34時間目:年が変わる時に
ティルの誕生日から間もなくの事。12月、学校では二学期の試験が行われた。
(怒られたくないから、ちゃんと試験しよう。それに、試験に完璧な答えを書いて、傷つく人、いないもんね。歌のフェリシアちゃんみたいに)
ティルは、黙々と解答を間違えることなく書いていく。
(エリンちゃん、これ以上心配させないから)
そして、試験は何事もなく終わる。ティルは、思いっきり背伸びをした。
「あー!終わった!!」
思いのほか大きい声を上げてしまったティル。周りは驚いた。
「う、ごめん」
ティルは軽く頭を下げる。周りは、それぞれ笑顔になり、試験から解放された清々しい表情で思い思いに下校していった。ティルも下校する事にし、エリンに声をかけた。
「エリンちゃん!かーえろ!!」
「うん!」
そうして、動く歩道に一緒に乗った。すると、エリンが口を開いた。
「試験、大丈夫だった?」
「うん!夏休みエリンちゃんといっぱい勉強したから、全部わかったよ!!」
エリンは、ほっとしたような笑顔を向けてくれた。
「よかった!!」
ティルも、笑顔を返し、エリンとそれぞれの自宅へと帰った。
それから、10日程経った後、二学期は終業式を迎えた。ティルは、モニカより成績表を受け取る。モニカは言った。
「ラーナーさん、一学期とは比べ物にならないよい成績でした。満点なんて、頑張りましたね?」
「ありがとうございます、先生」
「これからの冬休み、宿題は忘れてはいけませんが、頑張った事のご褒美の時間にしてくださいね」
「はい!」
(先生、ごめん、頑張ってないんだ。だけど、冬休み楽しむね!)
その日、帰宅したティルは、手を洗うと一目散にリノの元へと行った。
「リノ!私、冬休み!!」
まんまるなリノの目が、ティルを見つめる。
「今日からずっと一緒だよ!」
リノの口角が上がる。そして、手足をバタバタさせた。
「うーん!かわいい!!」
ティルはリノの頭を撫でる。リノはホワンホワン全身を光らせた後、うとうとし、そのまま目を閉じた。
「寝ちゃった」
(部屋に行こ)
そうして、ティルは自室へと入り、鞄を下ろす。
「うー、また宿題の問題集、書かなきゃいけないんだった」
ティルは、眉間に皺を寄せる。また、口を尖らせながら問題集を取り出し、机の上へ。
(また、今日の夜やっちゃう?)
ティルのため息が、自室に消えていった。
その夜、ティルは机上の問題集を見つめた。
「うー」
そして、問題集を開いた。
(うーん、夏休みのようにエリンちゃんと宿題やってみる?)
問題集は閉じられた。
「うん!エリンちゃんとやる!!」
そう言った後、問題集を放置しティルは就寝した。
翌朝、ティルは挨拶もそこそこにこう言った。
「ね!宿題、エリンちゃんとやりたいの!だから今日、遊びに行っていい?」
グレゴリオもノエルも頷く。ノエルに抱っこされているリノは、無表情でティルを見つめた後、ノエルを見上げた。ティルはそんなリノを見て少々口を開けた。
(あ、だけどリノとは遊べない。わー、どうしよう。でも、言っちゃったから、エリンちゃんの所に行こ)
それから、家族で朝食を摂る。そんな中、グレゴリオはため息混じりに言った。
「年末の年越し、仕事が入った。せめて花火だけでも皆と見たかったけど、それも無理になってしまったよ。ごめん、ノエル、ティル」
「え?急に?昨日はそんな話なかったわよね?」
「今朝、起きた時に連絡が入ったんだ」
「そう、仕方ないわね」
ノエルもわずかなため息を漏らす。そんなノエルの胸の中にいるリノをグレゴリオは見て言った。
「リノと初めて過ごす年越し、楽しみにしてたんだけどね」
ノエルは、リノの頭を撫でる。グレゴリオは言葉を続けた。
「来年こそは、1歳になったリノと、年越し出来る事を祈って頑張ってくるよ」
「お父さん、うん!頑張って!!」
「ありがとう、ティル」
(お父さんに、前のイテラリピティは皆で花火見たよって言っても仕方ないよね。それに、リノは1歳になれないよ。うー、でも、今度こそリノが1歳になれるように私、祈りたい)
その後、グレゴリオは出勤し、遅れてティルもエリンの家に遊びに行った。
「エリンちゃん!宿題一緒にやろう?」
「ティルちゃん!うん!!」
そうして、エリンと宿題をやり始めるティル。エリンは、自らの問題集に向き合いながらも、ティルの方をチラと見た。
「ティルちゃん、解くの早いね?なんだか別人みたい、一学期のティルちゃんと」
「えっ?そう?が、頑張ったから!二学期!!」
「私もティルちゃんみたいになる!勉強頑張る!!」
「うん、一緒に頑張ろう!」
そんな勉強会も終わり、ティルとエリンはお人形で遊び始めた。その後、お人形遊びに飽きると、ティルは帰宅することに。
「じゃ、またね、エリンちゃん」
「うん!」
そうして、ティルはやりかけの宿題の問題集と共に帰宅した。
(残りは、今日の夜にやっちゃお。なんか、エリンちゃんと宿題やったら、気持ちが楽になった気がする)
その後の問題集に答えを書くティルの手は、どこか軽やかさがあった。そして、一晩で問題集は完成した。
ティルの冬休みは過ぎていく。そして、エスパランタ1535年も、最終日となった。昼過ぎにグレゴリオはこう言った。
「じゃ、いってくるよ」
「いってらっしゃい!お父さん!!」
「グレゴリオ、気をつけて」
グレゴリオは、ノエルの胸に抱かれているリノの頭を撫でつつ瞬間移動にて出勤して行った。
それから、ティルはノエルとリノと3人で年末の時間を過ごした。夕飯の支度の時間に差し掛かった頃、ノエルは静かにティルを見つめた。その視線にティルは気づく。
「お母さん?」
「1人で行けたらの話だけど、これから広場に行って来たら?」
「え?」
(行けるけど)
「私1人でお祭り?」
「うん。せっかくの冬休みなんだし、宿題も終わったんでしょう?私としては、ティルを遊ばせてあげたいのよ。リノは広場に連れていけないし、私が家でリノを見なきゃならないから、1人になっちゃうけど」
「うーん」
(私は、リノと一緒にいたいけど、お母さんがそう言うなら、行こうかな?)
「うん!遊んでくる!!」
「じゃあ、いってらっしゃい」
「いってきます!!」
ティルは、リノを抱っこしたノエルに見送られながら広場へと出掛けて行った。辿り着いた広場では、きらびやかな出店があったり、盛大な舞台での見世物が催されていたりしていた。その様は、ティルの目を楽しませた。
(リノと来たかったなぁ。赤ちゃんだから駄目なんだよね。でも、皆楽しそう!)
出店にて、ティルは夕飯となる食事を購入し、それを食べようと休憩スペースに移動した。すると、ティルは声を上げた。
「エリンちゃん!」
「あ!ティルちゃん!!」
エリンは、ユリウスとエマヌエーラと3人で広場にいたのだ。エマヌエーラが尋ねる。
「あれ?ティルちゃん、1人?」
「うん、お父さんは仕事で、お母さんはリノとお家にいるんだ」
ユリウスがそれに返した。
「そうだったのかい。もしよければ、一緒に遊ぶかい?」
「うん!」
それに、エリンは声を上げた。
「わー!ティルちゃんとお祭りだ!!」
「エリンちゃん!うん!!」
それから、ティルはユリウスとエマヌエーラに見守られながら、エリンと広場で遊んだ。やがて、年が変わる時間が来る。今までの盛り上がりが、静寂に変わる。すると、中年の男性の呪文を唱える声が聞こえた。
「ピイ、エーレオ、ティエチ、エンネイ、チア。上がれ!大空に大輪の花!!」
唱え終わると共に、年が変わり、花火がドーンと轟く。ティルは、エリンと「わー!!」と声を上げた。大小様々な花火がエスパランタ1536年の訪れを知らせる時間は、15分程度続いた。最後の一際大きな花火がこの祭りのフィナーレを告げる。すると、ユリウスが言った。
「エマヌエーラ、ティルちゃんを送って行くから、先に帰っててくれないか?」
「わかったわ」
しかし、そんな両親の会話を聞き、エリンが言った。
「ティルちゃんと帰る!」
ユリウスがそれに返した。
「こら。子供も夜更かししていい日だけど、もう遅いからエマヌエーラと帰って早く寝なさい」
「やだ」
エリンのその反応を聞き、エマヌエーラは、軽くため息をついた後、こう言った。
「わかったよ、エリン。4人で箒に乗って帰ろうか?ティルちゃんはユリウスが、エリンは私が箒に乗せて皆で1回ティルちゃんの家に行こう」
「いいの?お母さん!」
「いいよ。ユリウスもいい?」
「そうしようか」
ティルは、フレンツェル家の3人の顔を見渡し、こう言った。
「ありがとう、エリンちゃんとエリンちゃんのお父さん、お母さん」
ユリウスとエマヌエーラは、頷き、声を揃えて「エッセチオ、ピア」と唱える。出現した箒にそれぞれ跨り、エマヌエーラは言う。
「ほら、エリン」
「お母さん!」
それとほぼ同時に、ユリウスが言った。
「おいで、ティルちゃん」
「うん!お願い、エリンちゃんのお父さん!!」
ティルとエリンは、フレンツェル夫妻の箒に跨り、わずかな雲が流れる星空へと飛んで行った。やがて、ティルの家に4人は着いた。ティルは、箒から降りながらこう言う。
「送ってくれて、ありがとう!ちょっと待ってて?」
そして、家に一旦ティルは入って行く。間もなくノエルがティルを伴い外に出て来た。
「今日は、ティルによくしてくださって、ありがとうございました」
代表してユリウスが答えた。
「いいえ。娘もティルちゃんと遊べて楽しかったようですし」
「そうですか。エリンちゃん、ティルと遊んでくれてありがとうね!」
「うん!」
その後、フレンツェル家の面々は、ユリウスとエマヌエーラの瞬間移動にて帰宅して行った。
「改めておかえり、ティル。楽しかった?」
「うん!楽しかったよ!!」
(エリンちゃんと年越しできた!よかった!!)




