったけど)
それから何ら進展のないまま5月中旬を迎える。メビラ学園の講堂には、学園長であるイヴァンがいた。イヴァンは講堂前部の舞台から、運動着に身を包む初等部1年生全員にこう言った。
「初等部1年生の諸君、クラスには慣れてきましたか?もっとクラスの仲間と仲を深める為に、今日1日は、遠足を楽しんできてください」
元気に「はい!」と答えた他の児童と共に、ティルは弱々しく「はい」と答えた。そして、1組の児童から講堂を出ていく。3組のティル達も、モニカに誘導されながら講堂を出る。雲ひとつない空がティルの眼前に広がる。
(こんなに空は晴れてるのに、私の心は、雲ばっかり。本当、なんでこんなに辛いんだろ?でも、こんな顔、お父さんに見られなくてよかった。今回は、お父さん来てないから)
ティルは、引率する担任の補助をする児童の保護者数人をぼうっと見つめていた。その視線の先で、一組の親子がお互いを呼び合っていた。
「父上」
「ラインハルト」
保護者達の中にいた青い騎士姿の男性にラインハルトは話しかけていた。この男性、フォルカー・マラブルは、ラインハルトの父親として、騎士団団長の力を児童達の為に捧げに来たのだ。モニカは、フォルカーに声をかけた。
「プルド団団長のマラブルさんがいてくれるのは、とても心強いです。児童達の安全にご協力ください。今日は、よろしくお願いします」
「はい、なんなりとお申し付けください」
それを聞き届けたモニカは、他のクラスの担任と共にこう声を上げた。
「さあ、みんな!出発しますよ!」
瞬間移動も、箒での長距離飛行も出来ない初等部1年の児童達は、遠足の目的地へと歩き始めた。担任や保護者達も歩きでそれを見守る。この日の遠足の目的地は、学園近くの川べりの公園である。子供の足で10分程度かかるその公園までの道のりは、動く歩道はなく、ひたすら歩く児童達。出発から数分経った時であった。上空から、「キィキィ」という複数の鳴き声が聞こえ、一同、上を見た。
「きゃー!!」
「うわあー!!」
児童達は、悲鳴を上げた。その悲鳴は、集団の中程にいたティルの周辺にも轟く。5人いたメビラ学園の教諭は声を揃えて「魔燕!!」と叫ぶ。ティルは言った。
「ま、えん」
(やっぱり、公園に行く前にこうなるんだよね。いっそのこと、魔燕にこのいやな気持ちだけグチャグチャにしてもらいたいよ)
そんなティルの耳に、フォルカーの冷静な声が届いた。
「アエーレ、エンメアエーレ、エッセイ。鎧よ、我が身を包め」
フォルカーの青い騎士服が、一瞬にして銀色の鎧と変わる。
「キエエエ!!」
魔燕の集団は、刃のような羽根を散らしながら充血した目で児童達の集団めがけて急降下してくる。教諭達の避難を呼びかける声を聞きながら、フォルカーは大きな声を上げる。
「エッセチウ、ディオ、盾よ、大きく展開せよ!!皆様、盾の下へと避難を!!」
透明で大きな盾が出現し、児童や教諭、保護者の上を浮遊する。怯える児童達を、教諭とフォルカー以外の保護者が囲み、盾の下に全員避難させた。それを確認した後、フォルカーは矢継ぎ早にこう唱えた。
「エッセチオ、ピア。箒よ、魔燕の集団へ誘え!エッセアエンネ、ティオ。エッセピア、ディア。剣よ我が手に!」
そうして、右手に光で形成された剣を持ったフォルカーは箒にて上空に飛んだ後、正確無比の剣さばきにより、魔燕を普通の燕に変えていった。最後の魔燕が普通の燕に変わった後、燕は群れを成して縦横無尽に飛び去って行った。
「皆様、お怪我はありませんか?」
そんな声をかけつつ武装を解除したフォルカーが箒から降りてきた。教諭や保護者達は、児童達に怪我がないか確認していく。そして、震える児童や、泣き出す児童がいたが、怪我人がない事が確認された。モニカが代表してこう言った。
「ありがとうございます。マラブルさん」
「ご無事で何よりでした」
(お父さんも、魔熊をこんな風に綺麗にしてたよね)
そうして、目的地の公園に辿り着くティル達。この大規模な公園は遊具等が充実している上に、川で釣り等が楽しめる。ここで、児童達は思いっきり遊ぶのだ。モニカは、受け持ちの児童達を集めこう言った。
「魔燕はこわかったですね。でも、私達は皆さんを守ります。さて!これから、時間までここで遊びましょう。この遠足は、同級生との交流が目的です。皆さん、なるべく1人ではなく、複数で遊んでください。では、これから怪我等に気をつけて、楽しんでください!」
その指導を受けたティル達1年3組の児童は、「はーい」と返し、思い思いの時間を過ごし始めた。教諭やフォルカー含めた大人は、全体が見渡せる場所にて集まり、子供達の様子を見守る。そんな中、ティルは、ふらふら広場を歩く。
「何して遊ぼう?」
(うー、遊ぶ気になれないなぁ)




