45時間目:2番目
この日、ティルは一学期の成績表を受け取った。そう、一学期はこの日で終わる。そして、翌日から夏休みとなる。モニカは、児童達に言った。
「勉強会のおかげか、一学期の試験は皆さんいい点数でした。その中でも、ティル・ラーナーさんは全教科満点!凄い事です!!」
児童達の驚く声と拍手が教室に響いた。そうして、この日の日程は終わった。
(オリーン先生、教えてくれるかな?)
「ね、学級委員長、ちょっとだけ職員室に一緒に行ってくれない?」
ハワードは、無言でティルについて行く。そんなティルは、職員室に着くと、話し始めた。
「オリーン先生」
「どうしましたか?ラーナーさん」
「あの、教えて欲しい事があるんですけけど、一学期の試験、他のクラスと比べてどうだったんですか?」
モニカは、資料を出し情報を確認した後、言った。
「気になりますか?2位でしたよ」
「えー!2位っ?勉強会頑張ったのに!!」
「でも、1位の5組とほとんど変わらない成績でしたし、3位の2組とかなり差があります。素晴らしい成績には変わりません。先ほど皆さんの前でも言いましたが、凄い事ですよ」
「そ、そうですか」
しょんぼりするティル。傍らのハワードはひとつため息をついた後、言った。
「まあ、結果は変わらない。受け入れろ、学級副委員長」
「うーん、わかったよ。学級委員長」
「ラーナーさん、気を落とさないでください。そして、明日からの夏休みは思う存分楽しんでください」
「わかりました」
うなだれながらティルは職員室を出た。共に出たハワードは、そんなティルに言葉もかけずに先を歩き始める。ティルは駆け出し、ハワードを追いかける。
「ハワードくん、ごめん。一番になれなかったよ」
「何を謝る?僕が望んだ事じゃない」
「そうだけど」
「それに、試験はあと2回ある。終わった事は終わった事。これからどうするか、だろう?」
「う、うん」
「そうしょぼくれるな。僕まで悔しくなる」
「ごめん」
話しているうちに、初等部1年3組の教室まで戻っていた。そこには、エリンが待っていた。
「ティルちゃん、かーえろ!」
「うん、エリンちゃん」
ハワードは、自らの席に荷物を取りに行く。そんなハワードを追いかけるようにティルは言った。
「ねぇ!学級委員長も一緒に帰ろ?」
「断る。友達と2人で帰れ」
「えー」
ハワードは、そのティルの反応を聞きながら教室を出て行った。ティルはわずかな時間口を尖らせたが、エリンに笑顔を見せ、こう言った。
「エリンちゃん、私達も帰ろ」
「うん!」
翌日、翌々日を使ってティルは夏休みの宿題を全て終わらせた。解答で埋まった問題集をパラパラ見直した後、大きな息をつきながらこう言った。
「はー、疲れたぁ」
(うー、悔しいなぁ。私1人が満点取ってもクラス皆が点数良くないと、一番のクラスになれないんだよね)
ティルは問題集を鞄に入れた。
(前のイテラリピティの時のように、お父さんに問題集買ってもらってもいいけど、意味ないよね)
ため息が、ティルの自室に消えていった。
「もう、仕方ない!」
ティルは、絵本を出し、読み始めた。
(とりあえず夏休み、楽しもう!それに、リノももうすぐ産まれるし!!)
それから、ティルは時々エリンと遊びながら夏休みを過ごしていった。
8月は半ばを過ぎる。ティルは表向きいつもの朝を過ごしていた。
「おはよう!お父さん!!お母さん!!」
グレゴリオとノエルは、声を揃えて「おはよう、ティル」と返してくれた。それから朝食を摂り、夏の日差しを浴びながら夏休みの時間を過ごした。ティルの脚は、楽しそうにゆらゆら揺れた。そんなティルの耳に、ノエルの声。
「急ね?」
「すまないね、同僚に怪我人が出て、人が足りないみたいなんだ」
「気をつけていってらっしゃい」
「うん、いってくる」
ティルは急ぎグレゴリオの元へ。
「え?お父さんお仕事?今日休みじゃん!」
「ごめん、ティル、急な仕事が入ったんだ」
「やだ!お父さんと今日は一緒にいたいの!!」
「本当にごめん。多分明日は代わりの休みがもらえると思う。そしたら、埋め合わせするからね」
「明日じゃ嫌!」
(だって、今日は)
グレゴリオにすがりつくティルをみかねたノエルは、こう声をかけた。
「ティル、わがままは駄目よ」
そして、グレゴリオからティルを優しく引き剥がし、抱き寄せた。
「ノエル、ありがとう。ティル、ごめんな?」
そして、グレゴリオは瞬間移動にて出勤して行った。
「お父さん!!」
ティルはノエルの大きなお腹の横で叫んだ。
(お父さん、今日、リノが産まれるんだよ!!)
それから、ティルはノエルの傍を片時も離れることが出来なかった。ノエルは苦笑いしながらティルに声をかける。
「ごめんね。グレゴリオの代わりに傍にいて欲しいのね?」
「うん」
(そういう事にするしかないよね)
昼過ぎ、ノエルに異変が訪れた。急に座り込み、眉間に皺を寄せる。
「あっ、ん、い、痛い」
「お母さん!」
息が荒くなるノエルの背中をティルは撫でつつじわじわと涙を浮かべた。
(痛そう。お母さんのこんな顔、何回見ても慣れないよ!!)
痛みの合間に入ったノエルは、言った。
「グレゴリオがいないから、1人で病院行かなきゃね」
「大丈夫?」
「ん、頑張るわ」
ノエルは、産科医院に行く支度をし始める。そして、ティルを伴いながら瞬間移動をしようとしたが、再び襲ってきた痛みに座り込む。
「お母さん!!」
「ん、痛い。治まるまで、ちょっと座らせて」
痛みに歪むノエルの顔。ティルは、おろおろする。
(今まで、リノが産まれる日は、お父さんがいたのに!)
ティルは、少しの時間考えを巡らせた。そして、自室へと走る。鞄から杖を取り出し、玄関へ。
「お母さん、私、お医者さん呼んでくるね!待ってて!!」
「えっ?ティル?」
ティルは玄関から飛び出し、こう唱える。
「ウ、エッセア、エーレエ!箒!!」
学校で自作した箒が杖から出てくる。間髪入れずにそれに跨ると、続いて唱えた。
「ヴオ、エレア、エーレエ!お母さんの病院へ!!」
低空飛行のティルは、産科医院へ一直線に飛んで行った。
「瞬間移動は、大変な魔法ってお父さん言ってた!お腹が痛いお母さんが瞬間移動なんてしたら、リノが駄目になっちゃうかも!」
始めは順調良く飛んでいたティルであったが、だんだん箒が減速して行く。
「うー!苦しいよ!!」
ティルの息が上がる。胸の中を絞られているような感覚に耐え、ティルは精一杯叫んだ。
「でも、お母さんにリノを無事に産んでもらうんだ!私の箒、病院まで飛んで!!」
そして、無事にティルはノエルが通う産科医院に到着した。ふらふらな足を引きずりながらティルは受付に声をかける。
「私、ティル・ラーナー。お母さんが、お腹痛いって、産まれそうなんだ」
そこで、ティルは意識を手離した。
一瞬のような気がした。ティルは目を開ける。すると、照明に照らされた柔らかな色の天井を見た。グレゴリオの声が届く。
「ティル!起きたよ!!」
わずかに遠くから、ノエルの声も届いた。
「よかった」
両親の声は、涙で震えていた。
「お父さん?お母さん?」
弱々しくティルが呟くと、赤ちゃんの泣き声が響いた。
(リノ?)
ノエルのリノをあやす声が聞こえる。
「お姉ちゃん、起きたわよ、赤ちゃんがきっとお礼を言ってるのね?」
グレゴリオはティルに極めて優しく声をかけた。
「ティルのおかげで、無事に男の子が産まれたよ。ありがとう、ティル」
ティルの消え入りそうな声が、グレゴリオとノエルに届いた。
「よかった、弟」
再び、ティルは意識を手離した。




