55時間目:そんなんじゃない
一学期の授業2日目も放課後を迎えた。
(ハワードくんとラインハルトくんの事、心配だけど、昨日エリンちゃんと帰る約束したから、2人と話さないで帰ろ!)
「エリンちゃん!かーえーろ!!」
「うん!」
ティルとエリンは、並んで校門から出て、動く歩道を目指した。エリンは言った。
「やっとティルちゃんと帰れた。嬉しい」
「エリンちゃん、昨日はごめんね?」
エリンは首を横に振る。そして、尋ねた。
「ねぇ、昨日、何してたの?」
「箒作り、失敗しちゃったから、マラブルくんに手伝ってもらって作り直してたの」
「えー?男の子とふたりっきりだったんだ!」
「えっ」
(そう言われれば、そうだけど。えっ、そんな事言われたら、急に恥ずかしくなってきた!)
「ティルちゃん?」
ティルのほんのり赤くなった顔を、エリンは覗き込んだ。
「え、エリンちゃん、そ、そんなんじゃないよ?」
「え?どんな?」
「うー、なんでもないっ!」
それから、話題を変えながらエリンの自宅近くまで共に帰宅した。
「じゃ、ばいばい!ティルちゃん、明日ね!!」
「うん!また明日!!」
ティルは動く歩道からエリンに手を振る。エリンも、脇道を歩きながらティルに手を振った。
(う、なんか昨日の事で頭いっぱいになってきた)
ティルは昨日ラインハルトと接触した手をもじもじさせる。
(ラインハルトくんの手、あったかかったなぁ。って私、何考えてるの?もー、エリンちゃん、変な事言わないでっ!)
ティルは、頭をブンブン横に振り回した。
「何も考えないで、帰ろ」
(あ、でも、ラインハルトくんの違う事は、考えなきゃ。ハワードくんは、厳しい学級委員長だけど、頑張ってる人だって言わなきゃ。私をいじめたい人じゃないって)
「うん!いつか言おう!!」
その後、慣らし授業の1週間が終わり、本格的な授業が始まった。ティルはこの日の昼、学園の食堂に行った。
(あ、これ食べ終わった後、ラインハルトくんにハワードくんの事言おう)
ティルは、適当な席に着き、給食を食べ始めた。そして、食べ終わると片付けをした。
(ラインハルトくん、まだ食堂にいるかな?)
見回すと、ラインハルトを見つける。そのラインハルトは、ほぼ食べ終わってはいるものの、まだ食事中だった。落ち着いた様子で食事を口に運ぶラインハルトの様子をティルは遠目で見つめる。そして、ラインハルトも食事が終わり、立ち上がる。すると、ティルと目が合った。ラインハルトは、柔らかい表情で首を傾げた。その瞬間、ティルの胸がとくんと鳴った。
「ふえっ?」
そう声を上げると、ティルは教室方面へ走り出してしまった。そして、教室に着くと、勢いよく自らの席に座った。
(な、なんで走って逃げちゃったの?私)
すると、右斜め前から声をかけられる。
「随分、息が上がってるな」
ハワードの指摘であった。
「ごめんなさい」
そのティルの早期の謝罪に、ハワードは一旦沈黙するが、こう言った。
「走ってきたのか?危険だ」
「はい、学級委員長」
「まぁ、また泣かれたら大変だからな。ここまでにする」
「あ、ありがとう」
(ハワードくん、本当に、ありがとう。とくんが止まったみたい)
ティルは、深い息を吐き、机に突っ伏した。そうしている間にラインハルトが教室に戻り、席に着いた。そして、給食時間が終わり、午後の授業を経て放課後となる。
(あ、そうだ。給食の時に逃げちゃったから、一緒に帰りながらラインハルトくんにはハワードくんの事言おう)
しかし、頭によぎるエリンからの一言、「男の子とふたりっきり」。走ってもいないのに、息が上がる自分をティルは自覚した。
(あ、明日にしよ)
ティルは、逃げるように帰って行った。その背中を、ラインハルトはさびしげに見ていた。帰宅後、夕飯などを経て就寝の時間になった。
(ラインハルトくんにハワードくんの事話したいのに、ラインハルトくんを見ると、私、おかしくなっちゃう。どうして?)
寝床から出るティル。まだ起きていたノエルに思わず抱きつく。
「うー、眠れないよぉ、お母さん」
「学校で疲れてる筈なのに、眠れないの?」
「うん」
「何か、あった?」
「えっと、えっと、何もないよ」
「あら、それは困ったわね」
グレゴリオは見かねてこう言った。
「ティルはわからないかもしれないけど、緊張してるのかもね。どうだい?ティル、今夜はノエルと寝る?それとも僕と寝る?」
ティルは、ノエルのお腹を見て答えた。
「う、大丈夫。頑張って1人で寝る」
「そうかい。また眠れなかったら、遠慮しないで僕かノエルの所に来るんだよ?」
「うん、おやすみ、お父さん、お母さん」
グレゴリオとノエルは、声を揃えて「おやすみ」と返してくれた。それから、ティルは無事に就寝することが出来た。翌日の放課後。ティルは1人で帰ろうとした所、ラインハルトに声をかけられる。
「ラーナーさん、昨日、僕に何か用事があったんじゃないかい?」
「えっ」
(うわぁ、ラインハルトくん、近いっ。けど、こうなったら話しよう!)
「そうだったね。別の用事を思い出したから、昨日走って行っちゃったんだ」
「そうかい」
そして、ティルはラインハルトと共に中庭へと行く。
「えっと、らい、じゃなかった。マラブルくん、学級委員長の事なんだけど」
「また何かしたのかい?君に」
「違うの。学級委員長は、凄く厳しい人なんだけど、いじめっ子じゃないよって言いたかったんだ」
「そんな」
ラインハルトは、沈黙する。そんなラインハルトへの話をティルは続ける。
「ほら、学級委員長だもん。頑張ってる人なんだよ」
ラインハルトは、それを聞くだけ。言葉を返さない。
(あ、あれ?ラインハルトくん?)
「えっと、マラブルくん?」
「僕は、君を守りたいって思ってここまできたのに、君は、学級委員長を庇うんだね?」
「えっ」
今度は、ティルが沈黙する。ラインハルトは、そんなティルを見つめて問いかけた。
「君は、学級委員長が大事なようだね?」
ティルの目が丸くなる。そして、こう返した。
「ち、違うよ!そんなんじゃないよ!!」
それから、2人の間には沈黙が。それから会話もなく、ラインハルトは先に下校して行った。
(えっと、えっと、私、駄目な事言っちゃったみたい)




