54時間目:ふたりっきりで
翌日の3時間目の授業は体育。ティル達は、第三校庭へと繰り出していた。そこでは、箒に乗る授業が行われていた。箒を魔法の杖から出す呪文「ウ、エッセア、エーレエ。箒」や、箒で校庭を飛ぶ呪文「ヴオ、エレア、エーレエ。校庭の中」を児童たちはモニカより教えられる。ティルは飛んだ後、こう声を上げる。
「わー!皆と飛べた!!」
(今度も皆と。凄く嬉しい。けど、泣いちゃ駄目だよね。我慢、我慢!我慢してる分、私の飛び方しよう!箒は変な箒だけど!!)
眼下には、モニカが張った落下防止の網。ティルは、その上で自由自在に箒を操り、クラスメイトから逃げるように端の方へと飛んで行く。
(あんまり目立ちたくないし、ここで終わるまで飛んでおこう)
そんなティルの元に、ラインハルトが飛んで来る。
「ラーナーさん」
「えっ?マラブルくん!」
「どうしたんだい?こんな所で1人なんて」
「えへへ、なんでもないよ?ただ、ここにいたいだけだよ」
「そうかい。なら、僕もここにいよう」
「ええ?」
ラインハルトはティルの隣に回りその場を飛んだ。
「マラブルくん、皆と飛んだ方が楽しいよ?」
「それは、僕も君に言いたい事だよ」
「う。そ、そうだね」
「それに、いじめっ子学級委員長が、君に何かしたらすぐに守ってやりたいしね」
「ありがとう」
(もう、ハワードくんは私に何もしないと思うけど。うー、話変えよう!)
「マラブルくんって、飛ぶの上手だね?」
「君こそ」
「あ、ありがとう」
「僕の父は、騎士で、いずれ僕も騎士になる。だから、学校に入る前に飛ぶ事だけは習得したくて、父や、その仲間達に先に教えてもらったんだ」
「へー!偉い!!」
「それで、君は?」
(あ、やばっ)
「ラーナーさん、君はどうして上手に飛べるんだい?」
「あ、あのね?私のお父さんさ、警察官なの!お父さんと遊ぶ時に飛ぶの教えてもらったんだ!!」
(お父さん、嘘ついてごめん)
「そうかい。いずれ、君のお父上にも会ってみたいな」
「そう?」
「うん」
ラインハルトの視線は、ティルの箒へと移る。
「その箒、作り直すのいつにしようか?」
「えっ!えーと、今日、放課後にしていい?」
「承知したよ」
すると、授業が終わり、ティルとラインハルトはモニカを中心とした1年3組の輪に戻った。
慣らし授業の為、他の児童達はそれぞれ下校して行く。そんな中、エリンが声をかけてきた。
「ティルちゃん、帰ろ?」
「ごめん、ちょっとやりたい事があって、明日一緒に帰ろう?」
「えー、ティルちゃんと帰るの楽しみにしてたのに」
「本当にごめん!」
「わかった!明日ね!!」
「うん!ばいばい、エリンちゃん!!」
「ばいばい!ティルちゃん!!」
そんな光景を、ラインハルトは見つめていた。エリンが教室から出ると、ラインハルトは口を開く。
「随分、フレンツェルさんと仲がいいんだね?」
「幼稚園、一緒だったから!」
「それ、いいね。じゃあ、箒、作り直そうか」
「うん」
ティルは、杖を持ち、唱えた。
「ウ、エッセア、エーレエ。箒」
杖から雑な出来の箒が出て来た。ラインハルトは言う。
「これを1回バラバラにしよう」
「うん」
ティルとラインハルトの手で、箒は材料に戻っていく。材料は、ティルの机上に置かれ、作り直されるのを待つばかりとなった。
(ここから、私1人で作り直せるけど、そんな事言えない)
「えっと、マラブルくん、ここからどうするんだったっけ?」
「確か、これは、こうだったよね?」
「うん」
ティルは材料を手にしようとした。それは、ラインハルトも一緒で、お互いの手が意図せず触れ合った。ティルとラインハルトの「あっ」という声が揃う。それから、お互いに笑う。ひととおり笑った後、気を取り直し箒作りを再開させた。
(1人で作れる物を手伝ってもらうの、なかなか難しい。ずっと甘えちゃおうかな?)
「ねぇ、ここもわかんないよぉ。マラブルくん」
そんな言葉をティルは何度かラインハルトにかけた。その度に、ラインハルトは微笑みながら手を貸してくれた。
(う、だんだん悪い事してる気がしてきた)
「あとは大丈夫そう!ここはこうだよね?」
「そうだね」
ティルは仕上げを1人で行った。ラインハルトは優しい眼差しでそれを見守る。そして、遂に綺麗な箒が完成する。
「とてもいいよ!ラーナーさん!!」
「ありがとう!マラブルくんのおかげだよ!!」
「どういたしまして」
ティルの目に、ラインハルトの微笑みが映る。
(ラインハルトくん、本当に優しいなぁ)
それから、ティルは杖を持ちこう唱えた。
「チオエンネ、エッセエエーレ、ヴア、エーレエ。箒」
無事に箒はティルの杖に収納された。ラインハルトは言った。
「さあ、帰ろうか」
「うん」
「一緒に帰ろう」
「え、今日も?」
「うん」
「でも、そうだね。帰ろ!」
ティルとラインハルトは、2日連続で2人で下校して行った。その道中、ラインハルトは言った。
「明日、学級委員長に箒を見せて、早速見返してやろう。僕も一緒にいてあげるから」
「えっ、えーっと、そうだね」
(そうしたら、ラインハルトくん、ハワードくんを嫌な目で見なくなるよね?)
動く歩道が見える。ティルとラインハルトは逆方向の歩道に乗り、別れた。
(あ、そういえば授業で飛んだのに、お腹空いてない。あっちこっち飛ばないで浮いてただけだったから、そんなに力使わなかったのかな?)
しかし、急にティルのお腹がギュルギュル鳴り始める。
(う、気のせいだったみたい。帰って何か食べよ)
翌日、ティルが登校するなりラインハルトが話しかけてきた。
「おはよう、ラーナーさん」
「おはよう、マラブルくん」
「昨日の、いつにする?」
「えっと、1時間目が終わったら見せようかな?」
「うん、わかったよ」
それから、朝の会を経て1時間目の授業を受ける。その後の休み時間、席が近い事もあってティルからハワードに声をかけた。
「ね、学級委員長」
ハワードの返答は、少し遅れる。
「な、何だ?」
そのうちに、ラインハルトが到着。そのラインハルトが見ている中で、ティルは言った。
「箒、昨日作り直したの。見てくれない?」
「は?先生の指導になかった事を君はしたのか?」
「えっ、えーっと、そうだけど」
ラインハルトの眉間にわずかに皺が寄る。そうしている間に、ハワードはティルに言葉を返す。
「そういう事は、先生に許可を受けてから」
しかし、ハワードは途中で話を切る。それを見逃さずにラインハルトは話に割って入る。
「学級委員長、君はラーナーさんに手厳しいよ」
「いや、言い過ぎた」
(う、この2人それでなくても喧嘩する時があるのに、私が喧嘩の原因になってる。もー、やだ。なんであの時泣くの我慢できなかったんだろ?)
「あっ、マラブルくん、私の事心配してくれてありがとう。学級委員長、勝手な事してごめんなさい!」
ティルは頭を下げる。ラインハルトとハワードの間には、冷たい空気が流れているようだったが、その言葉を受け、ひとまず3人での会話は終了した。




