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2時間目:ただいま!いってきます!

ティルの父親の箒は、目にも止まらぬ速さで自宅を目指す。ティルは、両親に挟まれながら目下に広がる街並みを見下ろした。レンガ造りの家々が目立つその光景に、ティルは呟く。


「いつ見ても綺麗っ!」


 それから間もなく、山吹色が鮮やかな家が見えるようになった。それは、ティル達親子の自宅だ。父親は、ティルの後ろからこう声をかける。


「もうすぐ降りるから、しっかり掴まってるんだよ?」

「うん!お父さん!!」


 ティルは父親の左腕の強く優しい支えを感じながら、前にいる母親の服を掴む両手の力を少々強めた。緩やかに減速する箒は、山吹色の家の真上で完全に停止。すると、ふわりふわり降下し、自宅前に降り立った。ティルは、両親と共に箒から降り、改めて自宅を見る。自宅は、薄いガラスのような傘で覆われていて、それにぶつかる鳥が数羽いた。母親は言う。


「今、鍵を開けるからね」

「うん!」


 ティルがそう返事をすると、母親は呪文を唱える。


「チアッカイア、ヴエ。解除」


 それに応えた傘は割れ消滅した。ティルは、玄関ドアの前へと駆け出す。すると、ドアはひとりでに開く。


「ただいま!」


 ティルは、自宅に入るなり元気な声を家中に響かせた。両親は、ティルを追うように家の中に入りながら声を揃えて「おかえり」と言った。


「杖、杖、杖!」


 ティルは、鞄の中から入学式でもらった魔法の杖を取り出す。そして、何度も何度も小さな手で撫でたり振ったりした。両親は、その様子を微笑ましく見守る。そして、2人は目を合わせ、笑顔を交わした。その後、父親がティルに声をかける。


「杖、失くしたら大変だから、鞄にしまいなさい」

「うーん、わかった!」


 ティルは、少々名残惜しそうに杖を鞄にしまった。それを見届けた母親が言う。


「一応だけど、その杖はおもちゃじゃないからね?」

「うん!わかった!!」


 ティルの素直な返事に、両親は再び目を合わせ、一度頷いた後、2人でティルの頭を交代で撫でた。


「お父さんの言う事きいて、偉い!ティル」

「お母さんの言葉、忘れないようにな?ティル」


 両親からもたらされる心地よい振動にティルはニコニコし、元気に頷いた。


「鞄、部屋に置いてくる!」


 ティルは、そう言いながら2階の自室へと向かって行った。そして、部屋に入るなり鞄を床に置くが、再び杖を取り出す。


「教科書、出しちゃおうかな?」


 しばらく杖を見つめていたが、ティルはやがて首を振る。


「ううん、やめよ」


 そして、本格的に杖は鞄の中に収納された。その後、ティルは制服から部屋着に着替えた。魔法ローブと魔法帽、黒のジャケット、白のブラウス、リボンとタータンチェックのスカートは、赤色。そんな制服達は床に次々に落とされていく。代わりに柔らかな素材の淡いピンクと紫の縞模様の部屋着は拾われ、ティルを包む。


「お昼ご飯!お昼ご飯!!」


 それからティルは、部屋から出て両親の元に戻って行った。母親は台所で魔法を用いながらの昼食作りに入っていた。父親は仕事着に着替え、首輪を見つめていた。明らかに女性用の首輪だが、父親はそれを両手で大事そうに持ち、話しかけた。


「ああ、母さん、今日ティルは魔法学校に無事に入学したよ。天国から見てくれていたかな?」

「おばあちゃん!私、1年生!!」


 ティルは、父親に駆け寄りぴょんぴょん飛んだ。


 やがて、昼食が食卓に並ぶ。ティルは明るい声を上げる。


「あ!煮込みご飯だ!!」


 母親は微笑む。


「さ、食べましょ」


 父親は首輪を着衣の中にしまい、昼食を摂り始めた。ティルと母親もそれを追うように煮込みご飯を口に運んだ。なめらかな刺激が、ティルの舌を喜ばせる。そして、ティルはこんな声を漏らした。


「んー!おいしー!!」


 そんなティルを見ながら、父親は言った。


「メビラ学園の、入学式か。僕は29年前だったなぁ。ノエルは、何年前だった?」

「私は、25年前よ、グレゴリオ」

「そうだったね」


 その両親の会話に、ティルの咀嚼が一瞬止まる。しかし、すぐにティルはもぐもぐと口を動かす。そして、煮込みご飯をのどにくぐらせた後、こう言った。


「私、お父さんとお母さんと一緒の学校に通えて嬉しい!」


 グレゴリオとノエルは目を見合わせ、笑顔を交換し合った。


 やがて昼食が終わる。グレゴリオは、多少の食休みの後、仕事へと向かって行った。見送ったティルは、呟いた。


「お父さんの制服、いつ見てもかっこいい」


 ノエルも夫の姿に見とれていたようだった。ほんのり頬を染めながらこう返した。


「そうね?ティル」


 翌日、ティルは初登校の朝を迎えていた。ティルのきっちり着た制服姿を改めてノエルは見て目を細めた。


「ティル、かわいい」

「ありがとう!お母さん!!」


 ノエルはティルの頭をひと撫でした後、こう声をかけた。


「じゃあ、いってらっしゃい」

「うん!いってきます!!」

「気をつけてね!」


 ティルは全力で手を振り、ノエルの言葉に応えた後、しっかり前を向いて学校へと向かって行った。


 肩にかけてある魔法の杖と筆入れが入った鞄を揺らしながら歩くティル。空を見上げれば、箒に乗って思い思いの場所を目指す人々。ティルは呟いた。


「早く、箒に乗って登校したいな。それか、瞬間移動」


 大通りに出たティル。すると、動く歩道が目の前に。幅の広い石畳が右から左、左から右へ二方向に動くその歩道をティルは見つめる。そして、言った。


「左に行くよ。乗せて」


 すると、ティルの体はふわりと浮き、右から左に動いていた石畳の方に降り立った。それから、ティルは駆け足より少々早めに動く歩道から風景を見ながら歩くことなく学校近くまで移動した。20分程度景色を楽しむとティルはこう言った。


「右の道に行くよ。降ろして」


 再びティルの体はふわりと浮き、右側にある学校へと繋がる脇道に降り立った。そこからティルは歩きはじめる。


 間もなく、ティルは学校の校門をくぐる。その横で一部の上級生が箒から降りたり、突然姿を現した。ティルは同じく歩きで登校してきた児童生徒達に挨拶をする。


「おはよう!おはようございます!」


 それに、皆挨拶を返してくれた。そして、ティルは1年3組の教室に入って行った。そこでも挨拶を交わし、自らの席に着く。


 やがて、授業が始まった。最初の授業は、学級活動。担任のモニカがこう言った。


「まずは、皆さんの自己紹介の時間にしましょう」


 その一言から登録番号順に簡単な自己紹介が始まった。1人の女子児童が自己紹介する。


「私は、エリン・フレンツェル。よろしくお願いします!」


 また、1人の男子児童も自己紹介。


「僕は、ラインハルト・マラブルです。よろしくね」


 それ以降も、全員の自己紹介が続く。そして、ティルの番が来た。


「私は、ティル・ラーナー。えっと、えっと、よろしくお願いします!」


 ティルの自己紹介にモニカと同級生は拍手。勿論、ティルも他の同級生の自己紹介に拍手をした。自己紹介の時間が終わると、モニカは言った。


「次に、学級委員を決めます。学級委員長になりたい人、手を挙げてください」


 すると、1人の男子児童が手を挙げた。入学式の時に、ティルの右隣に座っていた男子児童であった。モニカは言った。


「ハワード・フリーダーさんが学級委員長でいいですか?」


 児童の拍手がそれを承認する。そして、学級副委員長、書記、会計と、次々に学級委員が決まっていく。全ての学級委員が決まると、モニカはこう声をかけた。


「さあ、改めて学級委員の皆さん、自己紹介をしてください」

「学級委員長になった、ハワード・フリーダーです。よろしくお願いします」


 それに倣い、他の学級委員も挨拶をする。その度にティルは拍手を贈った。こうして、ティルはメビラ学園初等部1年3組の児童として本格的に学習を始めたのだった。



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