50時間目:目指すもの
1年で最も短い学期、三学期が始まった。モニカは登校した児童達に言った。
「さ、冬休みの宿題を机の上に上げてください」
それを受け、ティル達児童は、鞄から問題集を取り出し、モニカの指示に従った。ひととおり確認した後、モニカは唱える。
「エーレアチ、チオ、ジエレイエ、エーレエ。冬休みの問題集!」
一瞬にして児童全員の宿題が、モニカの手元に集まった。そして、こう言った。
「皆さん、冬休みは楽しめましたか?今日から三学期が始まります。この三学期は、一学期、二学期より短いです。また、2年生になるための勉強もしていきます。皆さん、頑張りましょうね!」
ティル他児童達の「はーい」という声が揃う。
(三学期の試験は、一番のクラスになるんだ!頑張る!!)
それから、始まった三学期の授業。モニカの指導は、心なしか熱を帯びていた。
「ここまでの授業、わからない所はありますか?」
(三学期に入ってから、オリーン先生、よくこういう事、訊くようになったなぁ。なんでだろ?)
そして、三学期の試験が近づいた頃、二学期と同様に自然と勉強会が始まった。その日その日でメンバーの入れ替えがあったが、クラスの3分の2の児童が勉強会に参加した。
そんなある日の放課後。ハワードは下校する素振りを見せず、自らの席にてこう唱える。
「エレイ、ビエーレオ。ティエ、エッセティオ。理科」
ティルは、そんなハワードを凝視する。
「え、学級委員長?」
「今日から、勉強会に参加する。よろしく頼む、学級副委員長」
「えー!家で何かあるんでしょ?」
「交渉の末、参加する事に許可が下りた」
(こーしょー?きょか?おりた?わかんないよ、ハワードくん。だけど)
「ハワードくんが、いてくれるの、嬉しい!」
「学級委員長だ。学級副委員長」
「あ、そうだね。学級委員長!勉強頑張ろ!!」
ハワードは、力強く頷いた。その後、児童達はお互いにわからない所を教え合い、勉強を進めていった。そんな勉強会は、いつものように1時間程度で終了。児童達は、下校して行く。先に教室から出ようとしたハワードの背中に、ティルは声をかけた。
「ど、どうだった?勉強会」
「なかなかのものだった。明日からも参加する」
「わーい!」
自然と、ティルとハワードは共に下校し始める。少し後にエリンも加わり、3人での下校となった。動く歩道までの道すがらハワードは口を開く。
「学級副委員長の勉強会は、もう3組だけの物じゃないな」
「え?ああ、二学期の時に、4組と5組に真似されてたよね」
エリンがそんなティルの返答に反応する。
「ティルちゃん、4組と5組だけじゃないよ?1組も2組もやってるよ?」
「ええーっ!!」
「何だ、学級副委員長は知らなかったのか」
「し、知らなかった」
(皆、真似してたんだ。二学期はラインハルトくん、三学期はハワードくんとエリンちゃんに言われなきゃわかんないなんて、何だか恥ずかしい)
ハワードは、雲が出始めた空を見上げ言う。
「だから、尚更、僕も勉強会に参加しなければと思ったんだ」
「そうだったんだ」
そんな話をしていると、動く歩道が目の前に。ハワードは、ティルやエリンとは逆方向の歩道に先に乗る。ティルは、エリンと声を揃えて「さよなら!学級委員長!!」と言った。ハワードは短く手を振り、帰って行く。それを見届け、ティルは言った。
「エリンちゃん、私達も帰ろ?」
「うん!」
それから、試験前日までの放課後、1年3組は勉強会に精を出した。
そして、試験当日の朝、モニカが来る前に、ハワードは言う。
「まだ来てない人がいるが、皆に言っておきたい。勉強会でやった事、全部試験にぶつけよう!」
「うん!!」
ティルは、いの一番に返事をする。他の児童達も、気合を入れた表情になった。残りの児童達が全員教室に着くと、間もなく、モニカが入室して来る。
「さ!今日は1年生最後の試験の日です。悔いのないようにしっかり力を出しきってくださいね!!」
児童達の「はーい!!」という声が揃う。朝の会とその後の短い休み時間を経て、いよいよ試験が始まる。
(絶対に、間違わない!満点取る!!)
そうして、試験の日は過ぎていく。下校の時間が来た。エリンがティルの所に駆け寄りこう言った。
「なんだか、今日の試験凄く出来た気がする!!」
「よかった!エリンちゃん!!」
他の児童達も、試験の手応えを報告し合った。そんな光景をハワードは、わずかな笑みを含んだ顔で見回し、先に下校して行った。
「あ、あれ?ハワードくん?」
ティルの問いに、フェリシアが答えた。
「学級委員長は、さっき帰ったよ?」
「そうなんだ。ありがとう」
それから、日を跨ぎ三学期は終わりを告げる。終業式を経て、モニカは成績表を児童1人1人に渡していく。淡々と渡されていく成績表。しかし、モニカの顔は、明るい笑みで満ちていた。
「ラーナーさん、あなたは凄いですね。一学期からずっと満点で試験を終えました」
「ありがとうございます」
そうして、成績表を全て渡し終えたモニカはより一層笑顔になり、こう言った。
「皆さん、一学期から試験の前は毎回勉強会を開いて、とても偉かったです。その努力の成果が、三学期の試験で出ました。1年3組は、クラス別の成績で1位となりました。おめでとうございます!よく頑張りましたね!!」
ティルの顔がみるみる喜びに染まった。
「やったー!!」
教室全体がどよめく。ハワードは、力強く頷いた後、微笑んだ。そして、立ち上がる。
「優秀な成績のクラスの学級委員長となれた事、誇りに思う。学級副委員長の勉強会の提案は、今となってはいいものだった。ついていった皆、よく頑張った!」
ティルも立ち上がる。
「うん!皆、勉強会に参加してくれて、ありがとう!!」
1年3組の教室に拍手の嵐。ティルとハワードは、共にそれを浴びながら、自らも拍手をした。
(なんだか、とってもいいクラス!この1年、楽しかったよ!!)
そうして、放課後を迎えた。思い思いに児童達は下校して行く。ティルは、はじめエリンと共に帰っていたが、前を歩くハワードの背中を見るなり、こう言った。
「ご、ごめん、エリンちゃん。私、学級委員長に話したい事があるから、そっちに行くね!」
「え?う、うん」
「ごめんね?エリンちゃん」
ティルは駆け出した。そして、動く歩道に乗る直前のハワードに追いつく。
「学級委員長!」
「何だ?学級副委員長」
「ね、明日広場で会わない?」
「は?会って何をする?」
「色々話がしたいの」
ハワードは、一旦沈黙したが、こう言った。
「なら、話そう。午後。そうだな、2時になるが、いいか?」
「うん!」
ハワードとの約束を取りつけたティルは、エリンの元へと戻り、それから改めて共に下校して行った。




