3時間目:授業と同級生
ティルの授業初日は、2時間目になった。教科は、図画工作。モニカは言う。
「今から、乗り物になる箒を作りましょう!」
児童達は、「はーい」と声を揃えた。ティルは呟く。
「うーんと、どう作る?」
モニカは、自身の魔法で児童の机の上に材料を出した。
「では、手順を見せますね。これから、皆さんが成長し、魔法を学んでいくにつれ、魔法で箒を作る事が出来るようになっていきますが、まだ皆さんはその段階にありません。なので、手作りの箒で空を飛んでみましょう。上手に作れなくても構いません。皆さんが乗れる大きさの箒の形になっていればいいです」
勿論、モニカの教卓にも箒の材料がある。モニカはそれを用いながら実践して見せる。また、同時進行で何色かのチョークを操り、手順を黒板に書いていく。それを見ずに、ティルは黙々と箒を作っていった。
「出来た」
ティルはクラスで一番早く箒を完成させた。周りの同級生はその早さに驚いた。モニカもそれに気づき、声を上げた。
「ティル・ラーナーさんは、凄いですね。早いし、上手です」
そんなモニカの声に、同級生達が注目した。ティルは、そんな同級生達を見回した後、箒を膝の上に隠した。
「あっ、えっと、えへへ。ありがとう」
ティルは、そう言いつつ軽く頭を下げた。その様子を、ハワードが鋭い視線で見ていた。ティルは、その視線に気づき、ピクッと体を震わせた。そうしていると、同級生達は、次々に自分の作業に戻る。ティルは、そんな同級生の箒作りを見守り続けた。そんな2時間目が終わりに近づいてきた頃、モニカは言った。
「皆さん、箒、出来上がりましたね。その箒は一旦自分の席に立てかけておいてください。次の時間で、杖に入れる呪文を教えます」
児童達は、「はーい」と答えた。すると、2時間目が終わった事を知らせる鐘の音が鳴った。モニカは、授業を終了させると、一旦職員室へと瞬間移動して行った。それを見届けた後、ハワードがティルに近づいてきた。
「ラーナーさん?箒は上手に作れたな?」
「あ、う、うん。学級委員長」
「でも、昨日の学園長先生のお話の時は、あくびをしてたよな?何でも出来るからつまらなかったのか?学園長先生のお話は、真面目に聞くべきだ」
「ごめん、ごめんなさい」
ティルは、縮こまり、わずかに頭を下げた。そこに、他の男子児童が近づき、話しかけてきた。
「学級委員長、いい指導だね。たけど、ご婦人をそう責めるのはかわいそうだと、僕は思うよ。ねえ、君、ラーナーさん?これから真面目にやるかい?」
「う、うん。ラインハルト、いや、マラブルさん」
ラインハルトは、にっこりした。そして、ハワードに言う。
「という事だ。学級委員長、行こう」
ハワードは、ティルに鋭い視線を向けながら、ラインハルトと共に立ち去った。それを見送るティル。そんなティルの目には駆け寄ってくる女子児童の姿が映った。
「大丈夫?ティルちゃん?」
「うん、大丈夫。エリンちゃん、ありがとう」
「よかった」
ティルの多少強張った顔が緩んだ。そして、こう言葉を続けた。
「エリンちゃんがいてくれて、よかったよ。すぐにこうやって話が出来る。同じクラスになれてよかった!」
「幼稚園では、別のクラスだったからね?私達。そう言ってもらえて私、嬉しいよ、ティルちゃん」
「私も嬉しい!エリンちゃん!よろしくね?」
ティルはエリンに軽く抱きついた。すると、近くに座っていた女子児童がおずおずと声をかけてきた。
「ふ、2人仲がいいですね。と、友達になって欲しいなぁ。いいですか?」
ティルはぱっと明るい顔をし、こう即答した。
「いいよ!ね!エリンちゃん、いいよね?」
「うん!よろしくね?メンデスさん!」
「あ、ありがとうございます」
「そんな、丁寧な言葉じゃなくていいよ!ね!エリンちゃん!」
「そうだよ!メンデスさん!あ、えっと、フェリシアちゃんって呼んでいい?」
「う、うん」
「わー!ティルちゃんとフェリシアちゃんと私、3人で友達だね!!」
「よろしくね!フェリシアちゃん!!」
「うん!ティルちゃん!エリンちゃん!」
そして、休み時間が終わる鐘の音が鳴り響く。この日の3時間目が始まった。モニカが瞬間移動にて教壇に現れる。
「さあ、国語の授業を始めますよ」
そして、モニカは早速黒板にチョークを操りながらとある呪文を書いた。
「皆さん、これは杖から教科書を出す呪文です。練習しましょう。最初は、杖を持たずに音読してください。私も唱えますので、ついて来てください。せーの、『エレイ、ビエーレオ。ティエ、エッセティオ。国語』」
ティルは、それについて行く。
「エレイ、ビエーレオ。ティエ、エッセティオ。国語」
他の児童達も呪文を唱え始める。はじめはたどたどしい発音であったが、次第に様になっていく。それを認めたモニカは、こう声をかけた。
「皆さん、呪文は大丈夫のようですね。では、早速使ってみましょう。皆さん、杖を持って唱えてみてください」
ティルも、他の児童達も机上の杖を次々に握る。そして、モニカの手本と共に呪文を唱えた。
「エレイ、ビエーレオ。ティエ、エッセティオ。国語」
すると、杖から紙が沢山出てくる。それが本の形を成し、教科書となった。初めて教科書を杖から取り出せた児童達の興奮が教室を包んだ。
「よくできました!」
モニカの評価の声が教室の後部まで響く。児童達は徐々に興奮が冷め、静かになっていった。モニカは、それを認めると授業を始めた。
そして、そんな3時間目も終わりに近づいてくる。モニカはこんな一言を児童にかけた。
「この国語の時間では、呪文がなめらかに言えるように練習をする時間を作ります。今日は、2時間目でも言った箒を杖にしまう呪文も練習します。少し、長いので、頑張って先生についてきてくださいね」
「はい」
ティルは他の児童と共にそう返した。それを聞き届けると、モニカは指導を始める。
「まずは、先程のように、杖を持たないで練習しましょう。『チオエンネ、エッセエエーレ、ヴア、エーレエ。箒』」
ティル他児童の「チオエンネ、エッセエエーレ、ヴア、エーレエ。箒」というゆっくりした声が1年3組の教室に響き渡る。何度も繰り返されたそれはやがて、声が揃う。モニカは手をパンパン鳴らし、言った。
「はい!皆さん、出来そうですね!杖を持ってください!!」
それぞれの杖が、児童達の手に。モニカはそれを確認すると、言葉を続けた。
「杖を自分で作った箒に向けて唱えましょう!『チオエンネ、エッセエエーレ、ヴア、エーレエ。箒』」
児童達もそれを唱えた。すると、杖の先から糸のように光が現れ、箒を包む。そして、箒はみるみる小さくなり、見えなくなった。更に、光の糸が杖に戻り、完全に箒は杖の中に収納された。
「皆さん、よくできました!しまった箒の出し方は、明日の体育の時間に教えます。そして、箒での飛び方も練習しましょうね。今日は2つの呪文を教えました。お家でも杖を持たないで練習して来てください」
そのモニカの一言と共に、3時間目の授業の終わりを知らせる鐘が鳴った。
「では!今日の授業はここまでです!皆さん、さようなら!気をつけて帰ってくださいね!!」
モニカは児童にそう声をかけた。1年生は、慣らし授業の為に1週間程半日で下校の時間となる。ティルは、杖を鞄にしまい、教室を出た。すると、後ろからエリンが声をかけてきた。
「ティルちゃん、途中まで一緒に帰ろ?」
「うん!あ、フェリシアちゃんも誘う?」
「そうだね!」
ティルは、フェリシアの所へ行く。
「ね!フェリシアちゃん、私とエリンちゃんで一緒に帰らない?」
「いいの?」
「うん!」
「じゃあ、帰る!!」
「行こ?」
そして、ティル、エリン、フェリシアは、校門を出て、ある程度歩いた後、動く歩道に乗った。ティルは、道中こう言った。
「ね!ね!明日からも3人で帰ろうか?」
「いいね!ティルちゃん!フェリシアちゃんは?」
「うん!2人と帰りたい!!」
「じゃあ、決まり!!」
3人での帰宅の約束を交わした後、ティル達は、それぞれの家に帰って行った。




