39時間目:議会の事
この日は学校の休みの日であった。ティルは朝、新聞を開いた。それを見たノエルが話しかけてきた。
「珍しい、ティルが新聞なんて。どうしたの?」
「えーっと、議会の事、知りたくて」
「議会?急に?」
戸惑うノエル。こちらも休日のグレゴリオがその時ちょうど起きてきて朝の挨拶の後、話に加わった。
「わかるかい?ティル」
「うーん、わかんない」
(わかんないよ。新聞、難しい言葉だらけ!)
グレゴリオもノエルも苦笑いに近い笑みを浮かべた。グレゴリオはひととおり笑った後、こう言った。
「僕が、わかるように説明しようか?」
「お願い!」
(初等部1年生で習う言葉しかわかんないから、無理だった。わかってたけど)
グレゴリオは、ティルの手にあった新聞を自らの手に移し、議会に関する記事を探し始めた。一方、ノエルはわずかに首を傾げた。
「ティル、本当にどうしたの?急に議会の事知りたいだなんて」
「えっと」
(あ、まだ作文で皆の家族の事、発表してない!)
「うんと、ハワードくん、学級委員長が、バソト院って議会の議長さんだって話したの。それで、議会の事、知りたくなったの」
(まだハワードくんとそんな事、話せる仲になってないけど!)
それを受け、グレゴリオは真剣に記事を見回し言った。
「残念。首相の事は書いてるけど、バソト院とかソパルタ院の事は、今日の新聞には書いてないね」
「そうなんだ」
「残念ね?」
ノエルはそう言って台所へと行った。グレゴリオは引き続きティルと話す。
「バソト院の議長か。クロード・フリーダー。確か、僕より少し年上だけど、早くから国の議員になって、その後、歴代最年少でバソト院の議長に選出された人だったような?」
「凄いの?」
「それは、凄い事だよ?」
「へー」
(凄いんだ。ハワードくんのお父さん)
「なんだか、そんな凄い人の息子さんが学級委員長をやってるクラスにティルがいるなんて、信じられないなぁ。それに、そんな学級委員長を助ける学級副委員長にティルがなった事、誇りに思うよ」
「そう?ありがとう、お父さん」
後日。学校にてモニカは印刷物を手に言った。
「皆さん、遠足の日程等が決まりました」
(また、公園で遊ぶのかな?)
その印刷物が児童達に渡る。
(え、違う)
全ての児童に印刷物が渡ったのを確認すると、モニカは説明をし始める。
「国会議事堂の見学と、模擬議会、そうですね、議員さんごっこが出来ます。学級委員長のフリーダーさんのお父さんのご厚意でこの遠足は実現しました。滅多にない機会です。国のお仕事を学んできましょう」
「はーい」
ティルは、他の児童と共にそう返事をした。右斜め前に座るハワードの表情は窺い知れなかったが、一度力強く頷いたのが見えた。
(という事は、ハワードくんのお父さんに会えるんだね)
更に、モニカの遠足の説明は続いた。
「配った資料にも書いてありますが、親御さんに当日は、国会議事堂まで送ってもらう事になります。必ず親御さんにそれを見せてくださいね」
その日、ティルは帰宅すると、遠足に関する印刷物をノエルに手渡した。ノエルはそれに目を通す。
「国会議事堂?凄いわね?」
「うん」
「ああ、でも送って行かなきゃならないのね」
「そうみたい」
「あら、都合がよければ私達も参加していいらしいわ。どうしよう?」
「えっ、そうなの?」
「うん。でも」
ノエルはお腹に手を添えた。
「私は、行けないわね。送る事は出来そうだけど」
「そうだね」
(リノがいるから、お母さん大変)
「グレゴリオは、どうかしら。帰ったら言ってみるわ」
「うん」
その夜、帰宅したグレゴリオに遠足の詳細が伝えられた。
「確か、その日は休みだよ。ティルを送ったついでに見学して行こうかな?」
「私の分まで、見てきて?」
「わかったよ」
「わー!お父さんと遠足だ!!」
(魔熊が来ちゃったあの遠足にもお父さん来たけど、またお父さんと遠足かぁ。うん、いいかも)
更に後日、ティル達に課せられた宿題、家族の作文を発表する日が来た。そこで、ハワードは「いつもの」作文を読み上げる。
「僕の家族。1年3組、ハワード・フリーダー。僕の父は、政治家です。バソト院の議長で、議員達をまとめています。議会が忙しい時は、何日も家に帰りませんが、僕と母は、このレボルテという国が良くなるように父を応援しています」
(作文で何度も聞いたハワードくんのお父さんに、遠足で会えるなんて。なんか初めてだから楽しみになってきた)
そして、ティルもいつもの作文を披露した。
「私の家族。1年3組、ティル・ラーナー。私のお父さんは、警察官です。みんなが安心して暮らせるように、街を守っています。私とお母さんは、そんなお父さんをかっこいいと思っています。私の家族には、もうすぐ弟が産まれます。とっても楽しみです。4人家族になったら、きっと楽しいと思います。今までよりも、もっと仲良く過ごしたいです」
そして、遠足当日。ティルはグレゴリオの瞬間移動にて国会議事堂の前まで来た。集合場所にはモニカ他初等部1年の担任達と学園長のイヴァンがいて、その周りを先に着いていた児童と見学希望の保護者が囲んでいた。ティルとグレゴリオもその輪に入る。
「おはよう!皆!!」
「おはようございます、皆さん、今日はよろしくお願いします」
挨拶を済ますと、ティルは雲ひとつない空を背景に鎮座する威厳の塊のような国会議事堂を目にする。
「うわー!すごーい!!」
すると、ハワードが来た。
「おはよう、学校副委員長」
「あ、おはよう!学校委員長のお父さん、凄い所でお仕事してるんだね!!」
「まあ、そんな所だ」
やがて全員が集まると、学園長のイヴァンが言った。
「初等部1年生の諸君、クラスには慣れてきましたか?今日は、バソト院の議長、クロード・フリーダー先生のご厚意で、皆さんは貴重な体験が出来ます。是非ともクラスの皆と勉強をしてきてください」
「はーい」
ティルは、他の児童達と共に元気に返事をした。それを聞き届けると、イヴァンは先頭に立ち、国会議事堂へと児童達や教諭、保護者を誘導する。ティルは、ハワードと共にモニカの後ろを歩き、1年3組の児童達の前でイヴァンの誘導に従った。チラッと右隣を見ると、ハワードの表情は引き締まっていた。
(なんだか、緊張してきた)




