43時間目:勉強会
(ハワードくんばっかり見てた。エリンちゃんにかなしい思いをさせた。もー、私何やってるんだろう)
運動会の振替休日、ティルは自宅の自室にて机に突っ伏し足をバタバタさせていた。
(それもこれも、ハワードくんが頭固いからだよ!って言っても、お父さんが言うには、ハワードくんのお父さんがあんな人だからああなっちゃったみたいだし、ハワードくんが悪いんじゃないみたいなんだよね)
ティルは頭を上げ、入学式の写真を出した。そして、子供議員バッジと交互に見始める。
(うー、でも、優しいラインハルトくんの方だったら、エリンちゃんを巻き込んで仲良く出来たかも。それに、なんだかんだ言ってまたフェリシアちゃんとは仲良くしてない。うー、前の前のイテラリピティでは友達になったのに)
ティルの視線は、写真のラインハルトへ。しかし、すぐに天井へと視線を移す。
(わかってた筈なのに、難しいよー!でも、絶対にハワードくんにイテラリピティの事訊くんだ!頑張ろう!!)
ふと、暦がティルの目に入る。
(うー、またどうしていいかわからない一学期の試験が来ちゃう。完璧にする?手抜きみたいな事する?あー、どうしよう)
ティルの思考が回り続けているうちに、あっという間に振替休日が終わっていく。夕飯をティルは家族揃って食べていたが、心ここにあらずという状況であった。グレゴリオはそんなティルをチラチラ見ながらノエルの料理に舌鼓を打っていたが、自らの食事が終わると、口を開いた。
「ティル?どうしたんだい?」
「ふぇ?」
「ぼうっとして、何かあったのかい?」
「う」
ノエルの心配そうな目もティルに注がれた。
「えっと、試験近いなって思って、どうしていいかわからなくて」
「自信、ないのかい?」
(違うけど)
「うん」
「そうかい。僕は初等部1年の頃はそんな事考えなかったな」
「私も、初等部1年の一学期の試験なんて何の事かわからないまま受けてたわね」
ノエルも話に加わった。グレゴリオは微笑む。
「そこまで真剣に勉強の事を考えているなんて、僕はティルを誇りに思うよ」
「私もよ。ティルが学級副委員長なんて凄いって毎日思ってるわ。だから、試験も大丈夫よ。そうね、ちょっと駄目な点数でも、私は、ティルが頑張ったって思うわ」
「うん、僕もそう思う。けれど、本気でいい点数取りたいんだったら、友達誘って勉強会をやればいい。僕は、中等部に入ってから色んな人誘って勉強会やって成績伸ばしたからね」
「それ、いいんじゃない?ちょうど学級副委員長やってるんだし、クラスの皆に声かけやすいんじゃないかしら?」
ティルの顔から雲が晴れる。
「うん!やってみる!!」
その夜、就寝前のティルは寝床に入り思考を回す。
(勉強会かぁ。前のイテラリピティの夏休みに、エリンちゃんといっぱいやったなぁ。うん、エリンちゃんとか誘って勉強会やろう、放課後に!そしたら、満点取りやすくなる!お父さん、お母さん、ありがとう!!)
ティルは、その後穏やかな睡眠をとる事が出来た。
翌々日、登校後の朝の会でティルは手を挙げた。モニカの指名の後、ティルは言った。
「もうちょっとで一学期の試験ですよね?いい点数取りたいので、放課後勉強会をしたいんですけど、先生いいですか?」
「ラーナーさん、それはいい心がけです。教室を自由に使ってください。でも、あまり遅くならないようにしてください。それに、参加したくない人には無理をさせないようにしてください。それを約束出来れば、勉強会を開く事を許します」
「ありがとうございます!」
「では、今日から残って勉強したい人は、ラーナーさんと勉強していってください」
提案が受け入れられた事に、安堵の表情をティルは浮かべる。しかし、そんなティルに右斜め前の席からハワードの視線が刺さる。それからというものの、その日の授業中、右斜め前の席から聞こえる鉛筆の音は、苛立っていた。
(え、ハワードくん、なんか怒ってる?)
ティルの懸念が膨らんでいるうちに、その日は放課後を迎える。ティルはハワードに遠慮しつつ、クラスメイト全員に一斉に声をかけた。
「勉強会、したい人!」
「はーい!!」
エリンの声が上がった。それに10人程の児童が続いた。一方、ハワードはその様子を見回した後、無言で教室を出て行った。
(やっぱり、なんかハワードくん怒ってる。私、ハワードくんにとって悪い事しちゃったかも)
ティルのハワードを追う視線は、次第にエリンへと移動。
(うー、でも、エリンちゃんと久しぶりに仲良く出来る。それに、ラインハルトくんとフェリシアちゃんもいる!とりあえず、勉強会しよ!!)
早速エリンは目を輝かせながら教科書を開いてティルに話しかけてきた。
「ね、ティルちゃん、ここわかんないよね?」
「うーん、私もわかんなかったよ!」
(最初のイテラリピティの時はね)
「えっ、ティルちゃん今はわかるんだ!凄い!!」
ティルは頷くと、エリンにその問題の解き方を教えた。
「わー!ティルちゃん、ちっちゃな先生みたい!!」
「ありがとう!エリンちゃん!!」
そのエリンの言葉を聞いた他の児童も、ティルに教えを請いに来た。その児童の中に、フェリシアもいた。
「学級副委員長、ここ、わかる?」
「わかる!」
(久しぶりだなぁ、フェリシアちゃんと話すの。でも、学級副委員長って呼ばれちゃうのかぁ。ちょっとさびしいなぁ)
そんな中、ラインハルトは言った。
「なんだか、君は勉強会必要じゃないくらいに勉強、わかってるんじゃないかい?」
ティルの背中に冷や汗が流れる。
(あ、やばっ)
「えっ、えー、私もここ、わかんないよー?マラブルくんはわかる?」
「ここかい。うん、ここなら僕、わかるよ」
「マラブルくん、教えて?」
「わかったよ」
ラインハルトはティルにその問題の解き方を教え始める。
(うん、そうだよね。大正解、ラインハルトくん)
「わー!わかった!!マラブルくん凄いね?」
「君ほどじゃないと思うけどね」
(騙すって言うのかな?こう言うの。なんか、ラインハルトくんを騙してるみたい。うー、でも、試験までの我慢!)
ティルは、時計を見た。気づけば1時間勉強会をしていた。
「ね!今日は、ここまでにしよ!!」
そうして、児童達は解散して行った。ティルはそれを見届けながら、すかさずこう声を上げた。
「家、同じ方向だから、エリンちゃん、メンデスさん、一緒に帰ろ?」
「うん!ティルちゃん!!」
「え、私もいいの?学級副委員長?」
「いいに決まってるよ!」
そうして、ティルはエリンとフェリシアの3人で下校して行く。
(なんか、3人で家に帰るの久しぶり過ぎ)
エリンは動く歩道に乗ると伏し目がちに言った。
「運動会の時は、ごめんね?ティルちゃん」
「ううん、気にしてないよ!」
「学級副委員長と、フレンツェルさん、何かあったの?」
ティルとエリンは、声を揃えて「何でもないよ!」と言い、お互い目を合わせる。そして、笑い合った。フェリシアは、首を軽く傾げた。ティルはエリンとフェリシアの間に割って入る。
「色々あったけど、今は何でもないよ!エリンちゃんは私の友達だし、メンデスさんは大切なクラスメイト!!」
ティルは、エリンとフェリシアの2人と手を繋いだ。3人の笑顔が帰路に咲いた。やがて、3人は解散。ティルは1人になった。
「明日、ハワードくんと話、しなきゃ」




