1時間目:入学式
(私、ティル!ティル・ラーナー!!メビラ学園初等部1年生!ちょっと悩みがあるんだけど、言うのは1年後にしようかな?今日は楽しい入学式!ここで沢山勉強を教えてもらうんだ!)
この女子児童、ティル・ラーナー6歳は、学び舎の講堂にて新入生の席についていた。揃いの濃い紫色の魔法帽、黒色の魔法ローブという出で立ちの児童達は、170名程度。児童達は皆、後ろを向きキョロキョロしている。その先の保護者席にいる親を探しているのだ。ティルもそれを真似し、自らの親を探す。一方、親達も自らの子供の晴れ姿を探し、目が合うと、親子共々手を振り合う。
「お父さん、お母さん」
ティルも両親を見つけ、呟く。両親の柔らかな表情を見てティルは、元気に手を振った。それを見つけた両親も手を振り返す。ティルはニッと笑い、講堂の前方にある舞台の方へと向き直った。それと同時に前方左に年頃は40代といったところの男性教諭が立った。この入学式の式進行を担当する教諭だ。その男性教諭は小さな声で呪文を唱える。
「アエンメ、ピエレイ、エッフェイ、チア。ヴオ、チイ」
すると、式進行の男性教諭の声が、講堂内に響き渡る大きな声に変わる。
「只今より、エスパランタ1535年度、メビラ学園の入学式を執り行います。はじめに、国歌斉唱。一同ご起立の上、ご斉唱ください」
舞台の左手にあるピアノがひとりでに伴奏をはじめる。教諭や保護者達はそれに合わせ国歌を歌い出す。新入生である児童達は、国歌を歌える者は少なく、あやふやなメロディーを口ずさむ。そんな中、ティルは国歌を完璧に歌う。
「調和の名の山並みに囲まれし我が国よ、豊かな魔法に包まれ輝け。照らせ光よ、愛しレボルテの行く末を」
国歌が最終盤に差し掛かった頃、一斉に人々は伴奏と共にこう唱える。
「ビアエンネ、ディイ、エエーレア。エンネア、ゼータイオ、エンネア、エレエ」
すると、舞台後方に大きな国旗が現れ、無風の中はためき始める。引き続き国歌は続く。
「いずれ世界の光となりしレボルテよ、永遠に」
国歌は終わった。静まり返る講堂内。式進行の男性教諭はそんな中、こう言った。
「ご着席ください。次に、学園長挨拶に移ります。当学園、学園長イヴァン・オーケン」
茶色のスーツに身を包んだ50代半ばの男性、イヴァンは、講堂前部の舞台に登壇し、小声で拡声魔法の呪文を唱える。
「アエンメ、ピエレイ、エッフェイ、チア。ヴオ、チイ」
講堂の後ろまで声が届くようになったイヴァンは、挨拶を始めた。
「春の花が咲き誇り始めたこの良き日に、メビラ学園に入学の皆さん、ご入学おめでとうございます。これから初等部、中等部、高等部と12年間、魔法をはじめ、この学校で世の中の事を学んでください」
そんな話から学園長挨拶は始まった。そんな挨拶も半ばに差し掛かった頃だった。
「ふ、ふあぁ」
ティルの小さなあくびであった。右隣に座っている男子児童が、その気配に気づき眉をひそめる。ティルは、なおも出そうになるあくびを止める為、右手で口を押さえた。きつく閉じたティルの両目からはわずかな涙。そうしている間にも学園長挨拶は続いた。
「メビラ学園学園長、イヴァン・オーケン」
そう締めくくられた挨拶にかかった時間はおおよそ5分。イヴァンは降壇して行った。
それから、来賓の紹介と挨拶等を経て新入生の点呼の時間となった。担任となる教諭が代わる代わる講堂の右前方に立ち、拡声魔法を用いながら児童の名前を1人1人呼んでいく。3番目に立ったのは、年頃は50手前といったところの女性教諭であった。
「エスパランタ1535年度、メビラ学園に入学を認められ、1年3組にて学ぶ者」
そして、その女性教諭は、登録番号順に児童の名前を呼んでいく。
「ティル・ラーナー」
「はい!!」
ティルは、大きな声でそれに返事した。
やがて式は最後となる。式進行の男性教諭がこう言った。
「最後に、児童の全員に魔法の杖を授与し、エスパランタ1535年度、メビラ学園の入学式を閉じます」
そして、再びイヴァンが登壇し、こう唱えた。
「チオエンネ、エッフェエ、エーレイ、エーレエ。新たな学びの者たちに、魔法の杖を与えん!」
すると、舞台全体が光に包まれ、その光はキラキラと拡散されていく。その光一粒一粒が小さな茶色の魔法の杖を形作り、児童一人一人に降ってくる。勿論、ティルの手元にもそれは届く。ティルは右手を高く挙げ、魔法の杖をしっかり受け取った。そして、小さな声で杖に話しかけた。
「これから、よろしくね?」
それに応えたように、魔法の杖はキラッと光り輝いた。他の児童も、魔法の杖に笑顔になったり、興奮する様子を見せたりした。一方、保護者は、無事自らの子供達が魔法の杖を受け取れた事に歓喜し、惜しみない拍手を贈った。
そうして、入学式は終わった。担任の誘導により、講堂を後にする児童達。ティルは、出口付近でちらっと講堂内を振り返った。一瞬口を尖らせるが、すぐに他の児童達と共に講堂を後にしたティル。そして、呟いた。
「入学式、終わった」
一方、保護者も後に続くように講堂を去り、教室へと移動して行った。
場所は変わって初等部1年3組の教室。教室後方に保護者達がひしめき合う中、児童達は木目鮮やかな机を前に、着席していた。そして、教室前方の教壇に担任の女性教諭が立ち、ここでの第一声を上げた。
「今日から皆さんの担任になります、モニカ・オリーンです。よろしくお願いします!」
保護者達の拍手が起こる。それにつられるようにティルをはじめ、他の児童達も拍手した。ティルはここでも呟いた。
「オリーン先生」
モニカは、拍手が収まると言った。
「式で渡された魔法の杖には、教科書が入っています。大事にしてくださいね」
児童達は、改めてその杖を見る。そして、児童達のこんな声が揃った。
「はーい!!」
しばらくすると、鐘の音が教室に響いた。モニカは言う。
「さあ、校門での写真撮影の時間になりました!皆さん、移動しましょう!鞄と杖を持ってください」
モニカの誘導にて、ティル達は、校門へ。白く重厚な校門前にティル達1年3組の児童達と保護者は整列。その輪にモニカは入り、こう唱える。
「エッフェオ、ティオ、ジエーレア、エッフェイア」
すると、写真機が出現。浮遊する写真機は閃光を放ち、1年3組の児童達を撮影した。すぐに写真機から人数分の極々小さな写真の玉が飛び出す。ポコポコと出てきたそれをティルは受け取る。その写真の玉を撫でたティルは笑っていた。
「皆の写真だ」
それと時を同じくして、モニカは児童や保護者に声をかけた。
「それでは、本日の日程はこれで終わりです。気をつけて下校してください!」
「はい!」
ティルは、他の児童や保護者と共にそう返した。すると、両親が隣に来た。母親はこう声をかける。
「入学おめでとう!ティル!!」
「うん、ありがとう!お母さん!!」
父親も微笑みながらこう言った。
「家族だけの写真撮影もしていこうか?」
「そうだね!お父さん!!」
そして、父親は唱える。
「エッフェオ、ティオ、ジエーレア、エッフェイア!」
父親の出した写真機がティル達親子を撮影する。ティルの手元にある写真の玉が2つに増えた。ティルはその2つの写真の玉を交互に見る。
「えっと、こっちが皆との。こっちがお父さんとお母さんとのだね」
最初に集合写真を収めた写真の玉を振る。すると、手元の空間に先ほどの光景が小さく立体映像として現れた。
「ふふっ、よく撮れてる!」
そう言ったティルは、今度は家族写真の方の写真の玉を振り、立体映像を映す。そこには、ティル本人ときっちりスーツを着こなした父親、新たな命のために少々お腹がふっくらしている母親が鮮明に映っていた。父親がそれを見ながら言う。
「さ、帰るよ!ティル!!」
「そうだね!お父さん!!」
ティルは、写真の玉2つを再び振る。すると、立体映像が消えた。それを見届けた母親は笑顔で尋ねてきた。
「何で帰る?ティル?」
「うんと、箒!」
その返答に父親は心配の声を上げる。
「大丈夫かい?」
母親は、自らのお腹に軽く手を添えながら、柔らかく頷いた。それを受け、父親は言葉を続ける。
「じゃあ、3人で箒に乗って帰ろう!ティル!!」
「3人じゃないよ!4人!!」
ティルは、母親のお腹に手を添えた。母親はそんなティルを見下ろし、微笑んだ。父親も微笑みながら頷き、こう唱えた。
「エッセチオ、ピア!大きく出現せよ!!」
父親の手には、長く大きな箒が出現。その箒に前から母親、ティル、父親の順で跨った。そして、父親が唱える。
「ヴオ、エレア、エーレエ!家に帰宅せよ!」
箒は、人を乗せているとは思えない軽やかさで上空にふわりと飛んだ。小鳥達が周りに飛び交う中、箒はティル達の自宅方面へと向きを変える。ティルは後ろの父親に支えられながら前の母親につかまった。すると、箒が動き出す。ティルの目には、置き去りにされる小鳥達。ティルは雲ひとつない大空にこんな声を響かせた。
「わあー!お父さんの箒、はやーい!!」
(明日から授業!これから、1年頑張ろう!!)




