53時間目:泣いちゃった
授業初日は、2時間目を迎える。教科は図画工作で、乗り物になる箒作りが課題だ。モニカは、自身の魔法で児童の机の上と自らの教卓に箒の材料を出した。
「では、手順を見せますね。これから、皆さんが成長し、魔法を学んでいくにつれ、魔法で箒を作る事が出来るようになっていきますが、まだ皆さんはその段階にありません。なので、手作りの箒で空を飛んでみましょう。上手に作れなくても構いません。皆さんが乗れる大きさの箒の形になっていればいいです」
モニカの実践と何色かのチョークを駆使した黒板への手順の説明が同時進行で行われる。ティルは、それを見つめた。
(うーん、普通の箒ってどんな感じに作ればいいんだろう?)
ティルは、箒を作り始める。
(えっと、下手な箒より難しいかも!)
箒を作るティルの手は、迷う。なかなか作業が進まないうちに、授業は終盤を迎える。モニカの声が児童達にかけられる。
「皆さん、箒、出来上がりましたね。その箒は一旦自分の席に立てかけておいてください。次の時間で、杖に入れる呪文を教えます」
と、言いながらモニカは児童達の箒を教壇から確認する。そして、言葉を続けた。
「あら、ティル・ラーナーさん、まだ出来てないようですね」
「あっ!が、頑張ります!!」
(う、皆見てる)
ティルは、手元をもじもじさせる。その瞬間、授業が終わってしまった。
(あー、次の授業まで完成させなきゃ杖に入れられないっ)
右斜め前の席からの強烈な視線を感じつつも、ティルは、休み時間返上で箒を完成させる。狙った普通の箒は作れず、比較的雑な箒がティルの机に立てかけられた。
3時間目の国語の授業が始まり、箒を杖に収納する呪文をモニカより教えられる。
「チオエンネ、エッセエエーレ、ヴア、エーレエ。箒」
杖の先から発せられた糸のような光が箒を包み、小さくなった箒は、見えなくなる。そして、光の糸が杖に戻り、完全に箒は杖の中へ。
(あー、よかった。それにしても、今回はハワードくん、私に話しかけてこないなぁ。いつもは、あくびの事を言って、何か叱ってくるのに)
そして、慣らし授業の半日が過ぎる。1年生は午前中で下校となった。ティルは普通に帰ろうとしたが、目の前にハワードが立ちはだかった。
「ラーナーさん」
(え、今?)
「ハワードくん!」
「馴れ馴れしい」
元々あったハワードの眉間の皺が更に深くなる。
「ご、ごめんなさい!学級委員長、な、何ですか?」
「君は、確か、昨日の学園長先生のお話の時、あくびをしてたよな?」
(やっぱり、あくび、聞いてたね)
「そんな不真面目だから、箒も時間までに作れないんだ」
(これこれ!これこそハワードくんだよ!!)
「いや、もしかしてサボっていたのか?」
(今回は、そこまで言うんだ)
「休み時間に雑ではあるが、箒を完成させたし」
(見ててくれたよね?ハワードくん)
「すぐにとは言わない。不真面目な態度を改めるように」
「は、はい」
(ああ、ハワードくんとおしゃべり出来て、凄く、嬉しい。って、やだ、泣きそう)
「本当に、ごめんなさい」
(あ)
ティルは、意図しない落涙をした。はっとするハワード。そこに、ラインハルトが駆け寄る。
「学級委員長、言い過ぎだよ」
ラインハルトは、ティルとハワードの間に立つ。ティルは、ラインハルトの背中に話しかける。
「あ、あの、マラブルくん、だ、大丈夫」
「大丈夫じゃないよ、ラーナーさん」
(やだ、涙止まらない。どうしよう!)
ティルの嗚咽を聞きながら、ラインハルトは言葉を続ける。
「学級委員長、君の言い分は、まともだけど、ご婦人を泣かせるその姿勢は、評価出来た物じゃないね」
「とりあえず、謝罪する。すまなかった、ラーナーさん」
「ご、ごめん、学級委員長。ち、違うの!マラブルくん、私は大丈夫なの!」
(変な事になっちゃった。本当に、どうしよう!)
ラインハルトは、ハワードに背中を向け、こう言った。
「ああ、君はなんて優しいご婦人なんだろうね?泣かせるまで君をいじめた人に謝るなんて」
「う」
「行こう」
「え」
罪悪感の塊となったハワードを尻目に、ラインハルトはティルに手招きする。ティルは、迷いを見せつつも、その手に従った。
(ラインハルトくん、違う!私、いじめられたから泣いたんじゃないよ!これ、嬉し泣きなんだよ!けど、けど、言えないっ)
収まりかけたティルの涙は、ラインハルトの傍らで再び溢れる。
「大丈夫だよ。僕が、君を学級委員長から守るから」
「あ、ありがとう」
それから、中庭に移動したラインハルトはティルの涙が収まるまで傍にいた。
「もう、大丈夫だよ。マラブルくん」
「そうかい。それは、よかった」
「帰らなきゃね」
「そうだね」
ティルは、ラインハルトと共に昇降口に向かう。すると、途中でラインハルトが言う。
「一緒に帰ろう」
「ええっ」
「泣いたご婦人を、1人にさせるわけいかないからね」
「あ、あの、う、うん、わかった。一緒に帰ろうか」
それから、動く歩道までティルとラインハルトは並んで歩いた。その途中、ラインハルトが口を開く。
「そうだ。箒を作り直さないかい?もっと綺麗に作ったら、学級委員長を見返せるかもよ?」
「え、あ、うん、そうだね」
「僕も手伝う。その時は、僕に声をかけてね?」
「えっ!いいよぉ」
「そうかい?」
ラインハルトは、一瞬さみしそうな顔をする。ティルは、慌てて言い直した。
「で、でも、マラブルくんがよければ!」
「いいに決まってるよ。ラーナーさん」
「じゃ、お願い!」
「承知したよ」
そうして、ティルとラインハルトはその日は別れた。
(前のイテラリピティでは、エリンちゃんの箒作り、私が手伝ったけど、今度は、私の箒作りをラインハルトくんに手伝ってもらうのかぁ。でも、どうやって手伝ってもらうの?私)




