38時間目:気難しさとの戦い
ティルが学級副委員長になって初めての授業が始まった。図画工作で毎度の如く自作の箒作りが課題であった。
(今日は、早く上手に作っちゃお。ハワードくんに、これ以上不真面目なんて思われたくないもんね)
ティルの箒を作る手際は、クラスの中で抜きん出ていた。
「出来た」
ティルはそう呟くと、周囲を見回した。そして、手を挙げる。急に挙げられたティルの手に、モニカは驚いた。
「どうしましたか?ラーナーさん?」
「箒作り、終わっちゃったんで、遅れてる人の箒作り、手伝っていいですか?」
モニカは、ティルの提案に戸惑うが、一呼吸置き、こう答えた。
「いいでしょう。ラーナーさんに手伝ってもらいたい人、いますか?」
どうしようか迷う児童達。そんな中、エリンが手を挙げた。
「フレンツェルさん。ラーナーさん、フレンツェルさんを手伝ってあげてください」
「はい」
ハワードは、自らの箒作りが終わらない中、エリンの席に移動するティルを目で追いかけた。
「エリンちゃん。エリンちゃんの手伝い出来て嬉しい!」
「うん!お願いね!!」
そうして、エリンの箒はいい出来栄えの物となった。
「ティルちゃん、ありがとう!」
「ううん、いいの!」
「あ、学級副委員長って言う?」
「えっ?そんないいよぉ、エリンちゃん。名前で呼んで?」
そんなやり取りの中、教室に咳払いの音が。ハワードの物だった。
「学級副委員長、授業中だ。私語は慎むように!」
「あ、学級委員長、ごめんなさい」
モニカは、ティルとハワードを交互に見た後、こう言った。
「確かに、フリーダーさんの言う通りです、ラーナーさん。でも、お友達を助ける姿勢、いいですよ」
ティルとハワードの「ありがとうございます」という声が揃う。ハワードは、揃ってしまった声に居心地悪そうな様子になった。ティルは、苦笑いに近い笑顔を浮かべ、自らの席に戻った。間もなく、その授業も終わった。
(うーん、一応ハワードくんに、謝っておこうかな?)
すると、ラインハルトがティルに話しかけてきた。
「学級副委員長、君の優しさ、感動したよ」
「マラブルさん、ありがとう。でも、おしゃべりしちゃった」
ティルは、舌をわずかに出して言った。すると、ハワードが来る。
「あの私語さえなければ、評価したと言うのに」
「あはは!まだまだだね!!」
「笑い事ではない」
「うん、わかってる。ごめんなさい!学級委員長!!」
「わかればいい」
その後の国語の授業にて、児童達は箒を収納する呪文をモニカより教えられ、箒を杖にしまった。
翌日の3時間目の授業は体育。ティル達は、第三校庭へと繰り出していた。そこでは、箒に乗る授業が行われていた。箒を魔法の杖から出す呪文「ウ、エッセア、エーレエ。箒」や、箒で校庭を飛ぶ呪文「ヴオ、エレア、エーレエ。校庭の中」を児童たちはモニカより教えられる。ティルは飛んだ後、こう声を上げる。
「わー!皆と飛べた!!」
眼下には、モニカが張った落下防止の網。ティルは、その上で自由自在に箒を操り、クラスメイトの合間を縫うように飛んでいく。児童の中には、ティルに「凄い!」と声をかける者もいた。それにティルは返す。
「ありがとう!」
そんな中、フェリシアが飛行に苦戦している様子がティルの目に映った。
(フェリシアちゃん、上手く飛べてないなぁ)
その瞬間、フェリシアは物凄い速度で落ちて行く。
「きゃー!!」
「危ない!フェリシアちゃん!!」
落下防止の網を突き抜けそうな勢いで落ちて行くフェリシアの手を、ティルは取り、上空に復帰させた。一方、フェリシアの異変に上空へと急遽飛んで来たモニカは胸を撫で下ろした。
「メンデスさん、無事でよかったです。ラーナーさん、よく助けましたね?」
フェリシアは震える声で言った。
「こ、こわかった」
「もう、大丈夫!メンデスさん!!」
「うん」
そんな光景を、遠目で見る事しか出来なかったハワードはほっとした様子であったが、同時に悔しそうな顔も見せた。
やがて、その時間の授業が終わる。モニカは言った。
「少し危ない場面がありましたね。メンデスさん、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
「よかったです」
そんなやり取りが終わった後、めいめい児童達は教室へと戻って行く。ティルもそんな児童達に混じり、歩を進めるが、何者かに左手を引かれた。
「ふえっ?」
「学級副委員長」
「あ、学級委員長」
ハワードであった。
「少し、優秀なようだが、他人に手を貸すのも考えようだ」
「え。でも、メンデスさんは、あの時ああするしかなかったと思うけど」
「確かにな。だが、学級副委員長まで怪我をしてしまう事も考えなかったのか?」
「えっ。考えてなかった」
ハワードはため息をついた。
「そこが足りないな。学級副委員長」
「なんか、ごめんなさい」
「まあ、今回は、メンデスさんも学級副委員長も無事だったからよしとするか」
そう言ってハワードはティルの次の言葉を待たずに教室へと向かって行った。
「僕が、ああいう役回りをしなければならなかったのにな」
というハワードの呟きがティルには聞こえた気がした。
「ハワードくん」
それから、ティルは下校して行くが、いつもの如くお腹がギュルギュル鳴る。
「わー、いつもより酷い。お腹、凄く空いてる」
フェリシアを助けようと全力を出した為、体力がいつもより削られてしまっていた。
(うー、駄目)
自宅に着いたティルは、玄関先で足を止める。お腹の音を聞きながら、息をひとつつく。
(あー、よかった。あの美味しくない実、ない。今だったら食べるの我慢出来なかったかも。美味しくないってわかってるけど)
そして、家に入ると、一直線に台所へ。
(ごめん!お母さん、お菓子内緒で食べさせて!!)
焼き菓子の入った缶を空け、ひとつ、ふたつ焼き菓子を頬張った。
(うー、美味しい)
甘く香ばしい刺激にほっと息をついたティルだったが、後ろからノエルの声がかけられた。
「何?ティル。『ただいま』も言わずにお菓子食べて!」
「う、ごめん!ただいま、お母さん。でも、お腹空いてて!」
「そうなの。だけど、ティル、学級副委員長になったんでしょ?ちゃんとしなきゃ」
「うー、そうだね」
ティルは頭を軽く下げた。そんなティルのお腹は、わずかに満たされていた。




