表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
40/94

40時間目:議場の親子

遂に、国会議事堂の中に足を踏み入れるティル。敷き詰められた赤い絨毯は、程よく柔らかく、歩く音が全く響かない。堅牢な造りの柱等に目をやると、後ろから書類が蝶々のように天井近くを飛んで行った。ティルは思わず声を上げる。


「わあっ!凄い!!」

「うるさい」

「あ、ごめん、学級委員長。大きな声出しちゃった」


 ハワードは素っ気なく目を逸らした。その後、一行は廊下にて、バソト院議長にして、ハワードの父、クロードに迎えられた。


「ようこそ、メビラ学園の皆さん」


 先頭のイヴァンがそんなクロードに挨拶をする。


「この度は、ご提案ありがとうございました。児童やその保護者、そして、我が学園の職員をよろしくお願いします」

「はい、おまかせを」


 イヴァンは、その言葉を聞き届けると、振り返り言った。


「では、私はここまで。皆さん、議員の先生達のご迷惑にならないように学んできてください」


 そして、イヴァンは瞬間移動にて学園へと帰って行った。それを見届けたクロードがこう声をかけた。


「さあ、議場に行きましょうか」


 クロードの案内により、一行はバソト院の議場へ。議場の正面には、大きな鳥を模した像が静置され、その前に議長席があった。そして、おびただしい議員席が議長席を取り囲む。見上げれば2階に傍聴席がある。どれも質素な造りではあったが、威厳を感じさせる物でもあった。


 クロードは、議長席まで辿り着くと、拡声魔法にてこう言った。


「さて、児童の皆さんは議員席、先生方や保護者の方々は傍聴席のお好きな席に着いてください」


 その指示に従って、一行は好みの席を探し着席した。

 

 議長席には、何やら箱があった。それを手にしたクロードは、箱を開け、こう唱えた。


「ディイ、エッセティエーレイ、ビウ、イ、エーレエ。バッジを、児童の皆へ」


 箱からバッジが次々に飛び出し、児童達の元に1人ひとつずつひとりでに運ばれていった。それを見届けると、クロードは言った。


「さあ、児童の皆さん、今日の為だけに作った特別な議員バッジをつけてみてください」


(わぁ、なんだか、かわいい)


 ティルは、雛鳥の彫刻があしらわれたバッジを胸につけた。つけた後も、ティルはバッジを撫でる。クロードは全員がバッジをつけ終わったと認識した後、こう声をかけた。


「そのバッジは、お家に持って帰って構いません」


 ティルの右隣に座るハワードがそれを聞いて呟いた。


「『構いません』か。子供にはわかりづらい言葉だな、父上。『持って帰っていいですよ』と何故言えない?」


(ハワードくん、怒ってる?)


 クロードは、わずかな時間微笑んだ後、小さな木槌を握った。そして、丸い板に「コンコンコン」と叩きつける。


「これより、模擬議会を開会します。子供議員の皆さん、よろしくお願いします」

「はーい」


 ティルは他の児童達と共に元気に返事した。それを受け、クロードはこう問いかけた。


「子供議員の皆さん、世の中について質問したい事、要望したい事、何かありますか?」


 児童達が首を傾げる中、ハワードが挙手する。クロードは、魔法にて拡声器をハワードに送る。ハワードは、拡声器が到着するとこう言った。


「議長、『要望』とは何ですか?」


 フリーダー父子の視線が絡み合う。クロードは一瞬の笑みの後、こう答えた。


「これは、失礼。『要望』とは、『やって欲しい事』です。さあ、改めてこの国について、わからない事、やって欲しい事はありますか?」


 クロードの改めての問いに、児童達は次々に挙手し始める。はじめに当てられたのは、男子児童であった。


「あの!学校の宿題をなくして欲しいです!!」


 その純粋なる要望に、保護者や教諭達の苦笑いの声がささやかながら聞こえた。クロードも眉間に皺を寄せつつも笑顔でこう答えた。


「これは、これは、先生方の耳が痛い話ですね。宿題ですか。人によっては、宿題は嫌かもしれません。しかし、将来やってよかったと思えたり、いい思い出になる時が来ます。なので、先生の言いつけを守って宿題を頑張ってください。ですが、ここで要望も出ましたし、私から、先生方に宿題の負担軽減を検討していただくよう要望いたします」


(なんか、ハワードくんは怒ってるみたいだけど、なんか、ハワードくんのお父さん、いい人?うーん、イテラリピティの事、訊いてみたい。けど、大丈夫かな?)


 それから、次々に質疑応答が続いた。そんな中、ティルは挙手をする。


(あ、手、挙げちゃったけど、やっぱりイテラリピティの事訊くの止めよう!変な目で見られそう!!)


 しかし、拡声器がティルの元へ送られてしまった。


(あ、どうしよう?)


 多少の沈黙が流れた。クロードは言った。


「緊張してますか?」


 それを受け、ティルは意を決し話し始めた。


「あの、わ、わからない事とかやって欲しい事じゃないんですけど、言います。私は、ハワード・フリーダーくんのクラスメイトです」


 ハワードがティルを見上げ、首を傾げる。


「ハワードくんは、学級委員長としてクラスの事をいつも考えてくれています。とても立派です。私は、学級副委員長になりました。同じ学級委員として、一緒に頑張っていきます。よろしくお願いします!」


 ハワードの眉間に皺。一方、クロードの顔には満面の笑み。クロードはこの日一番の明るい声でこう応えた。


「なんと、そうでしたか!我が息子を評価していただき、ありがとうございます!私は、息子を厳しく育ててきたつもりです。その成果が現れたという事でしょう。我が息子、ハワードを副委員長として支えてください。こちらこそよろしくお願いします!」


 それから、数人と質疑応答をした後、クロードは言った。


「最後に、私の話を聞いてください」


 議場は、しんと静まりかえった。そして、クロードは演説をし始める。


「私は、歴代最年少で本院の議長となりました。今後、歴代最年少の首相となりたいとも考えております。この国を、是非とも率いさせていただきたい。その際には、新人議員として、ここにいる我が息子、ハワードがいてくれればと願っております」


 一斉にハワードへ人々の視線が集まる。ハワードは、まっすぐ前を見て、軽く会釈をするが、その表情は固いものであった。そんな中でも、クロードの演説は続いた。


「我々親子は、このレボルテという国をよくするために粉骨砕身の働きをする所存でございます。何卒、我々にお力添えを賜りますよう、心より、心よりお願い申し上げます」


 傍聴席からわずかな拍手が聞こえ、それに倣い議員席からも拍手が沸いた。その拍手が鳴り止んだ後、クロードは宣言した。


「これをもちまして、模擬議会を閉会します。子供議員の皆さん、ありがとうございました」


 クロードは、再び小さな木槌を握る。そして、丸い板に「コンコンコン」と叩きつけた。それをもって、この日の遠足は終わりを告げた。


 それから、モニカは1年3組の児童と保護者を集めこう言った。


「貴重な体験でしたね?さて、遠足はここまで、解散になります。気をつけて帰ってください」

「はーい」


 ティルは他の児童と共に返事をした。そして、グレゴリオと一緒に帰宅しようとした。しかし、ハワードに声をかけられ、足止めされた。


「学級副委員長、今日は、質問か要望をする場を設けられたのに、違う話をしたな?議長の話を聞いてたのか?」

「き、聞いてたよ?でも、あの話は本当にしたかった話なの!」

「僕を持ち上げても、何も出ないぞ?」

「えっ。う、うん。でも、ただ学級委員長とお父さんに聞いて欲しかったんだ」

「そうか」


 ハワードは、短く返事をした後、踵を返し、帰宅していった。ティルは、それを見送りつつ、今度こそグレゴリオと瞬間移動にて帰宅した。帰宅すると、ノエルが迎えた。


「おかえりなさい」


 ティルとグレゴリオは声を揃えて「ただいま」と返す。ノエルは、すぐにこう尋ねた。


「ティル、楽しかった?それとも難しかった?」

「半分、半分!だけど、見て!!」


 胸につけてある議長バッジを指差した。


「これは?」

「議員バッジ!」

「あらー!ティルも偉くなったわねぇ?」

「うん!偉くなった!!」


 ティルは、ニコニコして自室に着替えに行こうと一旦グレゴリオとノエルの元から離れる。そんなティルの背中を追いかけるようなノエルのグレゴリオへの問いが、ティルの足を止めた。


「どうだったの?議事堂は」

「建物の中は、圧倒されたよ。けど、得るものはなかったよ、正直」

「え?」

「なんだか、こう言ってはなんだけど、体のいい売名活動を見せられただけだったよ。議長のね」

「そうだったの」

「少し、がっかりしたよ」


(お父さん、がっかり?)


 ティルは、グレゴリオとノエルの元に戻った。


「ねぇ、ハワードくんのお父さん、駄目な人なの?」

「えっ!ティル聞いてたのかい?」


 グレゴリオは体をビクッとさせた。しかし、息を整え言葉を続けた。


「ごめん、ティル。ティルの同級生のお父さんの悪口を言って。うん、僕が議長に少しがっかりしたのは本当だけど、ティルが感じた事も本当だから、気にしないで欲しい」

「そう、そうなの」

「それより、ハワードくんと頑張りたいってティル言ってたよね?」

「うん」

「ハワードくんは、頑張ってる子だよ。だから、ティルも副委員長として力を貸してやってね」

「わかった!」


(うーん、大人って難しい?)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ