44時間目:試験の行く末
翌日の給食の時だった。食堂でティルはハワードの隣に座った。ハワードは眉間に皺を寄せる。そんなハワードの方を見ずに、ティルは給食を食べ始める。沈黙の中、ティルとハワードはお腹を満たしていくが、しばらく食べ進めた後、ティルは声を漏らす。
「んー、給食美味しい!」
「学級副委員長、何故隣に来た?」
「いいじゃん、食べよ」
ティルは、ハワードが食べる様子をチラチラ見た。
「わー、ハワードくん綺麗に食べるんだね?」
ハワードはティルを一瞬睨み、返答をせず引き続き食事を進めていった。そして、完食する。
「学級副委員長、僕は、学級委員長だ。名前で呼ぶな」
「あ、ごめん。学級委員長」
ティルも給食の最後の一口を頬張り、飲み込んだ後、言葉を続けた。
「あの、勉強会、嫌だった?」
「勝手にすればいい」
ハワードは、その言葉を残し、教室へと戻って行ってしまった。ティルは、ため息をついた。
(折角、運動会でハワードくんに近づけた気がしたのに、私、また何やってるんだろ?)
それから、5時間目、6時間目と授業を受け、放課後になった。すると、すぐにエリンがティルに話しかける。
「ね!ティルちゃん、今日も勉強会するんでしょ?」
「うん!」
ハワードは、チラとその様子を見たが、素早く帰りの準備をし、廊下へと足を向けた。ティルはそんなハワードを目で追いかけ、言った。
「学級委員長!今日は、今日だけは、勉強会に参加してよ!!」
「断る。先生が言っただろう?無理をさせるなと」
「そうだけど、1日だけでも、学級委員長と勉強会したいよ」
「家で別の用事がある。やってる暇などない。『1年3組の勉強会』は、学級副委員長に全て任せる」
ハワードは、ティルの返答を聞かずに教室を出て、下校して行った。この日も勉強会に参加するラインハルトがティルの元へ来て言った。
「学級委員長には、事情があるんだよ」
「そうみたいだね」
「けれど、学級副委員長に冷たすぎる。僕は、君を応援するよ」
「ありがとう」
(ラインハルトくん、やっぱり優しい。ハワードくんは帰っちゃったから、もう今日は何も出来ない。勉強会やろ)
「昨日よりちょっと人数増えたね!頑張ろう!!」
そして、ティルは、エリン、ラインハルト、フェリシア他総勢15人でこの日の勉強会を始めた。
翌日も、それ以後の日も、勉強会は放課後の1時間程度を使って行われた。人数の増減や参加する児童の入れ替えはあったが、ハワードの参加は一度もなかった。
試験が2日前に迫ったこの日の勉強会も、ハワードは不参加だった。この勉強会皆勤賞のラインハルトが先に下校するハワードの背中を見送りながら呟いた。
「学級委員長、なんとなく君の気持ちはわかるよ」
近くにいたティルにその呟きが届く。
「マラブルくん、わかるの?」
「騎士団と議員は違うかもしれないけれど、僕と学級委員長の父上は、団長と議長だからね」
「そうなの」
「僕は、いずれ騎士団に入るつもりだよ。それと同じように学級委員長は、議員になるつもりなんだろうね。お父上もそう言っていたように」
「遠足の時だね」
「必死なんだろうね、色々と。だけど、君にあんなに冷たくするのは、いただけないなと、思ってるよ」
(そっか。なんとなく、わかった)
「マラブルくん、心配かけてごめんね?そして、ありがとう」
ラインハルトは微笑む。
「僕、お礼されるような事、したかい?」
「したよ」
「そうかい」
翌日、ティルは登校するなり、既に教室にいたハワードに声をかける。
「学級委員長、おはよう」
「おはよう、学級副委員長」
「ちょっと話があるの。来て?」
ハワードは、首を傾げ無言でティルについて行く。廊下に出ると、ティルはこう切り出した。
「勉強会、今日で終わるよ。明日試験だしね」
「そうだろうな」
「あの、勉強会をやらせてくれてありがとう」
「急に何だ。先生が許可した物を僕は止める事は出来ない。僕は、それに対しては何の力も出していない」
「そうかも?うん、そうだね。それに、私わがままでごめん」
「それは、そうだな」
「でも、あれから皆、沢山勉強したよ。きっと、勉強会の前より勉強、わかるようになったと思う」
「そうか」
ハワードは、時計をチラと見る。
「そろそろ、先生が来る時間だ。教室に戻る」
「あ、まだ話終わってないけど、戻らなきゃ。朝の会が終わったらまた話していい?」
「しつこいな」
「ごめん、もうちょっと話したいの。学級委員長と」
「仕方ないな」
そうして、モニカが教室に来て、朝の会が始まった。
「明日は、いよいよ皆さんにとっての初めての試験ですね。緊張するかもしれませんが、頑張ってください」
すると、1人の女子児童が声を上げる。
「学級副委員長が色々教えてくれたから、大丈夫!明日は頑張る!!」
「そうですか。ラーナーさん、よくやりました」
「ありがとうございます、先生」
そう言ったティルの右斜め前のハワードは、ピクリともしなかった。やがて、朝の会が終わる。ハワードは、左斜め後ろをふり返りティルに声をかける。
「すっかり、学級副委員長がこのクラスの救世主みたいな扱いだな」
「なんだか、ごめん」
「ふん」
ハワードはそう短く言い、教室の前に向き直った。ティルはそんなハワードの背中にこう声をかけた。
「学級委員長、ううん、ハワードくんは、お家で大変なんだよね?」
ハワードの目が丸くなる。続けて投げかけられるティルの言葉を、姿勢を変える事なくハワードは受け止めた。
「それが何なんだか私はわからないけど、ひとつだけ考えてる事があるんだ。聞いて」
「なんだ?」
「あの運動会での魔法玉入れみたいに、1年3組を一番の成績のクラスにしたいよ。ハワードくんが学級委員長の1年3組だから!」
ハワードは、再びティルの方を振り返る。
「明日の試験、頑張ろうね?学級委員長」
「そうだな、学級副委員長」
翌日、試験の日が来た。魔法の杖が回収された後、試験が始まる。ティルは見知った問題への解答を全力で記入していった。
(皆、頑張って)
試験も中盤に差し掛かってきた。ティルは、解答用紙を全て埋めた後、右斜め前を見た。その視線の先で、ハワードは必死に解答を書いていた。
(ハワードくんも、頑張って!)
そして、試験の日程が全て終了。どこの教室でも、解放感が溢れた。初等部1年3組の教室も例外ではなかった。エリンは、ティルに飛びつきながら言った。
「ティルちゃん!勉強会のおかげで試験、いい点数取れそうだよ!!」
「エリンちゃん!よかったね!!」
フェリシアも言った。
「ありがとう、学級副委員長。私も頑張れたよ」
「頑張れたんだ!嬉しいな!!」
ティルは、笑顔を爆発させた。しかし、すぐに引き締まった顔になる。
「でも、私だけの力じゃないよ。許してくれた先生と、私のわがままで始めた勉強会を止めなかった学級委員長の力でもあるよ」
ハワードは、ティルからの急な指名に棒立ちになる。そんな様子を見たラインハルトが微笑みながら言った。
「僕も、すらすら試験が出来た。恩に着るよ、学級委員長、学級副委員長」
「なら、よかった」
ハワードはわずかにはにかむ。ティルは満面の笑みを浮かべ、こう言った。
「勉強会、大成功だね!」




