35時間目:友情への甘え
年越しが終わると、あっという間に冬休みは終わる。この日は三学期の始業式の日であった。朝早くに、ティルはリノの所へ行く。
「リノ、私ちょっと遊び過ぎたかも」
(冬休み、前のイテラリピティよりリノと一緒にいられなかったね)
リノは、あやふやな発音の声をティルに聞かせた。ティルの目が潤み始める。
(リノ、リノが私の事、お姉ちゃんって呼ぶの、聞いてみたいよ)
「う、リノぉ」
ティルの涙は、決壊した。その様子をグレゴリオが見かけた。
「ティル、三学期が嫌かい?」
(そうじゃないよ、お父さん。でも、言えない。そういう事にしよう)
「リノと一緒にいたいの」
ポロポロ流れる涙をティルは自らの手で懸命に拭きつつそう返した。グレゴリオは、腕を組みながらこう言った。
「うーん、でも、学校も大事だよ?」
「わかってるよ、お父さん」
「また送って行こうか?」
「大丈夫、1人で行く」
「そうかい」
グレゴリオの表情は緩んだ。その後、朝食等を経てティルは後ろ髪を引かれながら1人歩いて登校していった。
(さびしい、さびしいよ)
教室に入ると、エリンがいた。
「エリンちゃん!おはよう!!」
「おはよう!ティルちゃん!!」
「エリンちゃん、三学期も仲良くしようね!」
「急に何?ティルちゃん、今までも仲良くしてきたじゃん!」
「えへへ、そうだね!!」
(あと3ヶ月でこの教室の人は、私を知らない人になる。エリンちゃんだけ、エリンちゃんだけが、私を知ってる人になる。エリンちゃん、ちょっとだけ甘えさせて!)
それから、教室に入って来たモニカは、三学期最初の言葉を児童達にかける。
「皆さん、冬休みは楽しめましたか?今日から三学期が始まります。この三学期は、一学期、二学期より短いです。また、2年生になるための勉強もしていきます。皆さん、頑張りましょうね!」
ティルは、他の児童が「はーい」と返事する中、無言を貫いた。
そして、翌日からティルはじめ、メビラ学園の児童生徒達は、それぞれの教諭の授業を怒涛の如く受けていった。また、数少ない行事もこなしていく。
ティルは、その中で受けた身体測定で125センチまで成長したと言われ、試験では、再び満点となる答案を提出した。
(あと、2ヶ月)
「エリンちゃん!試験終わったね!!」
「うん」
「かーえろ!」
エリンは、そのティルの誘いに対する返答に躊躇した様子を見せる。
「エリンちゃん?」
「今日は1人で帰りたいの」
「えっ」
「なんか、三学期になってからのティルちゃん、しつこいよ」
「えっ」
沈黙が、ティルとエリンの周囲を包んだ。
「エリンちゃん、ご、ごめん。たまには、1人で帰りたいよね?」
「ごめんね、ティルちゃん」
エリンは、先に教室から出て行った。そんなエリンの背中が見えなくなるまで、ティルは教室の前から一歩も動けなかった。振り返って見れば、授業以外の時間、暇を見つけてはティルはエリンの元へ行き、無意味な会話を投げかけていた。
(エリンちゃん、私、甘え過ぎたみたい)
その日、ティルはとぼとぼと帰宅した。ふらふらとティルはリノの元へ。相変わらずのあやふやな発音の声で、リノは迎えてくれた。ティルはリノのつぶらな瞳を見つめ、エリンからの言葉を反芻した。
(学校に行けば、エリンちゃん。家に帰ったら、リノに私、しつこくしてたかも。甘えてごめん)
ホワンと光り、リノが眠ったのを見届けると、ティルは、自室へ行った。誕生日ケーキの空き箱を見つめ、目を伏せた。
(でも、もう、1人は辛いよ!でも、エリンちゃんにこれ以上、甘えられないよ!どうしよう?)
ティルは、懊悩の中、夕飯を経て就寝した。
翌日、ティルは登校する。そして、静かに着席した。それから間もなくエリンが教室へ入ってくる。エリンは一直線にティルの元へと来た。
「おはよう、ティルちゃん。昨日はごめん、嫌な事言っちゃった」
「私も、ごめん。エリンちゃんにしつこくして」
「あの、私が昨日言った事、忘れて?仲良くしよう?」
「大丈夫!エリンちゃんは友達だよ!だから、エリンちゃんの嫌な事、したくないから、しばらく私から話しかけない事にするよ。その分、エリンちゃんが話したい時に沢山お話しよう?」
「ティルちゃん、私の事、嫌いになった?」
「ううん!大好き!だから、エリンちゃんの気持ち、大事にしたいの!!」
「そう、よかった」
(エリンちゃん、これからはあんまり話、しなくなるけど、ずっと友達でいてね?)
それから、その日の授業が始まる。見知った内容を聞きながら、ティルは考え込んだ。
(多分、イテラリピティは止まらないよね。また、4月には入学式なんだろうな。その時、エリンちゃんだけに甘える私じゃ駄目だよね。何か、考えよう)
あっという間の三学期であった。最後の通常授業の教科は国語で、モニカは終了間際にこう言う。
「はい、皆さん、試験などで見ましたが、しっかり字を書けるようになりましたね。これから皆さんは2年生になりますが、2年生の授業からは自動筆記で字を書く事になります。1年生最後の授業は、自動筆記の呪文の練習です」
新たな魔法を使える事に、児童達は興奮した。そして、モニカはその呪文を書いた印刷物を魔法で児童1人1人に配布した。
「鉛筆を出しましたか?手に持ってください」
そのモニカの問いに、ティル達児童達は「はーい」と答える。
「では、皆さんついてきてください。エッセチエーレイ、ヴエ、エーレエ」
ティル達児童は、一斉にその呪文をゆっくり唱え始める。
「エッセチエーレイ、ヴエ、エーレエ」
すると、呪文が書いてある印刷物の上に鉛筆が浮遊し始める。児童全員が成功した事を確認すると、モニカは言った。
「皆さん、上手です!さあ、今日は好きな事を思い浮かべて念じてください。これこれこういう物を書きたいと」
自分や好きな物の名前、将来の夢など思い思いの事を書いていく児童達。ティルも一言だけではあったが、自動筆記にてこんな事を書いた。「大きくなりたい」と。ティル以外の児童達は、自分の魔法で初めて文章が書けた事に感動の声を上げた。そこで、授業終了の鐘が鳴った。
翌日、修了式が執り行われる。それぞれの児童生徒の教室の黒板には、学園長のイヴァンが映っていた。そのイヴァンは、こう話した。
「メビラ学園、正統魔法学部の児童生徒の皆さん、1年間の勉強は、どうでしたか?春休みは、そんな勉強の成果を復習する時間にしながら、休みでないと出来ない体験もしてみてください。では、よい春休みを!」
イヴァンの式辞が終わり、黒板は元通りになった。それを確認した後、モニカは言った。
「皆さん、1年間、よく頑張りました!次に登校する時は、2年生になりますね!新しく入ってくる1年生の立派な先輩になってください!勿論、私は皆さんの担任としてまた一緒に勉強します。まずは、春休みを楽しみながら、2年生になる準備も進めていってくださいね!」
児童達は、元気に「はーい」と返事をする。しかし、ティルだけは返事をしなかった。
(後輩に会いたいな。先輩になりたいな。きっと、無理だけど)
そうして、下校の時間となる。ティルは、教室を見回す。
(また、来月もよろしくね?この教室さん)
鞄を手に取ったティルに、エリンが話しかけてきた。
「ティルちゃん、今日は一緒に帰ろ?」
「うん!エリンちゃん!!」
いつもの通り、通学路を2人並んで歩くティルとエリン。他愛のない話をしているうちに、エリンの家へと繋がる脇道が近づいてくる。
(う、やっぱり、今だけ、ちょっとだけ甘えさせて!エリンちゃん!!)
性急に、ティルはエリンと手を繋ぐ。エリンは繋がれた手を見た後、首を傾げるが、すぐに笑顔を見せてくれた。
「エリンちゃん、春休みも、『次』の一学期も、友達だよ!」
「うん!ティルちゃん!!」
脇道が迫る。ティルは、エリンと繋がった手を一振り二振りした後、離れた。
「ばいばい!エリンちゃん!!」
「うん!ばいばい!ティルちゃん!!」
エリンは、脇道に入り、元気に歩いて行った。
「ばいばい、エリンちゃん」




