42時間目:籠の中
6月は下旬となった。メビラ学園の運動会は青空の下、開会した。様々な競技を経て、魔法玉入れの時間となる。担当の男性教諭から、ティルとハワードは緑色の籠を受け取る。ティルは、ハワードの方を見てニコニコしながら言った。
「籠、空っぽで終わろうね!」
「そうだな」
無表情に近いハワードの顔を見た後、ティルは周りを見回した。玉を入れる方の児童達も集まって来る。1クラス5人が選ばれ、1年3組の児童の中にはエリンがいた。
「エリンちゃん、頑張ろうね!」
エリンは、頷くだけだった。それと同時に男性教諭から競技の説明がなされた。
「籠係の人は、杖を持って来ましたか?そこから箒を出してください。もし、忘れた人がいれば教室などに取りに行ってください」
幸い杖を忘れた児童はいなかった。10人全員杖を高く挙げる。それを確認すると男性教諭は説明を続けた。
「玉を投げる人には、今から玉を配ります。袋ごと持っていってください」
エリン他1年3組の児童には、緑の袋に入った緑の玉が1人20個ずつ渡された。配り終えると、男性教諭は引き続き説明をする。
「籠係の人は、他のクラスの玉を入れられないように校庭の上を飛んで逃げてください。校庭の外に出ては駄目ですよ?玉を入れる皆さんは、頑張って自分のクラスの色でない籠に玉を入れてください。さあ、競技を始めますよ!籠係の10人は、杖から箒を出してください!!」
それを受け、ティルはハワードや他の8人と共にこう唱えた。
「ウ、エッセア、エーレエ。箒」
ティル達の手に、自作の箒が出現。男性教諭の掛け声が響いた。
「魔法玉入れ、始め!!籠係の人!飛んで!!」
ティル他籠係の児童達の「ヴオ、エレア、エーレエ」という呪文が揃う。一斉に10人が飛び立つ。地上にいる25人の児童達は、自分の玉の色とは違う籠めがけて玉を投げ始める。玉の嵐の中、籠係の児童達は飛び回る。ティルは赤、青、黄色、紫の玉が乱舞する中、上手にそれをかわしていく。ハワードはそれを見て言った。
「やるな、学校副委員長!」
「えー?学級委員長もなかなかじゃん!」
だんだんティルとハワードの息が合っていく。しかし、ティルとハワードが持つ緑の籠には、数個の緑とは違う玉が入っていく。
「やだ!負けちゃう!!」
「他のクラスより、少なければ勝てる!切り替えていけ!!」
「うん!学級委員長!!」
ティルは、ハワードと共に、赤、青、黄色、紫の玉から逃げた。すると、男性教諭の声が。
「間もなく競技終了!」
ハワードが叫ぶように言った。
「勝つぞ!1位を穫るぞ!!」
「うん!!」
そう、ティルが大きく声を張り上げた瞬間だった。ティルの額に横から緑の玉がぶつかってきた。
「へっ?」
「なっ!」
ティルとハワードの短い声が揃う。すると、男性教諭の声が再びかけられる。
「競技終了!玉を投げるのを止めてください!!籠係の皆さん、降りてきてください」
ティルは、額を撫でながら降下して行く。一方、ハワードは、1年3組の玉を入れる児童5人を厳しい目で見ながら降下して行った。この魔法玉入れは、1年3組の1位で終了。ティルはピョンピョン飛びながら言った。
「やったー!!」
しかし、ハワードの眉間には皺が寄る。やがて、運動会は終わる。教室ではモニカが言った。
「皆さん、よい活躍でしたね!これで今日の運動会は終わりです。気をつけて下校して行ってください。また、明日の振替休日のお休みは、楽しんでくださいね!!」
そこで、ハワードの手が挙がった。モニカが問う。
「どうしましたか?フリーダーさん」
「魔法玉入れの玉を入れる係の5人には、残って欲しい。あと、学級副委員長と僕、先生の8人で話をしたいです」
多少モニカは戸惑ったが、こう返した。
「わかりました」
モニカは、改めて玉を入れる係の5人の名前を呼び、こう続ける。
「学級委員長のお話を聞きましょう。保護者の皆さんは、お待ちください」
そして、8人は急遽別の空き教室へと移動した。部屋の戸をハワードは閉めつつ、言った。
「学級副委員長のおでこに、緑の玉がぶつかってきた。これはミスか、わざとなのか、はっきりさせたい」
「ええっ、いいよ。あんまり痛くなかったし」
「そういう問題じゃないだろう?わざとなら、そんな事をするクラスメイトが1年3組にいる事になる。そんなクラスに僕はなって欲しくない」
モニカは驚きの顔をしたが、切り替え、引き締まった顔で言った。
「玉を投げた5人の皆さん、今から目を瞑ってください」
5人は、目を瞑る。それを確認すると、モニカは言葉を続けた。
「心当たりのある人、手を挙げてください。フリーダーさん、ラーナーさんは声を出さないでください」
その言葉を受け、震えながら挙げられる手があった。ティルは、その手の持ち主に目を丸くし、口を両手で押さえた。ハワードは、腕を組みその手の持ち主を睨んだ。モニカは首を傾げながら、言った。
「よく、手を挙げてくれましたね。手を下げてください。そして、5人の皆さん、目を開けてください。この話は、日を改めて話しましょう。今から呼ぶ順番で皆さんはこの部屋を出て、保護者の方と下校して行ってください」
そして、モニカは4人の名前をランダムに呼んだ。そして、1人1人部屋を出て行く。最後に、モニカがこう言った。
「フレンツェルさん、あなたは残ってください」
エリンの怯える目が、伏せられた。ティルの目は揺れる。ハワードは厳しい目を崩さなかった。モニカは、エリンに目線を合わせ、尋ねる。
「何があったんですか?フレンツェルさん。話してください」
エリンは、涙を落とした。モニカはエリンの頭を撫でる。エリンは嗚咽の中、言った。
「ご、ごめんなさい。ティルちゃんに、怒ったんです。先生」
「ラーナーさんが、あなたに何かしたんですか?」
「ティルちゃんは、友達だと思ってました。だけど、ティルちゃんは学級副委員長になって、仲良く出来なくて、なんだか遠くに行っちゃったみたいで」
「え、エリンちゃん、ごめん」
一時、エリンの言葉は、涙に奪われる。ティルはエリンの背中を撫でに行く。ハワードは直立不動でそんな様子を見届けた。
「幼稚園ではクラスが一緒じゃなかったけど、1年生になったらおんなじクラスになったから、もっと、もっと仲良くなれるって思ったのに、箒を一緒に作ってくれたけど、あんまりお話も出来なくて、さびしくて、さびしくて、ティルちゃんのバカ!って玉を投げちゃったの」
ハワードのため息が響く中、ティルはひたすらこう言った。
「エリンちゃん、ごめん、ごめんね?」
モニカの心底心配そうな視線の中、ハワードが言った。
「それで、学級副委員長は、どうする?」
「ゆ、許すよ。エリンちゃんを。私のせいでもあるし」
「そうか。学級副委員長の仕事もいいが、友達を大事にしろよ」
そして、ハワードはモニカに向かって言葉を続ける。
「先生、突然の提案に手を貸してくださってありがとうございました」
「あっ、ありがとうございました!」
ティルもそれに続いた。モニカは、微笑んだ。
「では、皆さんも下校してください。保護者の皆さんが待ってらっしゃいます」
エリンは、先に頭を下げ部屋を申し訳なさそうに出て行った。ティルは、それを目で追いかけながら言った。
「今日は、ありがとう。学級委員長」
「僕は、何もしてない」
「そして、先生も、ありがとうございました」
「どういたしまして」
ティルは、それぞれの返答を聞き届けると、部屋を飛び出し、叫んだ。
「エリンちゃん!今日は一緒に帰ろ!!」
エリンは、立ち止まり、再び涙を流し返した。
「いいの?」
「いいに決まってるよ!行こ!!」
「うん!!」




