47時間目:舞い踊る
9月末の放課後、ティルは男性養護教諭にこう言った。
「もう、体、大丈夫になりました。明日から教室に登校します」
「よかった。でも、体が少しでもおかしかったらいつでもいいから、ここに来るんだよ?」
「はい!」
そして、翌日の朝。初等部1年3組の教室にティルの元気な挨拶が響いた。
「おはよう!皆、今日からまたよろしくね!!」
そんなティルにラインハルトが歩み寄ってきた。
「元気そうだね」
「マラブルくん、ありがとう。おかげで元気になったよ!」
ラインハルトは微笑み、自らの席に戻った。ハワードは、それを無言で見届けた。そんなハワードにティルは声をかける。
「学級委員長、本当にありがとう」
「もう、礼はいい。それより、2週間後の学習発表会の練習、君だけ遅れている。それに専念しろ」
「え、そうなんだ。わかった!」
モニカも来て、朝の会が始まる。
「今日から、ラーナーさんが戻りました。また全員で学習出来ますね!頑張りましょう!!」
「はーい」
ティルは誰よりも元気に返事をした。朝の会が終わると、エリンが駆け寄ってきた。
「ティルちゃん!元気になってよかった!!」
「また一緒だね!エリンちゃん!!」
その様子を、ハワードとラインハルトはそれぞれの席から見て穏やかな顔をした。一方、ティルはエリンに尋ねる。
「学習発表会、何やるの?」
「ダンスだよ!」
(歌じゃないんだ。ダンスかぁ)
エリンは返答を続ける。
「体育で今練習してるんだ。男子と女子で別れてね」
「そうなんだ。学級委員長が言ってたね、私だけ遅れてるって」
「そうだね」
エリンは、少しの沈黙の後こう提案した。
「あ!放課後、勉強会みたいに練習する?ティルちゃん。よかったら私、教えるよ?勉強教えてもらったから」
「エリンちゃん、お願い!!」
(ダンスは、6回前にやってそれから歌とか劇だったから忘れちゃってるかも)
それから、ティルは久しぶりの教室での授業を受ける。
(勉強の中身は全部わかるけど、なんだか新しい事聞いてるみたい。なんか、楽しい)
そして、給食の時間がやってきた。ティルの隣にハワードが座る。
「食べる前に訊いておく。放課後残ってのダンス、大丈夫か?」
「うん!大丈夫だよ!!」
「そうか」
「心配してくれたんだね?」
ハワードは言葉を急に詰まらせる。ティルは続けた。
「大丈夫。ダンスの練習に専念させて?」
「そうか。なら、いい」
それから、ハワードは給食を口にし始める。初等部1年3組の学級委員長と学級副委員長の間には、それ以降の会話はなかった。しかし、2人の顔は程よく力が抜けていた。
その日の放課後。ティルは早速エリンに声をかけた。
「ね!エリンちゃん、ダンス教えて!!」
「うん!ティルちゃん、校庭に行こ!!」
ティルはエリンと第三校庭に繰り出した。そして、エリンは校庭に着くと言った。
「ティルちゃん、私のダンス、見て!先生に上手って言われたんだ!!」
「そうなの!」
そして、エリンは「お手本」として踊り始める。
「わー!エリンちゃん上手!!」
「ありがとう!ティルちゃん!!」
(やっぱり半分くらい忘れてる!頑張らなきゃ!!)
エリンのダンスが終わる。そして、ティルは覚えている範囲で踊ってみた。
「凄い!1回でティルちゃん、踊れてる!!」
「う、でも、この先、どうだったっけ?」
「こうだよ!」
エリンは、ティルが忘れてしまった箇所を一緒に踊る。
「ありがとう!エリンちゃん!!」
そこに、下校するハワードが通る。ハワードはこう声をかけた。
「学級副委員長が、下手なダンスをしたら恥ずかしいからな。よく教えてもらうんだぞ」
「うん、わかったよ!学級委員長!!」
それを聞き届けた後、ハワードは立ち去った。それから何度かティルはエリンについてもらいながらダンスを踊る。そして、この日の練習は終わった。
「エリンちゃん、ありがとう」
エリンは、嬉しそうだった。そのままティルとエリンは一緒に下校する。
「本当に、エリンちゃんダンス上手だったよ!」
「そう?ありがとう。授業の時は、女子は私、男子は学級委員長が上手って言われてるんだ!」
「へー!」
(ハワードくん、上手なんだ。って言うか、エリンちゃんのダンスもハワードくんのダンスも私見たことある筈なのに、やったの前過ぎて、よく覚えてないなぁ)
それから数日後の体育の授業で、ダンスの全体練習が行われた。モニカは言う。
「今日は、ダンスの最後に唱える呪文を合わせる練習をしましょう。男子と女子で呪文の後に言う言葉が違うので、気をつけてください」
そして、モニカと児童達は、ゆっくりその呪文を練習した。
「はい、唱えられるようになりましたね?では、隊列を組んでください。ラーナーさんが加わるので、少し女子の並びが変わりますが、女子の皆さん、頑張ってください」
男子と女子、それぞれおおよそ横3人、縦6人の隊列を組んだ。ティルは、エリンとフェリシアと3人で並ぶ事になった。
「エリンちゃん、メンデスさん、よろしくね?」
エリンもフェリシアも「うん!」と返してくれた。それから、ダンスの練習が始まる。ティルは、ふっと男子の隊列を見た。ハワードはラインハルトと同じ列で踊っていた。
(わっ!エリンちゃんの言う通りだ!!)
そうして、授業が終わるまでダンスの練習は続いた。
その後も、ティルは遅れを取り戻す為、エリンと校庭でダンスの練習を重ねた。
あっという間に10月はおおよそ2週間過ぎる。いよいよ学習発表会の日が来た。講堂内に入った1年3組の児童達にモニカは声をかける。
「さ、次出番ですよ!魔法の杖はポケットに入れてありますね?」
「はーい!」
ティルは、他の児童達と共に元気な返事をした。そして、舞台に上がった。
(お父さん、お母さん、リノ、私のダンス、見てね!!)
軽快な音楽が流れ、遂に1年3組のダンスが始まる。始めは隊列を組んで児童達は踊る。男子は底なしにかっこよく、女子はひたすらかわいらしい振り付けで、最前列を交代しながら踊りを披露していく。
(エリンちゃん、おかげで全部思い出したよ!上手に踊れてるよね?)
最後列で踊り始めたティルやハワードが最前列まで来た。ある程度踊った後、隊列は崩れ、男子と女子は舞台いっぱいに1列ずつ列を作った。そして、ポケットから魔法の杖を取り出し左手に持つ。杖を振りながらティルは他の女子と共に全員の男子と右手でハイタッチをしていく。
(ハワードくん、とっても上手なダンスだったね!)
ティルとハワードのハイタッチが行われた。やがて、ダンスは佳境を迎える。一際大きな太鼓の音を合図に呪文を唱える時間が来た。1列に並んだ男子の前に、女子が1列に並びかがんだ。
ティル達女子は唱える。
「ア、エンネイ、エンメア、エレエ。蝶々!!」
ハワード達男子は唱える。
「ア、エンネイ、エンメア、エレエ。小鳥!!」
揃って唱えられた呪文にて喚ばれた蝶々や小鳥が、講堂内を飛び回る。保護者や教諭達の歓声が上がった。音楽が止まる。余韻と共に、喚んだ蝶々や小鳥はとけるように消えて、1年3組のダンスの披露が終わった事を告げた。児童達は、拍手喝采を受ける。
「ありがとうございました!!」
ティルは、他の児童達と共に大きな声で感謝の言葉を言い、手を思いっきり振った。




