4時間目:お腹すいた
翌日の3時間目の授業は体育。ティル達1年3組の児童は、えんじ色をベースとした体操服に着替え第三校庭へと繰り出していた。同じく体操服に着替えたモニカがこう言う。
「さて、昨日杖にしまった箒を出す呪文を教えます」
すると、1人の男子児童が得意気にこう言った。
「父さんとかが言ってた!『エッセチオ、ピア』って!!」
そんな隣の男子児童をティルは見つめたが、すぐにモニカの方を見た。そのモニカはこう返した。
「よく知ってますね!でも、今日教える呪文は違います。説明しましょう。昨日の授業でも言いましたが、大人になっていくと、箒を使う時に魔法で作って使います。それは、その時の呪文です。でも、皆さんには、まだその為に使える力はありません。なので、昨日箒を作って、杖にしまってもらったんです」
男子児童は、恥ずかしそうな顔でうつむいた。ティルはその男子児童に小声で声をかけた。
「ハズレちゃったね?でも、呪文完璧じゃん!」
男子児童は、はにかんだ顔をティルに見せた。そんな光景を見ながらモニカは言った。
「改めて呪文を言いますよ。『ウ、エッセア、エーレエ。箒』です。はい!皆さんも唱えてみましょう」
ティルは、一発でこう唱えられた。
「ウ、エッセア、エーレエ。箒」
しかし、他の児童達は、言い慣れない呪文に苦戦する。それを感じたモニカは、こう言った。
「ゆっくりでいいですよ!」
モニカは、自らの手本もゆっくり唱え始める。すると、ティルが呪文を完璧に唱える中、児童達は呪文を唱え慣れてきた。モニカは手をパンパン鳴らして言った。
「その調子なら、大丈夫ですね!杖を持って唱えましょう!」
そして、児童達は杖を持ち、「ウ、エッセア、エーレエ。箒」と唱える。すると、箒が光の糸に包まれ出現。児童達は、箒を手にした。
「よくできました!これから、箒に乗って、飛んでみましょう!」
そのモニカの言葉に、児童達は「わーい」と口々に喜んだ。
「では、箒に跨って『ヴオ、エレア、エーレエ。校庭の中』と唱えてみてください」
そして、児童達は呪文の練習の後、低空飛行ではあるが、実際に飛んだ。そして、飛べた事への歓声を上げる。それは、ティルも例外ではない。
「わーい!皆と飛べた!!」
一方、モニカは全ての児童が飛んだ事を確認すると、万が一児童が落下した場合に備え、こんな呪文を小声で唱えた。
「エーレエ、ティエ。校庭に広がれ」
すると、網が校庭全体を覆った。その様は、トランポリンのようだった。空からその光景を見てティルは呟いた。
「いいなぁ、オリーン先生は、魔法いっぱい使えて」
それからしばらくモニカを見つめていたティルは、気持ちを切り替え、飛ぶ事に専念。そんな中、終始優雅に空を飛んでいたティルにフェリシアがよろよろと近づいてきた。
「ティルちゃん、凄い!」
「えっ?そう?」
そこに、エリンが。
「空飛ぶの、上手だったんだね!ティルちゃん!!」
「そうかな?」
その問いは、エリンに届かない。なぜならエリンは、うまくティルの元に留まる事が出来ずに、通り過ぎ、遠くに行ってしまったのだ。
「あっ!エリンちゃん!」
ティルはそんな叫びを上げた。一方、ティルの横にいた筈のフェリシアは、いつの間にかいなくなっていた。
「あ、あれ?フェリシアちゃんは?」
フェリシアは、他の数人の児童と共に落ちてしまっていた。モニカの用意した網で事なきを得ている様子だったが、トランポリンが如く跳ねる網が楽しくなり、他の児童と共に遊び始めた。そんな光景を眼下にティルは呟く。
「わ、私も遊んじゃおうかな?」
そして、ふわりと網へと落ちていったティル。フェリシアの隣に行き、ポンポンと飛び跳ね始める。
「楽しいね!ティルちゃん!」
「うん!楽しい!!」
しかし、授業は遊びではない。モニカが遊んでいる事に気づき、手をパンパン鳴らす。
「その網は、遊びの道具ではありません!」
ハワードは、学級委員長として注意しなければと網の方向に行こうとするが、うまく空から降りることが出来なかった。一方、ラインハルトは、上空で微笑みながらその様子を見ていた。
そんな体育の授業も終わり、この日の日程は終了。前日と同じく慣らし授業のため、ティル達は体操服から制服に着替えると、下校して行く。
「ティルちゃん!」
「ティルちゃん!」
同時にエリンとフェリシアに声をかけられたティル。ティルは2人に尋ねた。
「今日も一緒に帰る?」
2人共、「うん!」と答え、3人での下校となった。3人は、動く歩道に乗りながらレンガ造りの街並みをその目に映した。そんな中、エリンは尋ねた。
「あの網、楽しかった?」
フェリシアは、控えめに頷いた。ティルは興奮気味に言った。
「また遊びたい!でも、先生に怒られちゃうね?」
3人で笑い合った。やがて、エリン、フェリシアの順で家に帰って行った。一番遠くに家があるティルは、ようやく家に繋がる道に着く。動く歩道を降り、歩き始める。ティルは、思わず呟いた。
「うー、お腹すいた」
ギュルギュル鳴るお腹に苦笑いしつつ、ティルは家にたどり着いた。
「ただいま!お母さん!お腹すいた!!」
「もうすぐお昼にするから、待っててね」
「お菓子食べたい」
「ごめんね?待ってて」
ティルはお腹をさすり、口を尖らせた。すると、ノエルは尋ねる。
「今日、魔法いっぱい使った?」
「うん、体育で飛んだ」
「あらー、それはお腹空いちゃうわね」
そのノエルの言葉を遮るように、再びティルのお腹がギュルギュル鳴った。ノエルは一瞬動きを止めたが、気を取り直し、こう言った。
「急いで作るわ。簡単なのでいい?」
「うん!!」
そして、ノエルが魔法で作った麺料理でティルはお腹を満たした。
「卵絡め麺、美味しかった!」
「よかったわね。あ、そうだ。そろそろ1日授業が始まるけど、給食楽しみにしてて?お母さんの料理より美味しい給食、食べられるわよ」
「本当?でも、お母さんの料理がいい!」
「そう?ありがとう。ティル」
その後、慣らし授業の1週間が終わり、本格的な授業が始まった。ティルはこの日の昼、学園の食堂にエリンとフェリシアと一緒に行った。そこで、並べられている料理達を目の前にした。エリンは興奮気味に言った。
「わあー!美味しそう!!」
フェリシアは、目を輝かせながら呟いた。
「どれを食べよう?」
それにティルは返した。
「迷うよね!」
そして、ティル達は料理等を取り分ける。同じテーブルでティル、エリン、フェリシアは何度も「美味しい!」と言いながら笑顔で昼食を済ませた。
5月に入る。ティルは、およそ2週間後に迫った遠足に胸を躍らせていた。休み時間、ラインハルトがニコニコして話しかけてきた。
「遠足が楽しみかい?」
「え?わかる?」
「とてもいい顔してるよ?君」
「楽しみだよ!」
そんな2人の横を、ハワードが通りすがる。そこでピシャリとこう言った。
「遠足が楽しみなのはわかる。しかし、勉強を投げ出さないように」
「はーい」
「そこまで厳しくする事はないんじゃないかい?」
「文句があるのなら、学級委員長をやるか?」
ハワードとラインハルトは睨み合う。ティルは、2人の間に割って入った。
「こ、こんな所で喧嘩は嫌だよ!」
ハワードは返した。
「学級委員長たるもの、喧嘩などしない」
ラインハルトは返した。
「喧嘩なんて馬鹿のする事だよ。僕は馬鹿じゃないからね」
ティルは引きつった笑顔を浮かべた。
「なら、いいけど」
そして、次の授業が始まる。更に時は過ぎ、帰りの時間となった。モニカが言う。
「今日は、宿題を出します。皆さんの家族についての作文を書いてきてください」
ティルは、ため息をついた。
「作文、どう書こう?」
その後、頭を悩ませながらティルは帰宅した。




